おもちゃ箱チャーリー(童話)
黒くない。
ぼくには秘密があるんだ。ママも知らない素敵な秘密。
ぼくにはね、誰も知らない特別な友達がいるんだよ。
名前はチャ−リー。目には見えないんだ。透明なんだよ。
ぼくが気の病に侵されてるって? 違うよ。
だってホラ。おもちゃが宙に浮いているもの。もちろんタネも仕掛けもない。
ぼくが小さいボールをポンと投げれば、チャーリーはちゃんとキャッチして投げ返してくれる。
白い紙を広げれば、見えない手でクレヨンを持ってぼくの描いたへタクソな絵の横に描き足してくれるんだ。
姿は見えなくても実際にチャーリーが動かした物は目に見えているんだよ? これが気のせいだと本当に思う?
でも誰にも言わない。言っちゃいけない。ママはびっくりして腰を抜かしてしまうから。
チャーリーは日が沈む頃になると、おもちゃ箱の中へ帰ってしまうんだ。
「じゃあね。マモル。ボクはそろそろ帰らなくちゃ。ママが心配するからね」
そうチャーリーは言う。
「淋しいよチャーリー。……明日も来てくれる?」
すぐにチャーリーは答えてくれた。
「もちろんさ。でも約束してね。必ずボクが帰ってしまった後は、広げてしまったおもちゃのお片づけをするんだよ? 全部箱の中に戻すんだ」
「うん。必ずお片づけをするよチャーリー。だから心配しないで。ぼくは“イイコ”なんだから」
チャーリーがおもちゃ箱の中へ帰ってしまうと、ぼくは箱の中へ手に取ったおもちゃを投げ入れてお片づけをする。面倒だなあと思うけれど、チャーリーとの約束は絶対に守るんだ。破らないよ。
だってチャーリーが言ったんだ。
「約束を破ったら、もうマモルとは遊ばないからね」
次の日。ぼくはおもちゃを箱の外へと放り出す。今日はチャーリーと何をして遊ぼうか。
電車のレールを繋げようか、ブロックでお城を作ろうか。ねえ、何して遊ぶ? チャーリー。
……でもいつまで経ってもチャーリーは、やって来なかった。
ぼくは機嫌が段々と悪くなって、しまいにはすねてしまったんだ。
「チャーリー……」
体育座りになって、おもちゃ箱をずっと見ていた。何の返答もない。
淋しいよ、ママ……。
いつの間にか、寝てしまった。
目が覚めたら、ママがいた。
「目が覚めた? マモル。泣いていたの?」
ママの優しい顔。「ママ」
ぼくはママにすがるようにしがみついた。ママはニコニコと笑っていた。
「さあ帰りましょうか地球へ」
「え?」
地球?
ぼくはキョトンとしてママの顔を見上げた。
「そうよ。マモルは地球で生まれて、ママがここに連れて来たの」
そんなことをママが言った。ぼくは驚く。
「どうして? ぼくはずっと一人で、淋しかったんだよ?」
「ごめんねマモル。わけがあったの。でも もうそれもおしまい。マモルはこれからお友達をいっぱい作って、お遊戯やお絵かきをしたり、お歌を歌ったりするのよ。もうマモルは淋しがることなんてないの。ママがずっとそばにいてあげる」
本当に?
ママと一緒にいられるの?
ぼくが首を傾げて疑わしい顔をしたからか、ママはクスリと笑ってぼくの頭を撫でた。
「ずっと一緒よ。さあ早く、あのおもちゃ箱みたいな地球に帰りましょう」
ママに連れられて。
ぼくは『ロケット』に乗って、星を飛び立った。
ここは何ていう星だったんだろう。でももういいや。
ぼくがきっと大人になったら、全部わかることなんだ。きっとそうだよ。
チャーリー、ごめん。
本当は君に、お別れを言いたかった。でも、言えなかったね。
いつか、また。
僕はここへ遊びに来るね。バイバイ、チャーリー……。
……。
……
……荒廃した星に取り残されたチャーリーは思う。
かわいそうな子どもたち。
力のコントロールができない子どもたち。
マモルは手を使わずに物を動かせた。
聞こえるはずのない声が聞こえた。
チャーリーは本来、物を触れないし声も発せられない。
マモル、全ては君が自分で。
チャーリーという者を作り上げてしまったにすぎないんだよ。
でももうそれも終わり。
君が超能力を使える時代は終わりを告げた。
もう地球でママを困らせることはないんだよ。
君には本当の友達と未来が、
あの青い宝石箱にいっぱい詰まっているからね……。
《END》
【あとがき】
前題『おもちゃのチャーリー』。
おもちゃじゃないなぁと気がつき改題。
最近は黒い話を書くが多く。この話は黒くはないなと思ったらここにポイと。そこが黒い。
意外性がないのでここ行きになりました。お眠りなされよし。ゴーン。
ありがとうございました。