(2)
最初の囲いを突破した後手頃な家に逃げ込む。戸はわざと開け放ったままにしておいた。
奴らが一度探した家を再度探す知恵がない事を祈りつつ、しばしの休息をとり乳酸がたまり重くなってきた身体を投げ出す。
既に十匹以上は、オークを切っている。
剣はあちこち歯零れし、最初の切れ味はもう望むべくもなく、着ている服と鎧は返り血で、前から見れば赤い服を最初から着ていたとでも思われるだろう。
オークの群れは、当初思っていたよりも大きくさらに統率もとれている。
強い者に弱く、弱い者に強いのがオークの特性だ。
それが明らかに、自分達よりも技量が上回るカイルやルークに挑んでくるのだから、キングはかなり優秀なのは確かだろう。
(これだけの大群の中を切り抜けるのは難しいな。となりゃキングを叩くのが一番可能性があるんだが)
キングを倒せば群れは四散して分裂するが、居場所がわからないと挑む事もできない。
しかもキングとなれば、雑魚のオークとは比べものにならない強さとなる。
果たして、既に疲れているカイルとルークが倒せるのかは、神のみぞ知ると言う事だ。
ほぐす様に肩を回し背中の赤ん坊に手をやると、赤ん坊はすやすやと寝息を立てていた。
「こんな騒ぎの中でも寝るたぁ大物になるぜ」
ク~とルークが相槌を打ち、声を出さないようにカイルは笑った。
(さあてどうしたもんかね)
ルークの背中を撫でながら思いを巡らせる。
背中に置いた手に力を込めこう告げた。
「死んでくれるか?」
周辺にオークがいない事を確かめて、ルークは隠れている家を飛び出す。
慎重に、出来るだけオークに見付からないように家から離れ、村全てに聞こえるように咆哮する。
こちらを完全に見失っていたオークが、ワラワラとその方向に向かっていく。
カイルは隠れ家から、どの方向からどれくらいの数が向かっていったか、装備はどうかと注意深く観察していた。
陣形の事などカイルはわからなかったが、長年の傭兵暮らしで僅かな違いを敏感に感じ取る事が出来た。
それによって大将首をあげた事も数度ある。
東から来た一団に違和感を感じる。
身のこなしと、統率された動きは他の雑魚とは、違う雰囲気を醸し出している。
一団が通り過ぎるのを待って、カイルはその方向に走り出す。
(キングを見つけて倒すのが先か、ルークがやられるのが先か!簡単にやられるなよ!)
キングを探す道中で、何匹かのオークと出会うが仲間を呼ぶ間も与えず倒す。
「何処にいやがる!」
焦りは募る。いかにルークが強かろうと、体力は無尽蔵にある訳ではない。
中には使い魔を捨て駒にしても何とも思わない召喚術師もいるが、カイルとルークは既に数多くの死線を共にくぐり抜け、カイルはルークを信頼しルークはカイルを信頼してくれている。
死んでくれるかとは言ったが、それは自分の為に囮になって死んでくれるかという意味ではなく、共に生きる可能性の為に、命を賭けてくれるかという意味である。
路地を抜け、村の外れに出る。
目の前に大きな十字架を屋根につけた大きめの建物が見え、その周りを数匹のオークが闊歩している。
人間狩りの斥候ではなく、その建物を警護しているようだ。
カイルはそれを見て、最初の賭けに勝った事を悟った。
瞬く間もなくオークを切り伏せ、両手で扉を開け宣言した。
「豚に人間様の神なんざ必要ねえだろ。お前に相応しい肥えだめに送ってやるぜ」
そこには数匹のオークとともに、明らかにふたまわりは大きいキングと思わしきオークがいた。