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福笑い(無ジャンル)

 現代の子供たちは、『福笑い』を知らないらしい。

 用意するのは のっぺらぼうの顔が描かれた一枚の紙と、目・鼻といった絵が描かれ形にそって切られた各パーツ。一人が目隠しをして、顔がちゃんと人間の顔らしくなるようにパーツを並べて遊ぶのだ。周りの子に「そこじゃないよ、もっと右」と教えてもらったりして完成させる。意地悪な子は嘘を教える。完成した後、目隠しをとってみると口が額の所にいっていたりして変な顔が出来上がってしまったりする。

 そんな正月遊びだった。


 さて、説明を終えた所で。こんな話をひとつ。



 高島由紀夫は毎日、通りかかるたんびに顔のパーツを落として困っている女を見かけていた。

 ココは深緑公園。敷地面積は大きく、レンガが規則正しく並べられて出来た道や、明治の文明開化を思わせるような作りの外灯。公園自体の歴史は古かった。でも綺麗に市に管理されている。

 時刻は夜7時。高島は会社帰りの途中でこの公園内の道を通る事にしているのだ。少しでも近道を、と思っていた。

 そこでいつも。

 道に沿って4人掛けほどの長さのベンチが転々と並んでいる、そこ辺りにいつも。

 背が高めで、白いワンピースを着ている女。年はまだ若いがわからない。名前も知らない。

 というか、いつも顔の何処かのパーツが無い。

 キョロキョロと地面ばかりを見て探し物をしている素振りだったので、高島は察しがつき話しかけてあげた。


「もしもし。コレですか?」


 高島は、たまたまベンチの横に落ちていたのを見つけた『鼻』のパーツを拾い、女にさし出す。女の顔は明るく、パッと瞳を輝かせた。とても嬉しそうに高島を見た。

「ありがとう! なくしたと思ってとても困っていたの! 交番に行こうか迷っちゃった」

 高島はお礼を言われ、よい機会に聞いてみる事にした。

「どうしてそんなにパーツを落とすのですか?」

 すると女は、はあ〜……と深々とため息をついた。「それが」

 ベンチの上に置いておいた自分のカバンから、『何か』を取り出し高島に見せた。

「のりでくっつけているんですが。すぐとれてしまって」

 『何か』とは、何処でも普通に雑貨屋で手に入る、何の変哲も無い スティックのりだった。

 高島は「ははあ」と頷く。「そんな安物で済まそうとするからですよ」

 今度は高島が、自分のカバンから『何か』を取り出し女に見せた。

「私の会社で作っているコレを差し上げます。どうぞ」


 高島は自社開発製品『くっつくくん』を女にあげた。


 見た目はスティックのり。ただし従来の物よりかなり強力だ。入れ歯につけたら絶対とれない。

『くっつくくん』を渡された女は、さらにもっと喜んで飛んだ。飛び跳ねた。

「いいんですか! ありがとうございます!」

「さっそく使ってみたらどう」

「そうですね」

 女、高島の言う通りに。




 後日、また公園で高島は女と再会する。何と女は高島を待ち伏せて、気に入った『くっつくくん』を10ケース注文したいと言った。


 そうして高島は顧客をゲット。ただし妖怪。


 後日、感謝の言葉と共に結婚・出産の知らせまで書かれた絵ハガキが高島まで届く。

「そうか。結婚したのか。よかったな」

 自分の家に居た高島は、絵ハガキをそっと自分の机の引き出しにしまった。

 もうパーツを落とす事も無いだろう。高島は微笑ましく口元がほころんだ。


 子供も、パーツを落とすんだろうか。そんな事を考えた。



《END》




【あとがき】

 お、ちょっと明るい話だ でもボツ。

 何故か?

 作者、含み笑いの方が好きなので。……違うか。



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