あくまのコップ1500えん(コメディー)
「あ、くまのコップだ!」
ある日、雑貨ショップで子どもが言いました。その手に取ったのは青地に白の、クマのコップ。しかもお値段は1500円です。たいしたクマ柄でもないのに、何て高いんでしょう。クマは意味もなく微笑んでいます。楽しそうに。白目をむいて。
子どもはひとり言を言います。
「うーん欲しいな。なんでか欲しいな。欲しいな欲しいな。欲しいったら欲しいな。どうしてだろう。どうしてこのクマは、何をボクに訴えかけているのだろう……訴えるといえば、以前停めておいたバイクがいつの間にかベンツになり代わり、上に駐禁の紙が貼ってあった日にゃ、ボクはベンツの持ち主をさがし出して『何駐禁貼られとんねん』って西の人風にツッコむべきなのか、それとも……警察に行ってかくかくしかじかだと説明して『そりゃアンタ駐禁の場所に停めとくのは悪いことだよ』と諭しツッコまれるのか―― どっちなんだろう……? 例えばだけど……」
と、好奇心旺盛な子どもは小っぽけな頭で深く考え、思い悩み、ついにそのうさん臭いコップをゴールデンカードで買いました。とてもはしゃぎ、喜んで持ち帰ります。
持ち帰って、子どもがスヤスヤと寝床についた、その夜です。
パリーン。
……誰も居ない台所で、あのコップはひとりでに台の上から転がり落ちて。割れました。
そう、……ひとりでに……。
お母さんの置き方が悪かったのです。
《END》
【あとがき】
大掃除してたら、発掘いたしました今作。
子どもってよく思考脱線しませんか?
あくのじゅうじか、なんてのも子どもの時に流行ってましたね。
そいでは、また来年【短編集2】にて。