3、遠吠えの森
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Wuuuuoooooooouuu
Wuuuuuuooooooooooooouuu
Wuuuuuuuoooooooooooooooouuu
共鳴するかのように、四方から遠吠えが森の中に響き渡る。これは完全に囲まれているっぽいな。ドワーフのオッサン、ガンファはまだ痛む足を引きずりながら立ち上がっている。
「ユウマ!早く××××、逃げるぞ!」
僕のスキル【学習者】が発動し、異世界の言葉が大分解るようになってきている。本当はゆっくり異世界語講座を開いてもらいたいが、そうも言ってられそうにない。リュックと棒切れを拾うとガンファに声をかける。
「ガンファさん。血は止まりましたか?走れますか?これからどこに向かえばいいですか?」
グレイウルフ?はおそらく狼かなにかの猛獣なんだろう。現役のハンターであるガンファに従ったほうがいいだろう。
「おう!血か?止ま×××!これなら走る×××できるじゃろ。こっちじゃ!急ぐぞ!!」
どうやら、もう走れる状態らしい。かなりひどい怪我だったみたいだったが、あの薬草、そんなに効力があったんだろうか……それともドワーフの生命力が飛びぬけて高いのか……少しズレたことを考えていると、ガンファは川の方に向かって小走りし始めた。もちろん、これまで来た血痕が付いた方角ではなく、ルートは変えている。
森の中を不気味な遠吠えが響き渡る中、ガンファを先頭にして川を目指すが……うーん……遅い。これってもしかして、足遅いのか?敏捷度は僕より上だったはずだけど、ドワーフ補正でもかかってるんだろうか……足短いし。いや、僕も人間基準で足が長いとは口が裂けても言えないフォルムをしてるが、ドワーフ基準で考えると当然僕の方が足は長い。
ふっ……勝った。
ってドワーフ相手に優越感浸ってる場合じゃないな。同種族じゃ勝てないからって、さすがにこれは虚しさしか残らなかった……ガンファさん、ごめんなさい……もう足が短いなんて思いません。
そんなバカなことを考えていた罰なんだろうか、目の前の茂みが動いた。
Gururuuuuuuu……
3匹の大きな狼が行く手を遮る。かなり大きい。体長2mはあるだろうか。1匹がジリジリと近づいてくる。こんな大きな動物をこんな間近になんて、動物園でしか見たことない。こちらの力を測るように距離が詰まってくる。
「うわああああっ!!」
思わず手に持った棒切れを振り回していた。もちろん、殴りに行ったわけではない。威嚇のつもりだ。
グレイウルフは少しだけ、距離を詰めるのを止め、こちらを睨み唸り声をあげる。
トンッ
一番前にいたグレイウルフの眉間にボウガンの矢が深々に突き刺さっていた。糸が切れた人形のように、白目を剥いて崩れ落ちる。グレイウルフ達の注意が僕に向いた隙に、ガンファがボウガンを放ったようだ。これで、あと2匹。といっても、僕は何もしていないが……
「ユウマ!!無理するな!何か×××××!残りの矢は××しか残ってねぇ……」
いや、肝心なところ聞き取れませんて……残り何本残ってるの?ねぇ?何本なのーー!?
ガンファの方を向くと、オトコマエな笑顔で頷いてくる。いやいやいや、意志疎通できてないって!!
「もう何言ってんのか解らんって言ってんでしょうが!!」
ぶん!! ぶうん!! ぶん!! ガシっ
ヤバい!残り2匹ということで棒切れを振り回していると、ガッチリと咥えこまれた!!クソっ、動かん。うわうわわっ!!力負けして振り回されるぅ……
トンッ
Gyau!!
棒切れに噛みついたグレイウルフの脇腹にボウガンの矢が突き刺さる。すごいガンファさん。いやガンファ様!!やっぱ、アンタは村一番の狩人やで!!
グレイウルフは矢の刺さった衝撃で咥えていた棒切れを放す。これで僕もようやく自由になった。
でも、あー、棒の先がガシガシになってる。小学生の頃、よく鉛筆の尻を噛んでたなぁー、あれは環境の変化からくるストレスなんだそうだ。小さい頃からにストレスまみれた生活送ってたんだなぁ……ステータスで精神力が高いのはそのせいかも。
「ユウマっ!!ユウマっ!!ぼさっとするな!!走るぞ!!」
ガンファからの叱責で、こっちの世界に戻ってきた。3匹のうち1匹は即死、もう1匹は重傷だ。残りの1匹は些か困惑しながらも唸り声を上げている。しかし、よく見ると尻尾はしっかり股に挟まっている。犬などがよくビビったときにする習性だ。でも、ここで背を向けると狩猟本能から追いかけてくる可能性がある。
「ガンファさん。走るのは待ってください。背を向けずに後ずさって!できれば、もう1発ボウガンを放てば、逃げるはずです。アイツもこっちが怖いはずです。向こうが退いたら、全力で走りましょう。」
「解った。」
ガンファは次の矢を装填する。その間、僕も声をあげて威嚇するも、全く効果なし。グレイウルフの視線はガンファにしか向いてない。
チクショー!!脅威度の見極めが正確でらっしゃるっ!それでも威嚇をやめるわけにはいかない。今はこれしかできないから。
……僕ってこんなに勇敢だったっけか?冷静に見て、狼と対峙して棒振り回してるって、どんだけ蛮族だよ。転生して、気が大きくなってるのか?それに、いつも以上に冷静に分析している自分もいる。
普通、これだけのことが起こったらさすがにパニックになってもおかしくないはずだ。いや、そんなことはどうでもいい。それに今は助けられているんだから……
タンッ
ようやく矢の装填を終えたガンファが矢を放ったようだが、今回はグレイウルフの足元に突き刺さる。そして、ついに諦めたのか最後の1匹も尻尾を丸めて逃げ出したようだ。どうやら撃退できたみたいだ。
「ユウマ!!走るぞ。ついてこいっ!!」
「は、はい!」
それから僕らは全力で森の中を駆け抜ける。川の音も聞こえる。
気持ちに少しの余裕が生まれる。
Gyain!!!!!!
背後からグレイウルフであろう悲鳴、いや断末魔ともいえる声が聞こえてきた。
思わず足を止めると、ガンファが先へと促す。何だ?後ろで何があった?緩みそうだった気持ちが、再びキュッと締め付けられる。まだだ。まだ、ここは安全じゃないんだ。
走る 走る 走る 少し歩く 歩く
再び走る 走る 歩く 歩く 歩く
少し走る 歩く 歩く 歩く
急かされる 走る 走る 走る 歩く
止まる 座り込む 息を吸う 吐く 吸う 吐く ・・・・・
気付けば、日も傾き、森の中はもう夜の気配が忍び寄ってきている。異世界の森の中。デカイ獣に襲われた直後だ。怖い。急に心細くなっていく……
「ユウマ。村まで後、3時間ほどじゃが。夜の移動は危険じゃ。今日はここで野宿するぞ。川の近くじゃから血の匂いも散らせるじゃろうからな。」
ガンファが声をかけてくる。今は、これほど頼りになる存在はいない。近くの小枝を拾い集め、すぐにたき火を作り出してくれた。燃え上がる炎を見ると、少しだけ気持ちに余裕が出る。少し話せる程度には……
「ガンファさん。助かりました。ありがとうございました。あー、えーと……すごい腕ですよね。あのボウガン。あの大きいグレイウルフを一撃で仕留めたときなんて、鳥肌が立ちましたよ。……でね……なんですよ。それでね………」
一度、口を開くと話が止まらない。取り止めのないことまで口をついてでてくる。
心の中の不安や恐怖やこれまで溜まりに溜まったもの全てを吐きだしているんだろう。
話が途切れること、沈黙が、静寂が、再びあの恐怖を呼んできそうな気がして……
幸い、ガンファは僕の話を黙って聞いてくれる。時には頷いたり、短く言葉を返してくれる。あぁ、バレてるんだろうな。森に、獣に、色んなものに怯えてるって。
「ユウマ、もう寝ろ。夜明けとともに移動するからの。見張りはワシがやっておく。」
「あはは・・・悪いですね。でも、そうさせてもらいますね。あ、ちょっと顔洗ってきます。」
あぁ……ありがたい。ガンファも疲れているはずなのに。
川へ行くと、対岸にはラファール草が一面に広がっていた。結構、生えてるもんだよなぁ……薬草って。
顔を洗った後、ガンファにそのことを伝えると、急にテンションが上がる。これだけあれば、ちょっとしたお金になるらしい。
急遽二人での薬草摘みが開始された。正直、疲れているので早く横になりたいですけど……言える空気じゃないよな。目がマジだよ。あの人。
ようやくひと段落した後、倒木の影に身を寄せるように横になった。
目を閉じると、すぐに僕は眠りに落ちていった。
†[ガンファ視点]
しくじった!!
グレイウルフを仕留め損ねただけでなく、接近を許し、足首に深く牙を立てられた。
薬草はあいにくと切らしている。こんな森深いところで怪我を負うなんて、ワシもまだまだ未熟だということだの。この足では、今日中に村へ帰ることは難しいじゃろう。血の匂いを消すために、川の中を移動していたが、体が冷えすぎた。野宿できそうな場所に移動せんとな。
ん?歩けん……あぁ、倒れていたのか
血を流し過ぎたか……
「〇〇!〇〇〇ですか?」
突然、声がかけられた。思わずボウガンを掴み、上体を起こし、声の主を睨んだ。
見ると、小奇麗な服とリュックを背負った人間が立っている。ここまで黒髪、黒い瞳の人間を見たのは初めてだった。こんな場所に盗賊の類か?いや、得物らしいのは手に持った棒切れくらいのようじゃ。
突然、人間は奇声を発したので思わず、ボウガンを構える。何を言っているのか解らんが、ゴニョゴニョと魔法の唱詠でもなさそうだの。そして、何かを差し出してきた。
こ、これは!! ラファール草じゃ!!
深い森でしか取れない貴重な薬草を惜しげもなく、さらに差し出してきた。治療は自分でやれということか。それでも、ありがたい。治療の最中、人間はじっとこちらを見続けていた。傷の様子が気になるのじゃろうか?何にしても命の恩人に礼を言う必要があるな。
「ワシの名前は、ガンファだ。助かった。ありがとう。」
「〇〇?〇〇、私〇ユウマ。ユ・ウ・マ。〇〇〇〇。〇?でも、〇ありがとう〇〇〇〇!?」
ん?ユウマが名前か。うーん、よく解らん。ありがとう?
「おい!?ユウマとやら?この『ありがとう』という言葉通じるのかの?」
「通じる?なんで〇〇〇〇〇語話せるように〇〇〇?スキル……じゃ〇〇〇。そんな〇〇〇……あっ!?もしかして、僕の〇〇〇▽▽▽が発動して〇〇〇?」
「なんじゃと!?スキルによってこちらの言葉が解るとはの。はっはっは!!すごい人間じゃの。」
「おぉ、〇〇言葉がわかるぞ。ガンファ〇。〇〇話してみてください。〇〇、〇〇な場所……ガンファさんの村に連れて〇〇〇助かる〇〇〇。」
「ワシの村に案内すればいいのか?もちろん大丈夫じゃ。にしても、どうしてここにワシがいることが解ったんじゃ?」
「えと、どうしてガンファさんがここにいるか解ったか……かな。ガンファさんの血の跡を追ってきたんです。」
血の跡じゃと!?そうか!川からここまで血が垂れておったのか!?これでは奴らのいい目印じゃ!
「いかん!!早くここから離れるんじゃ!!血の匂いはグレイウルフどもを呼び寄せるんじゃ!!」
その後、3匹のグレイウルフと遭遇するも、なんとか撃退できた。ユウマが闇雲にグレイウルフの群れに突っ込んでいったときは焦ったがの。何の技術もなく、気でも触れたのかと思うような声をあげ、棒切れをただ振り回した。このワシを必死で助けてくれようとしとるのか……見ず知らずのワシのために……
ただただ、森の中をワシらは走った。正直、ユウマのペースはめちゃくちゃだった。森を歩き慣れた歩き方ではないし、体力も限界を迎えつつあるようじゃった。運のいいことに、その後、グレイウルフとの遭遇はなく、川の傍で野宿することになった。
たき火を起こしてやると、安心したのかユウマの強張った顔がいくらかましになり、何かをまくし立てるように話し出した。興奮しとるんじゃろう。
「でね、ガンファさん。ボウガンなんですけど、あと何本くらい矢が残ってるんです?」
「ん?あぁ、もうほとんど残ってない。とっておきの矢が2本あるだけじゃ。」
そう言って、ユウマに人差し指1本を立てて見せる。
「そうですか。あと〇本ですか……なら、使い時が大事ですね。」
「まぁ、そうじゃな。」
とりとめのない話が止まらなかった。しかし、ユウマの体力ももう限界じゃろう。
寝るように進めると、顔洗いに行くといってフラフラと川の方へ歩いて行った。
しばらくすると、さっぱりした顔のユウマがラファール草の群生地を見つけて帰ってきよった。
しれーっと
「ラファール草ってあんなに生えてるもんですね。知らなかったです。」
とか言うておるし……
こいつはなんて幸運なことだ。100平方mほどの群生地はこれまで見たことのない規模だった。ワシがひどく興奮してそれを伝えても、ユウマの奴はキョトンとしておる。
本当に変な奴じゃ。これだけあれば、1年は遊んで暮らせるというのに……
ひと騒動あったが、その後、静かな森はたき火の火が爆ぜる音と虫の声のみに包まれていった。
村までもう少し。それまでもう何も起きませんように……狩人の神にそう祈らずにはおられんかった。
†
「おい。おい!起きろユウマ。おい!!」
野太い声が僕に囁く。声の主はガンファだ。解っている。解っているんだが、異世界でオッサンにしか会えていないという現状は、誠に遺憾に思う。可愛いエルフとかケモミミっ子が起こしてくれることを所望する。いや、せめて女性に優しく起こされたい……ドワーフってだけでも十分ファンタジー?……まぁ、そうだけど、そうなんですけど……でも、やっぱり夢って大事じゃないですか?
ゲシッ
痛っ、あまりに起きないからガンファから蹴りが入った。しかも後頭部…痛ぇ……
「何するんですか。ガンファさん。」
「目は覚めたか?それより、森の様子がおかしい。いつでも移動できるように準備しろ。」
蹴ったことに対する謝罪はなしですか……そうですか。森がおかしい?まだ夜明け前みたいで、あたりは暗いが、静かで平和な森じゃないか。何にも聞こえない。このまま二度寝するのにもってこいだ。
「静かすぎるんじゃ。虫や鳥の声もせん。こういう時は、何かが起こる前触れじゃ。」
言われてみれば、そうかもしれない。
突然、
ピシ ピシピシピシ メキ メキメキ
という音が聞こえる、まだ遠くだが、しだいに近づいているようだ。
「火を消すの手伝って!これが目印になってます。」
「いかん、ユウマ。今、こいつを消せば、暗闇だ。ワシらドワーフはある程度夜目が利くが、ユウマは逃げられんようになるじゃろう。松明を作っておくから、その間、荷物をまとめて移動の準備じゃ。」
手早く荷物をまとめ終わると、ガンファはすでに松明を2つ持って僕を待っていた。
夜の森の中、全力疾走はできない。木の根、窪み、つたなど躓くものが多いのだ。焦る気持ちを抑えながら、速足で奇妙な音から逃げる。
何があるか解らない。とりあえず、ステータスを確認してみる。
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■ステータス
名前/有村 悠真
Lv.1
種族/人間 年齢/18歳 職業/無職
HP 10/10
MP 14/20
腕力 10
体力 10
敏捷度 10
器用度 10
知力 20
精神力 30
加護:神祖の大いなる加護
称号:転生者
装備:ハイキングルック 棒切れ(涙)
スキル
-EXスキル【教育者】【学習者】【超健康体】【ステータス倍化/Lv.UP】【限界突破】
-ユニークスキル【極運】【ファミリア】【看破】
-スキル【薬草術/Fランク】
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よし。MPも大分回復したみたいだ。3時間くらいは寝ていたということみたいだな。でも、やっぱりステータスの表記には悪意があるよな……棒切れ(涙)って……ふぅ……よし、大丈夫だ。問題ない。
タタン タタン タタン タタン
Shaaaaaaa!!!
こちらに向かって近づいてくる足音。そして奇怪な音。
僕らは振り返り、松明を向ける。
ハァ ハァ ハァ
一匹のグレイウルフが迫る。
しかし次の瞬間、全身から血を吹き出し絶命する。
目を凝らすと、無数の糸のようなものに全身を貫かれている。
その後ろから赤い目が8つ、暗闇に浮かび上がる。
黒々とした外骨格、ところどころに真紅のラインが刻み込まれている。
醜悪さが形を持ったような存在。
軽自動車ほどの大きさの蜘蛛がそこに現れたのだ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。




