表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/92

12、魔法と魔術

新たな『称号』をゲットします。

 

 †



 あの事件から十日が経過した。

 あの後、ガート村は一時混乱をしていたが、今は平穏な日常を取り戻している。


 ウリリの荷馬車の品は、回収できるものはすべて回収できたらしい。

 村長であるバラガさんは太っ腹にも、それを全て買い取ると宣言する。

 元々、ウリリが今回持ち込んだ商品のほとんどはガート村が買い取るはずだったエルフの集落への貢物が大半で、他は細々とした雑貨や調味料などの生活用品がほとんどだったというのもある。


 今後、ウリリが廻るはずだった村々に対しては、バラガさんがカインツの馬を使って、ウリリの状況を説明し、ガート村まで来てくれれば、豊富にある生活用品を格安で譲るとの旨を伝えさせて廻った。


 なるほどねぇ……村に人が来れば、潤うもんなぁ。よく考えてあるもんだ。さすが内政特化のバラガさんだな。


 ウリリとライキは、この交易で得たお金で、一度、シャール王国の街、エイラムへ帰るそうだ。死んだ者たちの関係者に、そのことを伝え、形見を渡して回るのだ。必ずお礼をするために戻ってきますと、何度も何度もお辞儀をして帰って行った。それが3日前の事だ。荷馬車も3台売り払い、荷馬車1台という身軽になって、一から出直すのだそうだ。ウリリには、頑張ってほしいな。


 冒険者のエギルはというと、今回の護衛依頼の顛末を冒険者ギルドに報告をしないといけないらしい。仲間を失ったエギルは、これを機に、ウリリの専属護衛として契約を結ぶことになったようだ。盗賊予備軍という称号は、なぜかいつの間にかなくなっていた。まぁ、心を入れ替えたってことなのか。ウリリたちと一緒にガート村を去って行った。


 あ゛、それで思い出した。


 いや、思い出したくはないのだが、俺は新たな称号を得ていた。


 それは『幼女誘拐犯容疑者(爆)』


 うん……もう、忘れよう。悪い夢だったと……【隠ぺい】【隠ぺい】【隠ぺい】


 あ、もう一つ、どうでもいいことがあった。一応、伝えておこう。


 エルフのザハルだ。


 1週間ほどガート村に滞在した後、エルドランとかいうアイツの集落からの迎えがやって来た。カインツが馬に乗り、エルフの集落エルドランまで伝令に行ったのだ。カインツ大活躍だな。

 ザハルは、もう少し滞在をしたいと渋っていたが、丁重にお断りをいれ、帰ってもらったようだ。集落への貢物を手土産に……。


 もう……やっと帰ったよ。アイツ。





 そして、現在はというと、サフィーナとアイリがキャッキャ言いながら、水遊びをしているのを眺めている。いやぁ~眼福眼福。

 もちろん、裸じゃない。覗きもしていない!だから早まっても通報はしないでほしい!!近くの小川に、踝くらいまで入って、水をピチャピチャやっているのだ。


 季節的いうと、そろそろ初夏といったところか。俺も水遊びに誘われたが、こういうのは見ているのがいい。昼下がりに、女子の戯れる声を聴きながら小川の岸でゴロンと横になっている。


 別に仕事をサボってる訳じゃない。日課の薬草摘みやポーション作りがひと段落したところだ。村の中では、着実にポーション職人としての認知度を高めていることだろう。今は、午前の仕事を終えて、昼休み中だということだ。日本にいた頃と違い、少しゆったりとした昼休みはうれしい限りだ。前の世界では、お昼はおにぎり片手に仕事をしていた記憶しかない。


 そうそう。連れて帰ったサフィーナは、責任もって俺が面倒を見ることになっている。といっても、ガンファの家に住み、アイリの部屋で寝泊まりしている。つまり、かなりガンファ、アイリに任せることも多くなっている。

 それのお返しというわけではないが、俺もポーションの作成に全力を注いでいる。なんせ、レベルアップしたおかげでとんでもない数のポーションが作れるようになったのだ。MP160は伊達じゃない。簡易ポーションなら160本作れるのだ。まぁ、やらないけど。それまで毎日、簡易ポーション20本ほどを作っていたが、今では、それに加え通常ポーション8本とハイポーション1本を作るまでになっていた。

 ガンファ曰く、薬草の栽培を視野に入れないと、薬草不足になる可能性もあるそうで……まぁ、ちょっとやりすぎた感があったのかもしれない。採った薬草を片っ端からポーションにしているからな。


 そろそろ、水遊びに飽きてきたのか、サフィーナが小川から上がってくる。


「ユウマ。サフィーナあそんだら、ねむくなっちゃったー。」

 アイリのお古の白いワンピース、大きめの麦わら帽子がよく似合っている。

 サフィーナは所謂、アルビノという奴だろう。生まれつき色素が薄いため、瞳も、血の色がそのまま出てしまい、赤くみえる。白いうさぎと同じ原理だ。本当は、サングラスとかがあればいいが……この世界にUVカットなんて代物は存在しないだろう。


「サフィーナ。今日はお家に帰るぞ。今から俺とアイリは魔法の勉強だ。サフィーナも一緒にやる?」

「べんきょうやだぁー。」

 いやいやと首を振り、その愛らしさに思わずアイリと顔を見合わせ笑ってしまう。

 そうだよな。勉強嫌だよなぁ……俺も、昔は勉強嫌いだったわ。


 ちなみに、魔法の勉強とは、マールさんとの特訓以来、アイリとマンツーマンで魔法について、学んでいる。学んでいるのだが……一向に成果が上がらない。まさかの魔法の才能ないのか!?と思ってしまうほどである。MPがあるので、魔力がないということはないはずだ。何か決定的な理由があるはずなんだが、それが解らないでいる。


 むぅ……と俺が腕組みして考えていると、サフィーナも真似して、腕組みして歩き出す。そのまま、右手を眉間に当て、うんうん言いながら歩くと、また、俺の後についてくる。

「あははは♪二人して、何してるのよ。サフィーナちゃんも、ユウマの真似なんかしちゃ笑われちゃうよ?」

「んー……あぁ……どうやら、事件は迷宮入りのようです。……〇畑任〇郎でした。」

「誰よそれ!!」

「ユウマ、それおもしろいの?」

 アイリとサフィーナそれぞれが厳しいツッコミを入れてくる。そりゃ、こんなネタ誰も解らないって知ってるよ?知ってるけどさぁ……ノリって大事じゃん?


「あっ!そうだ!!今日はマールさんを特別講師に招こう!!アイリはこのまま、サフィーナ連れて先に行ってて。俺、マールさんにお願いしてくるわ。」

 思い立ったが吉日、変化がない環境に刺激を与えることは重要だと、エライ誰かが言っていた!!知らんけど……



 †



「と、いうわけで本日は特別講師マールさんに来ていただきましたー!拍手っ!」

 パチパチパチパチと約1名から盛大な拍手が起こる。

 生徒その1、アイリ。一人一生懸命拍手をしてる。真面目だ。

 生徒その2、俺。その場のノリで司会進行役をやっている。

 生徒その3、サフィーナ。なぜか一緒いて、目をキラキラさせている。よく解ってないが、楽しそうだからいるという感じか……眠くなかったんかい。


 ここは、ガンファの家の裏手にある井戸の前、少し広くなっており、青空教室にはもってこいだ。

 短い丸太を転がし、椅子代わりにて授業が開始される。


「で、私は何をすればいいのかしら?」

 マールさんもよく解ってなかったようです。まぁ、詳しく説明してなかったからな。


「えと、これまで俺とアイリは魔法の特訓と称して、イチャイチ……一生懸命、教えてもらってたんだけど、一向に成果がでなくて…。魔術師であるマールさんに魔法の事を教えてもらえたら、少しは成果が上がるかと思って。本当に基礎の基礎から教えてください!よろしくお願いしまっす!!」

「私も、お願いします。」

「おねがいしまーす。」

 俺に倣って、アイリ、サフィーナまでも頭を下げる。


「わ、わかったわ。とにかく頭を上げなさい。この子がサフィーナちゃんね。こんな子に頭を下げられたら、断れないわよん♪」

 あれ?後半、おかしくなかったか?特にサフィーナを見る目が……ま、まぁ今は見なかったことにしよう。


「で、貴方たち。魔法の特訓って今まで何をやって来たの?」

「え、えと……ユウマさんの前で、精霊魔法の初歩を使って見せて、それを真似してもらうっていう特訓をしてました。」

「はぁ……そっか。それは、成果でないはずよね。」

 な、なにぃーーー!?

「えっ!?ダメだったでしょうか……私も、マールさんから教わった時、そんな感じだったので、同じようにやってみたんですけど……」

「えーと、あぁーそれね。そう!アイリは精霊魔法の才能に溢れていたのよ!普通の人は、精霊を見ることが出来ないから、精霊魔法の原理なんて解らないわよ。」

 アイリはハイエルフだから適性高いんだろうね。でも、そのこと隠してるから言えないけど。

「えっ!?ユウマさん……もしかして、精霊、見えてなかったんですか!?」

「え、えーと……アイリさんや。精霊って何ですか?」

「えぇぇぇ!?」

「と、まぁ、普通の人間は、こんな感じになるのよ。解った?」

 俺と、アイリは全く違う理由で頷いた。精霊っていたのかよーー!!


 マールは、試しに精霊魔法を使って見せた。

「$#&&!!?>#『エリアル・スラッシュ』」


 マールの掌に淡い緑色に輝くの粒子が集まり、強い風が前方を吹き抜ける。

 3m先の地面には抉れたような跡が出来ていた。


 しかし、アリアたちには違って見えるらしい。風の精霊が集まり、前方へすごい勢いで飛んでいくんだそうだ。風の精霊の体当たりなのか。すごいな精霊。

 

 サフィーナも目の前で起こった出来事に目をパチパチさせている。

 そりゃそうだろう。いきなり地面が抉れたんだ。そりゃビックリす……


「わー♪すごーい。とうめいなちいさいひとがーいっぱいとんでったー♪」


 なん……だと!?

 サフィーナ、もしかして見える人なの!?これどういうことだ?

 マールさんの方を見ると……


「キャー♪サフィーナちゃんも精霊さんが見えるのねぇー♪すごいわー♪すごいカワイイわー♪」

 うん……すごいテンション上がってた。マールさんってこんな人だっけ?


 で……なに、この疎外感……見えないの俺だけ?泣くぞ……泣きわめくぞ……

 俺が、ジト目でマールさんを睨んでいたら、目があった。


「ご、ゴホン。まぁ、何事にも例外は存在するわ。サフィーナちゃんは特別至高の存在だから。

 ユウマくんは、コツコツ頑張ればいいのよ。ちなみに、アイリから精霊魔法を習うのは諦めなさい。」

 おぉ……俺の心の癒しが……明日から、何を生きがいに生きていけば……


「えとね。ユウマくん。ちなみに、だけど、『魔法』と『魔術』の違いってわかる?」

 ん?魔法と魔術……どう違うんだ?

「よく解りません。『魔法』のカテゴリーの一つに『魔術』があるんですかね?」

「おっ!なかなかいい線いってるよ。正確にはちょっと違うかな。

 まず、魔法の成り立ちなんだけどね……


 このラクリアは大昔、神様によって作られたの。大地や海、人や魔物すべてをね。その時使われた不思議な力が、魔法の原型って言われているの。

 神様はさらに小さな神様を、その神様はまたさらに小さな神様を作り出し、神様ごとの役割を分担して、この世界の環境を整えていったの。そして、魔法はより専門的に、より系統的に分かれていくようになったの。火の魔法や風の魔法、精霊を使った精霊魔法のようにね。


 この大きな力を使いこなす人が神様以外にも現れるようになったの。古の種族と呼ばれる人たちよ。ま、まぁ……中には普通の人間やエルフも使うとかいう例外もあるんでしょうけど……。


 ただ、彼らが使う魔法は神様たちが使っていたものよりは、遥かに劣化したものになっていたわ。それでも、魔法が使える者と使えない者の力の差は歴然としていた。そんな中、魔法の使えない者が、どうにか魔法を使えないものかと、魔法の真似事をし始めた。それが魔術の始まりだと言われているわ。少ない魔力を効率的に使おうと、規模や威力を極力抑えて、扱いやすい6系統のみを厳選し、練磨していった。


 それが、現在存在する、光・火・風・土・水・闇の6系統の魔術ってことになるわね。この世界の曜日はこの6系統から来てるのよ?これら魔術は、『唱詠』『魔法陣』あとは『魔道具』という手段をもって、少ない魔力を効率的に使用することに成功したの。


 『唱詠』これはスキル同様に、決まったキーワードを言うことによって、自動的に魔力が消費され、魔術が発動するの。ただ、スキルよりも長い呪文を正確に唱える必要があるわ。

 

 『魔法陣』は何かに図形や呪文を正確に描いて、魔力を流し魔術を発動する方法。準備に時間がかかるけど、一度描くと後は、呪文なしで魔術が発動するわ。


 『魔道具』は、『魔法陣』を何かの道具に刻み付けた物の一般的な総称を指すわ。魔核石なんかに刻むのが一般的とされているわね。


 ここまで、話してきて、もう気付いたかもしれないけど、『魔法』は『魔術』より、比べ物にならないほど規模や威力を出せるの。魔力を込めれば込めるほど、それは上昇していくわ。でも、『魔術』は違う。細々とした便利な魔術は多いけど、その分、その規模や威力には限界があるの。


 解りやすい例で言えば、『火魔法』のファイアボール。これは魔力を込めれば込めるほど、大きく遠くまで飛ばすことが出来る。でも『火魔術』のファイアボールでは、ある一定までは、込めることが出来るが、それ以上、大きくならないし、遠くへも飛ばない。


 まぁ、魔法と魔術、それぞれ使い方が違うってこともあるから一概にどっちがいいかなんて言えないけどね。


 と、いうわけで、いきなり『魔法』は貴方には難しかったってことよ。貴方のことだから、もしかしたらって思ったけど、出来ないからって別に悲しむことのほどではないわよ。『魔術』なら、たぶんだけど大丈夫なはずよ?ほら、貴方って魔力多いらしいから……」


 慰められているとしか思えないが、魔法と魔術の違いはハッキリした。魔術スキルを持っている人はこの村にはいないので、魔法特訓は一旦、保留ということになるな。

 せっかく魔法特訓だったのに、俺が一番足を引っ張ることになるとは……。でも、サフィーナとアイリは魔法が使えるんだ。このままマールさんの指導を受けていれば、スキルゲット&ランクアップするかもしれない。でも、サフィーナ……いったい何者なんだよ。


 ……って寝てるし。器用に丸太の上で、だらんと両手両足を垂らして爆睡中だ。ネコかっ!


「マールさん。サフィーナが了承してくれたらなんだけど、サフィーナにも魔法を教えてもらえないかな?精霊が見える人間って珍しいんだろ?このままマールさんが教えれば、精霊魔法が使えるかもしれない。」

「えっ!?サフィーナちゃんに個人レッスン!?じゅるり……もちろん大歓迎よっ♪さぁ~、サフィーナちゃん。明日から私と魔法のお勉強しましょ~?」

「えー、めんどうなのやだー。」

「レッスン中は、おいしいお菓子とジュースもあるわよ~♪」

「うん。やるー♪」

 チョロいなサフィーナ。というか、マールさんの手際が恐ろしいほど良い。

「アイリ。サフィーナだけ預けるのは危険な気がするから、アイリもマールさんの所で勉強してこいよ?アイリの精霊魔法って元々、サフィーナさんから習ってたんだろ?」

「え、えっと……だって、ユウマさん……。」

「いいのか?アイリ。マールさんのサフィーナを見る目を見ても、嫌だと言えるか?」

 マールさん。完全にお菓子でサフィーナを籠絡しちゃってるよ。これ、餌付けっていうんだよ?

「う、うん……あれは、マズイと私も思う。」

「サフィーナの面倒を押し付けるようで悪いな、アイリ。後で埋め合わせするから、俺の出来る範囲ならなんでもするからさっ。」

「えっ!?う、うんっ!!わかった。サフィーナちゃんは私が守るねっ!」

「チッ……。」

 はい、そこ。マールさん。舌打ちしない。聞こえてますよー。


 これで、明日から、午後の時間が完全にフリーになったな……どうするかな。


最後まで読んでくださってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ