ケガノビル(コメディー)
髪が伸びたなぁ……作者、頭を重く感じる日々。
夏が始まる前に切りに行こうかなぁと思っていたら夏の方が先に来てしまった。
もー秋が来るまで待つかな。
では、どうぞ。
男は走った。ビルの最上階をめざして。
非常用階段を駆け上がる。一段飛ばしでも構わない。息が切れても構わない。
何でもいいから上をめざせ。止まるな。止まれない。男は走る。
男の毛は伸び続けていた。
頭から。眉から。鼻から。耳から。腕から。足から。省略。
止めてくれ。誰かこいつを止めてくれと。
男は祈る。まだ階は5階。あと2階。まだか。まだなのか。
すでに自分の身体運動能力は限界を超えている。息は荒く、本当は一度足を止めて休みたかった。けれどダメなのだ。一刻も早く、という思いの方が強すぎて。足は動き続ける。
「ぐはっゴハァッ」
吐き出すように息をついてなおも前へ上へと駆け上がる。
段々と伸び続ける毛は、真逆に下へ下へと。重力に従おうと男の邪魔をして、垂れ流れていた……。
抵抗を受けて。それでもやがては辿り着く事ができた。
行き着いた果ては、鉄の汚く重そうなドアだった。自分の、存分に、自由に伸び続けた毛の集団に絡まれまくりながらも、かき分けてノブをひねる事に成功する。ドア自体は簡単に開いたのだった。
開けた視界。屋上だった。
一見、何も無いコンクリートの地面がめいっぱいに広がり、奥に手すりがあるだけの空間かと思ったらだ。
ポツンと、『救急箱』だけが地面のそこにあった。
「早くバンソウコウを!」
男は焦る。落ち着けと思いながらも箱の中からバンソウコウを。
右手の親指の先に巻いて貼った。「もう大丈夫だ。出血は止まるぞ、これで安心」
用の済んだ救急箱はフタを閉じられ元の状態に戻される。男は自分の毛の束を箱に挟まれまいとちゃんと気を遣っていた。
そして男は屋上を去った。ドアを閉める際に、伸びすぎた毛髪をしっかり屋内へと引っぱりながら。ズルズルルと。
「ふう。伸びてうっとうしいな……床屋へ行くか」
バタン。鉄のドアは、やっと閉まった。
自分の伸びた毛を地面に引きずりながらも。男は、これからエレベータに乗ろうとしている。
毛生え開発会社『ケ・テクノ』。実験中はトラブルが多い。
ケガをした場合は屋上に設置してある救急箱をご使用下さい。
男は書類の整理中、紙で指先を切っただけだった。
《END》
【あとがき】
あらすじを書くのが面倒だからという理由でココに放りこまれた話。
コメディーもココに増やした方がいいんでしょうか。いいような気がしてきた。むしろ書け。えー。
作者、一人漫才。