自殺願望
私は今、廃ビルの屋上に立っている。
死のうとしているからだ。
理由は一つ。
失恋。
しかも、二股をかけられて捨てられた。
高校三年生にして初めてできた彼氏。
きっとこれから
デートとかたくさんして
キスとかエッチとか、今まで漫画とかでしか見たことなかったようなことを
自分もしていくんだろうな…なぁんて。
期待に胸をふくらませて妄想ばかりしてた。
でもそれは
何一つ叶うことなく。
『別れない?』
たった一言のメールで
私たちは終わった。
「…児島くん、ずっと…大好きでした…ううん。今でも好き…」
空に消えていく
小さな小さな独り言。
「なんで…二股かけられてて…捨てられたのに、なんで嫌いになれないんだろう……。児島くん…どうせ捨てるなら、突き放すなら…あなたを嫌いになる方法も一緒に教えてよ……」
まだ好き。
唐突に訪れた別れと裏切りを
受け入れることも
納得することも
何もできていない。
児島くんに嫌われたくなくて
面倒な女だと思われたくなくて
別れ話を持ち出された時
頷いた。
けどできるなら
泣いて暴れて駄々こねて
あなたの隣にもう少しだけいたかった…。
一歩ずつ前に進む。
フェンスがないから
このまま行けば落ちるだろう。
私が死んだら
流石に児島くんだって罪悪感くらい覚えてくれるよね?
それで
私のこと一生忘れないでくれるよね…?
ガチャ…
そのとき
後ろのドアが開いた。
振り向くと
そこには黒い服に黒縁の眼鏡、黒髪に黒い靴を履いた男が立っていた。
「…鏑木、巳月さんですね?」
「はい…あの、誰ですか?」
「僕は小鳥遊と申します。皆からは"タカナシ"と呼ばれていますが」
こ、小鳥…さん?
私にこんな知り合いはいない。
なんとなく警戒しながら
彼を見ていると
「鏑木さん、あなたはやり直したいことがあるのではないでしょうか?」
「え…」
唐突にそんなことを言った。
「私ならあなたのその願いを叶えることができる。」
「叶えるって…やり直させてくれるんですか?」
「はい」
「え、あの、どうやって?」
「時間を操作します。」
その男の返答に
思わず唖然とした。
時間を操作って…
そういえばこの人
全部黒いし
中二病的な何かなの?
半分呆れつつ
彼への警戒はほとんどなくなっていた。
「そんなこと、できたら素敵ですね」
「できますよ?」
「…じゃあ、やってみてよ」
失恋したことで
思考は雑になっていた。
やれるならやってみて?
そんなノリ。
だから私は、考えてもいなかったのです。
これから
私の人生が大きく変わっていくなんて。