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狼竜物語  作者: レオ
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一章 出会いと別れ

 森の奥に入れば、昼でも鬱蒼とした木々に光は阻まれ薄暗い。

 

 初めて踏み入れる場所には赤い布を巻き、これから進む方向を書き込む。

 

 カイルは、細心の注意を払って森の奥に進んでいく。

 

 腰に下げた剣の重さを感じながら、カイルは懐かしさを感じていた。

 

 今は、探索の時の護身用としてしかつける機会はないが、昔は毎日のように剣を抜き時には人の命を奪った。

 

 召喚術師の傭兵として生きた若かりし時を思い出し、俺も歳をとったもんだと独りごちる。 

 

 昔は傍らに相棒のシビルタイガーがいて共に闘っていた。その相棒を失った時、召喚術師としても傭兵としての生き方も捨てた。

 

 召喚獣が亡くなれば契約は切れるから、新しい召喚獣と契約する事も出来たが、カイルはそれを選ばなかった。


 相棒のシビルタイガーと共に守った幼い赤子、共に闘った最後の戦闘を思い出す。


 傭兵時代敵の命を奪う事に、痛みも憐れみも感じなかった。

 

 自分が属す軍が、敵対していた国の村を焼き払い、男共は嬉々として女を犯し男を殺す。そんな凄惨な場面をみても、カイルは何も感じなくなっていた。

 

 全ては金の為、そして己が生きていく為だと割り切っていた。 

 

 部隊の後方で、断末魔の叫びが聞こえても「また一人殺したのか」とぐらいしか思っていなかった。

 

 だがその断末魔の叫びをあげたのは、自分の属する部隊の兵士だった。


 魔獣の群れの急襲

 

 火を見て興奮したのか、カイルの軍は魔獣の群れから攻撃を受けた。

 

 そんな大きな群れを見張りが見逃したのは不思議だが、見張りも略奪に参加していたのかもしれない。

 

 戦場では、たとえ敵の物を奪ってもお咎めはない。むしろ早い者勝ちで、給金の少ない兵士達の中には、その為に戦場に出て来る者もいるくらいだ。

 

 カイルは魔獣の存在に気付くと、近くの家に逃げ込み身を隠した。


 答えは簡単だ、金にならないからである。


 雇われているのは、敵国の人間を倒す為であり魔獣の討伐は契約に入っていない。

 

 人間の軍を襲う程の魔獣の群れなら強さも相当だろう。そんな者と何が悲しくて命を賭けて戦わねばならないというのだ。

 

 兵士の悲鳴が聞こえるが、契約が終われば明日には敵になるかもしれない人間を、仲間とも思えなかったし助けてやる義理もない。 

 

 仲間は傍らにいるシビルタイガーのルークだけで十分だ。 

 

 使い魔となった召喚獣に、名前をつけるのは珍しい事ではない。

 

 腕が無ければ、最前線に投入される傭兵などすぐさま命を落とす。

 

 カイルが、これまで傭兵業をやって来れたのもルークの存在が大きい。

 

 シビルタイガーを使い魔としている召喚術師など滅多にいないので、仕事に困る事もないし従順で常に側を離れず戦場ではカイルの後方を守る。

 

 命を救われたのも一度や二度ではない。 

 

 そんな相棒に目をやると、しきりに箪笥にフンフンと鼻を鳴らしている。


 「なんだ食いもんでも入っているのか」

 

 箪笥を開けて中を見たカイルは、我が目を疑った。

 

 そこには衣に包まれ、すやすやと眠る赤子がいた。親がここに赤子を隠して逃げたのだろうか? 

 

 見なかった事にしてそっと箪笥を閉めようとしたが、箪笥が閉まらないというより腕が動かない。


 ルークが腕を噛み閉めるのを阻止している。


「ルーク放せ。こんなお荷物抱えるのはごめんだぜ」

 

 だがルークは一向に、放す気配を見せない。普段は聞き分けのいいルークが、カイルの言うことを聞かないなど初めての事だった。


「お前こんな赤ん坊を連れていけってか?」


 その言葉にルークは、カイルの腕を解放する。

 

 シビルタイガーは、人語こそ話せないものの知能は高く、言葉の意味をある程度理解する。


 赤子を置いてその場を離れようとすると、ルークが服を噛みそれを阻止し、その意思は明らかだった。

 

 根負けしてカイルは諦め、布で赤子を背中に固定する。


(戦場を赤子を背負って戦う傭兵か・・・様にならねえな)


 窓を慎重に覗き敵の存在を確認する。

 

 外にはボロボロの布を身体に巻き、醜悪な豚の頭を乗せた生き物が闊歩している。

 

 味方はあらかたやられたか逃げたかで、その姿を見る事は出来ない。


「ちっオークか。こんだけでかい群れだと率いているのは並の奴じゃねえぜ」

 

 普段オークという生き物は、カイルにとって脅威とはなりえない。

 

 だが、オークキングという稀に産まれる突然変異種が率いるのなら話しは別だ。纏まりのなかったオークが、まるで別の軍隊と化すのである。


 選択は三つ。


 このまま隠れてやり過ごす。


 見付からないように逃げる。


 頭のオークキングを倒す。


 考えを巡らせるが、それよりも早く家のドアが音を立てる。カイルは息をのみルークは警戒体勢ををとる。


 いくら強力で大型の魔獣であろうと、相手が一匹なら隠れるのも逃げるのも、カイルにとって難しくはないだろう。

 

 だがオークの体格は人間とかわりない。家に入って来るのも容易で、全ての家を探るのであれば隠れる場所はない。

 

 ドアに嵌めている止め木がミシミシと軋み、破られるのも時間の問題だ。

 

 カイルは無言で相棒に合図を送り、剣を構える。

 

 ベキッという嫌な音とともに、止め木が弾け飛びドアが開く。


(二匹!)

 

 カイルは、一瞬で左にいたオークの首を剣で跳ね飛ばし家を飛び出す。

 

 右にいたオークがこちらを向いて剣を振り下ろそうとしたが、真上に剣をあげたまま血へどを吐きその場に崩れ落ちる。


「敵は一人とは限らないんだぜ」

 

 背後からオークを貫いたルークの牙から血が滴り落ちている。

 

 カイルとルークが良くやる手で、タイミングとコンビネーションが大事だが、一人と一匹はお互いを信頼し阿吽の呼吸でそれをやってのける。

 

 視線を巡らし状況を確認すると、どの方向にもオークの姿が確認できる。


 オークもこちらに気付き、仲間を呼ぶ唸り声を上げた。


「奴らが集まって来る前に逃げるぞ」

 

 カイルはそう叫ぶと、敵影が薄いと思われる方向にルークと共に駆け出す。

 

 その場に留まり戦うのは得策ではない。囲まれてしまえば、いくらルークとのコンビネーションがいいといってもじり貧になるだろう。

 

 それに今は、余計な荷物を背負っている

 

 腕に前をふさぐオークを切り伏せた重さを感じながら、相棒のルークと共にカイルは疾走した。

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