表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/92

8、ハイエルフ

前半、少しシリアス展開です。

 



 私が生まれたのは、ガラハド大森林帯の深奥部にあったハイエルフの王国だった。私は中位精霊のドライアードとハイエルフとのハーフ。そんな異端な私を国王様は、喜んで受け入れてくれた。精霊とハイエルフの間での奇跡だってね。色々とあったけど、王妃様のお付きとしての仕事もいただいて平和に暮らしていたわ。


 でも、長くは続かなかった。ある日突然、魔物の大暴走によって、王国は襲われたの。たった10日で王国はなくなってしまったわ。今から300年も前の話よ。沢山のハイエルフたちが死んでいったわ。生き残った人たちも皆、散り散りになってしまった。


 私は、生き延びた国王様、王妃様、それから護衛の人たちといっしょに、内輪部にあるエルフの集落に逃げ延びたの。エルフにとってハイエルフは崇拝の対象みたいでね。みんな歓迎してくれたわ。最初のうちはね……。


 エルフたちは、私たちハイエルフの身の回りの世話を懸命にしてくれたわ。こちらが申し訳なくなるくらいに……。国王様と女王様は、そのお礼として、エルフの集落の回りに結界を張ったの。内輪部の魔物を寄せ付けないように……。


 けど、その結界を張るためには、エルフの集落にある世界樹と同化する必要があったの。簡単に言うと、世界樹の中で眠りにつくようなイメージかな。魔力を世界樹に注いでね……。ハイエルフたちは交代で世界樹と同化して、結界を張り、集落を守ってきたの。エルフの人たちにはとても感謝されたわ。そう……最初のうちはね……。


 長い年月が経つうちに、その結界を張ることが何時しか、当然のことのようになった。それでもハイエルフたちは自分たちが受け入れてくれたことを感謝として結界を張り、世界樹と同化し続けたの。でもね、たとえエルフと比べても長い寿命を持つハイエルフであっても、同化を続けることに限界が来たの。


 世界樹と同化していたハイエルフたちは、同化の眠りから目を覚まさなくなったの。そして、世界樹と一つになっていったの。一人減り、二人減り……ついには、国王様と王妃様、そして、私だけになったの。私は半樹精ということもあって、同化することができなかった……悔しかったわ。これほど、無力感を感じたことはなかったわ。


 そんな時、アイリーン様がお生まれになったの。国王様は悩まれたわ。このままこの集落に置いておけば、また同化を強要されるのではないかと……。王妃様は言われたわ。生まれてくるこの子には、自由に生きてほしいと……。そして、お二人が、世界樹に同化し、眠りにつかれる前に、私をお呼びになられた。そして、アイリーン様を頼むと言われたの。それが17年前の話よ。


 生まれて間もないアイリーン様を抱え、森を彷徨ったわ。そんな時、バラガとガンファの兄弟と出会ったの。そして、出来たばかりのガート村に誘ってくれたの。これが、私とアイリーン様がこの村へ来た理由。まぁ、その後も色々あったけど、今はここで魔術師として生活しているわ。


 あぁ、この話をしたのはバラガとガンファ以来だわ。ふぅ……喉が乾いちゃったわ。


 そこに、お茶っ葉があるから、お茶入れてくれない?



 †



 言葉もなかった。あまりにもスケールが大きすぎる。しばらくは、その内容を整理するのに完全に固まっていた。そして、マールさんが入れてくれたお茶を一口飲んで、やっと深いため息をつくことが出来た。


「お茶も入れられないなんて、異世界人もだらしないわね。」

「あははは……面目ない。火打石なんて使ったことなくて……それに、どうも勝手が解らなくて。」

 マールさんは呆れた顔をしながら、火打石に似た石ころを目の前に持ってきて、何かする。すると、石ころからはマッチほどの火が灯った。


 その不思議現象に目を丸くしていると、

「火付け石の使い方は異世界では教えてなかったようね。やっぱり異世界人なのね。」

 さらに、呆れた顔をされた。しかし、しばらくすると、真剣な顔で続ける。

「さっき、私たちの事を話をした理由を聞いたわよね?それは、貴方が異世界人だからよ。

 ハイエルフの国が魔物に襲われたって話は、さっきしたわよね?ハイエルフの国を襲った後、

 魔物たちは森の外、人間の国に向かったの。それを退治したのが異世界人だった。」

「そんなすごい異世界人もいたんですね。」

「ええ。実際すごかったらしいわ。異世界人は特別な力がある。貴方を見て、確信できたわ。」

 強い眼差しでこちらを見つめてくる。俺は、正直、どうすればいいか解らなかった。

「買いかぶりですよ?確かに俺には特別な力はあります。あなたのステータスを見抜いたような。でも、それ以外は何も知らないただの小僧ですよ?それこそ、お茶も入れられないような……」

 他の力は、今は言わなくてもいいだろう。これから何があるか解らない。

  

「今はそうかもね。でも、いつまでも小僧のままじゃないでしょ?

 貴方には、アイリーン様を守ってほしいの。いいえ、違う。味方でいてほしいの。」


 アイリには、色々と世話になっている。ガンファにも……。ただ、今の話を聞いた後では、自分の力はあまりにも小さく感じる。それに、俺には関係ないと逃げることだって……いや、それはできないな。自分の気持ち次第だ。相手は、俺を欲してくれている。じゃあ、それに応えるのは……


「あー、いいわよ。別に、『初キスがオッサン』とか言いふらさないし~♪

 絶対、言わないよー。本当だよー。私、口固いもんー。……ジー」


「味方、やらせていただきまっす!!今後ともよろしくお願いしまっす!!」

 うん。やっぱりこの人は悪女だった。



 †



 ガンファの家に帰った時、辺りはもう暗くなっていた。なんと、アイリは夕食も取らずに、俺の帰りを待っていたらしい。なんて健気でエエ子なんやぁー。


 俺は、マールさんにも自分の正体をバラしたことを二人に告げる。ガンファは納得したようだったが、アイリはキョトンとしている。そりゃそうだろう。アイリはあの事(・・・)を知らないんだから。


「でも、いきなりマールさん、どうしたんだろ?ユウマさん。そのマールさんに、その……えと、何も変なことされなかった?ベタベタ触られたとか……その……ごにょごにょごにょ……」

 とんでもない勘違いをしているみたいだ。確かにそんな展開があったら嬉しかったのだが、残念なことに、何にもなかった。トラウマを抉られた以外は……


「大丈夫だったよ。すごい勢いで連れていかれた時は焦ったけど、なんでもハイポーションの出来がいいからその秘訣を教えろって、しつこくってな。適当にはぐらかせて帰ってきたよ。」


 それを聞いて、アイリはホッとするような顔をして、改めて置いてあったハイポーションを眺める。


「でも、本当にできちゃったんだよね。ハイポーション。本当にすごいことだよ!

 もう父さんの腕前抜いちゃったんじゃない? あはははははは。そんなことないか~。

 ねぇ?父さん?」


 ガンファは親の仇のように俺を睨んでいる。……知らんがな。


 その後、アイリと夕食を済ませ、アイリが自分の部屋に行ったのを見計らって、ガンファの所へ行く。


「マールさんから、アイリの事情を聞いたよ。エルフの集落のことも……

 なんで、ガンファがアイリの父親やってるかは聞けなかったけどな。」


「そうか……。」

 ガンファは短くそれだけ言うと、俺に背を向けボウガンの部品の手入れを始める。


「えーと……それだけ伝えたかったんだ。」

 俺は、自分の寝室へ向かう。

「あ、それから、もう一つ伝えることがあったわ。

 マールさんと約束したから。……アイリの味方でいるって。  それじゃ、お休み」


 ガンファの背中が小さく震えているような気がした。



 †



 寝室に入ると、今日知り得たたくさんの情報を整理していく。正直、お腹いっぱいだ。今後どうするべきなのか。今はただ、状況に流されているだけなのかもしれない。今は、できることをやっていくしかない。できることは限られている。なら、それに全力で取り組めばいい。シンプルに考えろ。シンプルに……。


 アイリの味方でいること。この世界に来て、数少ない知り合いだ。力になれるなら力になりたい。そのためには強くならないとな。魔物から守ってやれるくらいに……。


 俺はベッドに寝そべりながら、なんとなく指から【鋼糸】を出してみる。


 シュッ


 天井に突き刺さることなく、先端が粘着質になっており、張り付いている。

 しばらくすると糸が消え、後には何も残らなかった。


 ん?看破、詳細看破


【鋼糸/Dランク】:魔物スキル。鋼並の硬度を持つ糸を飛ばすことが出来る。魔力を込めないと30秒ほどで消える。任意で先端に粘性を持たせることもできる。>詳細>MP消費10で放つ鋼糸は【魔鋼糸】となり消えない。1度魔力を込めると30秒ほどはこの【魔鋼糸】を出していられる。これで編まれた布は高い防刃性を持つ。


 この糸売ったら金稼げるかな。いやいや。燃費悪すぎるな。もう残りMPも少ない。魔鋼糸は、またの機会になりそうだ。


 なら、もう一つのスキルも見ておくか……看破


【毒牙/Dランク】:魔物スキル。毒を帯びた牙で対象に毒を注入する。牙以外にも爪や拳、手刀などにも代用可能。


 超接近戦用だな。これは……。もうMPがないから詳細は不明だが、これも魔力を込めることで何かしら強化されるんだろう。魔物と格闘戦はもう二度とゴメンだけどな。


 最後に、自分のステータスを確認する。



――――――――――――


■ステータス

名前/有村 悠真

Lv.3

種族/人間   年齢/18歳  職業/無職

HP 40/40

MP  6/80

腕力  40

体力  40

敏捷度 40

器用度 40

知力  80

精神力 120


加護:神祖(しんそ)の大いなる加護

称号:転生者 封印されし称号その1 封印されし称号その2

装備:ハイキングルック ショートソード

スキル

-EXスキル【教育者】【学習者】【超健康体】【ステータス倍化/Lv.UP】【限界突破】

-ユニークスキル【極運】【ファミリア】【看破】

-スキル【薬草術/Dランク】

-魔物スキル【鋼糸/Dランク】【毒牙/Dランク】


――――――――――――


 まだまだスキルの使い勝手が解ってないな。うーん……もう寝るか。

 くんくん……さすがに、水で身体拭くだけじゃ、気持ち悪いな。風呂入りたい……。



 †



 あれから一週間、つまり6日がたった。俺はガンファの所に厄介りなりながら、少しずつ村に馴染んでいった。朝は、村の人たちと村の周りで山菜や薬草を取り、お昼にはポーション作りに精を出した。ガンファの提案で、ポムポム草から作った簡易ポーションは、挨拶がわりに村の家一軒一軒に配ることにした。といっても、村には60戸も満たないので4日ですべての家に簡易ポーションを配り終えることができた。そのため、【薬草術】もガンファと同じくCランクにまで伸び、ハイポーションを作ってガンファにドヤ顔で見せつけて遊んだりできるようになっていた。


 午後は、ほとんどマールさんの所にいることが多かった。それは何としても習得したいスキル、いや、習得しなければならないスキルがあったからだ。

 樹木魔法? NO! 精霊魔法? NO!

 たしかに魔法の魅力は大きいでも、死ぬよりましだ!!社会的に……。


 そう、まずは【隠ぺい】のスキルだ!いつ、どこで、誰が俺のステータスを覗き見るか解らない。

 そんなもしもの時のため、【隠ぺい】は最も有効なスキルといえるのだ!!


 この【隠ぺい】習得のために、最近の【薬草術】は簡易ポーションしか作っていない。少し前までは出来なかった事があっさり完成。これ十分チートだな。成長とも言うのか?ちなみに、調べてみると簡易ポーション作成でMPが1消費されていた。通常のポーションで消費5、そしてハイポーションが消費50となる。ハイポーションの効果を考えると、釣り合っているのか?ハイポーションなんて使ったことないから、よく解らない。


 そして、待望の【隠ぺい】スキルの習得なのだが……


「そうねぇ。こう気配をスーッって消して、木になる感じ?

 スーっていって、フッ……ってこれが極意よ?解った?」


 マールさんの教え方は完全に感覚派だった。ヤバい……まったく解らん。座禅のように、座って気配を消す練習から始まり、かくれんぼ、で、今やってるのが目隠し鬼ごっこ。目隠しして女の人を追い回すなんて、どんなお座敷遊びだ!と思われるかもしれないが、これを全力で真面目に行う。

 訓練を初めて4日目になるが全く掴めない。っていうかこんな説明で掴める理解できる奴なんて……


「はい!スーっていって、フッ……ですね!解りました。」


 うぇ!?解っちゃった人がいたよっ!うん。カワイイからいいんだけどね?全然。


 そう、アイリも一緒に【隠ぺい】の訓練を受けているのだ。なんでも、午後からマールさんの所に用事があると言ったら、アイリも着いてきたいとかで。二人っきりにさせたくないらしい。願ってもないことだ。両手に花状態。い、いかんいかん……集中集中、精神統一!


――ピロリン♪【気配感知】のスキルを取得しました。――


 あれ?なんか違うスキル取得してる。


 お、なんか目隠ししてても、アイリのいる場所がわかる気がする。マールさんは……解らん。


 目隠しを取り、再度、マールさんに【隠ぺい】を使ってもらう。すると、目の前にいるのに、急に存在感が薄く感じてしまう。そこにあるのはただ1つの風景であるかのように思えてくる。周りに溶け込む。違和感がなくなる。決して、居なくなるわけじゃない。実際そこに居るのだ。ただ、意識しづらくなる。


 スーッと気配を消してフッ……










――ピロリン♪【気配消失】のスキルを取得しました。――


――ピロリン♪【気配感知】【気配消失】の習得により、新たなスキルを習得しました。――


――ピロリン♪【隠ぺい/Fランク】のスキルを習得しました。――


――ピロリン♪【隠ぺい/Dランク】のスキルを習得しました。――


 やった……ようやく、隠せる。俺のトラウマを……だがしかし!まだまだ覗かれる不安はなくなったわけではない!いつかマールさんを超えて見せる。そして心の平静を取り戻すんだ!!


「スーッていってフッ……解るんですけど、できません~。」

 アイリが半泣きになっているが、しばらく見守ろう。カワイイし……。

 あ、目があった。【隠ぺい】してるのに……俺の煩悩は【隠ぺい】できなかったのか……


 あとで、確認してみるとアイリも【気配感知】を習得していた。【隠ぺい】までは、あと一歩というところか。ならば、アドバイスだ。


「アイリ。周囲の風景に溶け込むんだ。自然体で……力を抜いて。そうだ。意識はそのままで。」


 すると、アイリの存在感も急に薄れだした。おそらく成功だろう。


 この日、二人して、【隠ぺい】を習得したことにマールさんは驚いているようだった。


「こんなに早くできるようになるなんてね。私は生まれたときからこのスキルを持っていたから、正直、どうやって教えたらいいか手探りだったのよね♪でも、私、教え上手かもね♪」


 いいえ。それは断じてありません。反論は認めません。


 改めて、【隠ぺい】を看破してみる。看破、詳細看破。


【隠ぺい/Dランク】:気配を消し、周りに溶け込み、存在感を消す。また、ステータスの内容を任意で隠すことが出来る。>詳細>ランクC以上になるとステータスの書き換えも可能。その際は、一項目につき、MP5消費し、10日間持続する。


 今は、隠せるだけでもありがたい。NO 隠ぺい!!NO LIFE!!


「マールさん。ありがとうございました。安心して生きていけます!!

 まだまだ、未熟者ですが、今後もご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!!」

 礼に始まって、礼に終る。これぞ日本人だ。

「あとは、常に【隠ぺい】を意識していけば上達していくはずよ?狩りなんかでは役に立つはず。

 あの石頭のガンファにでも教えてもらえば?」

「えと……それなら、マールさんに魔法を教えてもらいたいんですけど……」

「あ、そ、それなら私が教えます!!【精霊魔法】なら少しだけ使えるの。ユウマさん。

 き、基礎なら私でも教えられると思うし……嫌ならマールさんに教わればいいけど……

 私で良かったら……」


 こんなことを言われて、断れる男がいるだろうか? いや、いないっ!!

 翌日から二人で魔法の秘密特訓が始まった。

最後まで読んでくださって、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ