最後まで安らかに
ほのぼのしません。
ワシは、小崎稔。
84歳になったばかりなんじゃが・・・。
今、ベッドに寝ておる。
もうすぐ、お迎えじゃ。
今薬でなんとか楽になっとるが
もう、あちこち散らばっとる。さすがに駄目じゃ。
声も、もう出ん。
ま、悪くない人生じゃったかな。
出世レースも勝ち取った。
会社に入って、大企業の役員にもなった。
右を向けったら、目の前の奴ら、全員右向いたわ。
蹴落とした奴ら、ええ気味じゃったわ。
大宮、最後まで粘っとったが、北のほうにとばしてやったわ。
川崎、手強かったがワシの勝ちじゃ。
そういや、手紙が来とったの。
なになに。
ー 小崎、覚えてるか。平塚だ。
ー 俺は忘れん。
平塚?
ひらつか。誰じゃ。
ー お前のおかげで、俺の人生は滅茶苦茶だった。
ー 工場で起きた人身事故、責任取れと、退職を迫ったな。
ー 元々あれは、お前が指示・・・し、指示したものだ。
な、何を。
ー お前が根回ししたせいで、どこにも働き口がなかった。
ー お、お前はきっと、ち、違うと言うだろう。
あ、あんな前の事。な、何を今更。
ー お、お前の隠蔽工作は完璧だった。
ー 俺の住んでる街にも、あ、あらぬ噂を流しやがって。
ー 俺たち家族は、お前の根も葉もない噂に泣く泣く逃げた。
ー お、俺の妻はい、今でも病院だ。
そ、そんなの関係な、ないだろう。
し、知らん。知らん。
ー そんな中、お前が長くないと聞いた。
ー い、いい気味・・・いい気味だ。
な、ならいいだろう。
ワシは長くない。
そ、それでいいだろうが。
ー 俺1人なら、万歩下がっていいだろう。
な、なんだ。
ー 千葉、大塚、熊谷、船橋。
ー お、おおお覚えてるか。
し、し、ししし知らん。知らん。
ー みんな、お前を、おおお前を、忘れない。
く、苦しい、だ誰か。
はっ、はっ、はっ。
く、くそっ。
ー 思い出せ。な、何をしたか。
ー 全、全員、し、死んでも、ゆ、許さない。
グッ・・・胸が。胸が。
ー さ、先に行ってま、待つ。
ー あ、案内し、ししししてや、る。
ー じ、じじじじじ、地獄へ。
い、嫌だ嫌だ。
だ、誰かた、助け、助けて。
お、お前ら、お前らが。
わ、ワシの手柄になるはずのものを。
だ、誰じゃ。
部屋に入ってくるのは。
し、志帆子。
な、なにをしておる。それはワシの点滴。
痛みが、ぐっ。痛い。痛い、痛い。
な、なんだ、何が言いたい。
い、いい気味だ、と?
あ、あんたなんか、じ、地獄に落ちろ?
うまいもの食わせて、楽させたろう。
そ、それをな、なんだ。
痛い、痛い。あ、あ、ぐ。
知らん、そ、そんな男知らん。
兄?あ、あいつが。
いや、知らなかった。本当だ。
わ、私も追う?
か、確実に、地獄に、つ、連れて行くだと。
嫌だ。嫌だ。
さ、最後くらい、や、安らかに。
た、たの・・・
暗いです。
なりたくないものを書きました。