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 また怒られた。

 どうして僕はいつも怒られてしまうんだろう。


 閑散とした田舎の駅。僕は家路に着くために、駅のホームで電車が来るのを座って待っていた。

 電車が来るまで あと8分。田舎だから30分に1本しか電車が来ない。これに乗れなかったらショックだ。駅周辺には駐輪場と、片手を上げた少女がパンダと戯れている変な銅像しかないっていうのに。どうやってあと30分を過ごせっていうんだ。


 ……あー、携帯電話があったな。暇はつぶせるか。いや、まあ、それはそれとしてだ。


 僕は落ち込んでいる。バイト先のパートさんに怒られたせいだ。


 僕は雑貨ショップのレジを任されていた。バイトを始めてまだ3日目。レジを打つのに必死で、あんまり気持ちにも周囲にも余裕はない。

 ちょっとレジに お金をしまい忘れただけで、勤続6年にもなるらしいパートのおばちゃん、蟹本さんが見つけて怒ってカンカンだった。

「お金に失礼よ! 英世さんに謝りなさい!」

 訳のわからない事を言う。

 僕が悪かったよ。もうそんでいい。


 僕はため息をついて荷物のリュックを抱えた。何だかイカ臭い。何故だろう。


 ああ、湿気が多いからかな。6月だしな。梅雨どきで、雨が最近よく降る。蒸し暑い。きっと汗っかきの僕だから、汗染みたリュックが腐ってんだろう。イカのにおいじゃないな。今度はイカに失礼を働いた。謝ろう。僕が悪かった。


「はあ……もうダメだ」


 嘆きでいっぱいだ。どんよりとした曇り空。堂々と人の迷惑おかまいなしに煙草をベンチの側に立ってスパスパ吸っている、スーツを着たサラリーマン風のおじさん。

 僕が暗い気持ちになるのを応援しているかのようだ。


「ん?」


 気がついた。

 僕が座るベンチと、数歩先に伸びる白線との間に。

 一匹のアリが居た。


 アリは大きめの体をしており、ウロチョロウロチョロとさ迷っている。

 一体、何処に向かおうとしてんだろうか、と……。


 ジッと見守り続けていたら、アリはお菓子の小さいくずみたいなのを見つけて、それをヨイショと運び出したではないか。


 たった一人で……いや、一匹で?


 アリって集団で連なって活動したりするイメージがあったけれど、そうだな、単独で行動する事もあるかもしれない。

 よく見ると、自分の体と比べたらくずって大きくないか?

 凄いなぁ、きっとアリ世界では重いんだろうに……。


 なんて。

 適当な事を考えていたら、不思議だな。僕は微笑んでいた。

 どうやら目の前で一生懸命に食糧を運ぶアリを見て、元気が出てきたらしい。

 僕も頑張らなきゃ、って。


 アリは冬を越すために今から食糧をためるんだ。冬のために。未来のために。


 そうだな。

 こんな事でクヨクヨしてたって仕方がない。まだ僕はこれからじゃないか。

 バイトは、これから続けていくんだから。


『一番線に、電車が……』


 アナウンスが流れた。しばらくしてから電車が来て、ホームに入ってくる。


 アリのおかげで暇がつぶせた上に元気をもらったな。

 ありがとう、アリ。

 僕は感謝した。


 そして僕が立ち上がろうとする前に、側で煙草を吸い終え足元に捨て、足で踏みつけて火を消したおじさんが僕の前を通過して行った。

 

 アリの食糧、おじさんに蹴られる。


 数メートル先へと、飛ばされていった。



 ……そんなぁ。


雪名井(せつない)駅〜雪名井(せつない)駅〜』


 プシューッと激しい音を立て、電車の開いたドアからまばらに人が降りてきた。

 もちろん、電車に乗る僕。


 やがてドアは閉まり、ゆっくりと電車は走り出した。

 遠ざかるホームの景色。小さなアリの体なんて見えるはずがない。



 きっと探せば見つかるよ。

 食糧も未来も。


 いつの間にか、雲と雲の隙間から太陽の光が。


 頑張れ、アリと僕。



《END》




【あとがき】


 えーっと。


 3割 実話です。



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