11、白い少女
ブックマークをしてくださった皆さんありがとうございます。
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「あなたはだーれ?」
急に目の前にいた白髪の少女。その瞳は真紅に輝いている。吸い込まれそうだ……
しばらく理解が追いつかず、呆然としていたが、急いで看破と念じる。
こんな森の中。明らかに普通じゃない。ようやくそれだけ思いつくだけの思考が戻ってきた。
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■ステータス
名前/サフィーナ
Lv.?
種族/人間 年齢/10歳 職業/なし
HP ???
MP ???
腕力 ???
体力 ???
敏捷度 ???
器用度 ???
知力 ???
精神力 ???
加護:???
称号:迷い子 記憶喪失の子供
スキル
???
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看破が失敗してるわけでもない。だけど、読み取れないのか?案外、看破って結構万能じゃないのな。
「俺は、ユウマだ。君はどうしてここにいるんだい?」
膝をつき、目線を合わせ、極力穏やかな声を出してみる。実際出来ているかどうかは解らないが……。
講師をしていた時代、このような小さい子の対応は慣れていたはずだが、どうしても声が上ずってしまう。
「わからないの……。」
記憶喪失ってやつだよな。でも、これが称号ってなんだよ……迷い子、異世界人?これもよく解らん。
「そうか……。名前はなんて言うんだい?」
まぁ、知ってるけど。
「サフィーナ。」
「いい名前だね。きれいな響きだ。」
「えへへ……ありがと。」
「さっき踊ってたみたいだけど、踊り上手なんだね。」
「うん♪なんだかうれしくって、クルクルまわってたの。……なんでうれしかったかわからないけど。」
「サフィーナちゃん。えーと、お兄さんは、人を探してるんだけど知らないかい?この辺りにいると思うんだけど。」
一人称、お兄さんて……怪しさ爆発してるが、ここは押し通す!
「こわいのがいっぱいいたの。こわいからかくれてたらどっかにいっちゃったの。
もう一人、『たすけてー』っていってきたひとがいるけど……たおれちゃった。そこできのあなでねむってる。」
怖いの……ゴブリンの事か?そしてもう一人はライキさんの可能性が高い。
木の穴?あそこに見えてる木のウロか……
「サフィーナちゃん、怪我はないかい?怖いのに、危ない目に合わせられなかった?」
「うん。すぐにどっかいっちゃったから。」
「そっか。それは良かったね。じゃあ、寝てる人を確認してもいいかな?
お兄さんが探してる人かもしれな い……ん?」
周囲から複数の気配が迫ってくる。これは先ほどのゴブリンに似た気配……
「サフィーナちゃん。ちょっとこっちにまた怖いのが来てるから、ちょっと隠れておいてね。」
「うん……。こわいのきい。かくれてる。」
木のウロにテテテテと走っていく。
と、言ったはものの、どうするかな。何とかできるのか?とりあえず、【隠ぺい】だ!
Gyagyaaa!! Giagia!!
Gyageeegya!!
茂みから現れたのはゴブリンよりも二回り以上大きなゴブリンが2匹。普通のゴブリンが5匹。
デカイ奴は短いが角まで生えており、その背丈は170cmの俺くらいはありそうだ。……看破!!
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名前/ゴブリンバーサ―カー
ランク/モンスターランクC
HP 60/60
MP 20/20
腕力 40
体力 28
敏捷度 20
器用度 18
知力 12
精神力 16
解説:ゴブリンの上位種。戦うこと以外に興味はないバトルジャンキー。数匹のグループで常に腕を競い合っている。
-スキル【斧術/Cランク】【捨て身】【野生】
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ステータス的にはそんなに高くはない。ただ……数が問題だ。接近されると捌ききれる自信はない。
まだ、こちらに気づいてはいない。殺るなら今しかないか。
俺は少し離れた位置にいるゴブリンバーサ―カーの背後に回り込みむ。
よし!今だっ!!【鋼糸】!!
右手の指から5本の鋼糸をゴブリンバーサ―カーに向けて飛ばす。まずは1匹……
しかし、なぜかこちらに気付き、身を翻す。完全には躱しきれず、2本の鋼糸が腕を貫くが、必殺の一撃には程遠い。
Gougyagya!! Gyagya!!
ゴブリンバーサ―カーが警戒の声を発する。
しまった!!気付かれた!!
俺の放った鋼糸は引きちぎられ、腰に下げた斧を手に、こちらを振り向く。
他のゴブリンたちもこちらに気付いたようだ。まずいな。
7匹のゴブリンたちが俺の元に殺到する。
俺は、木々を躱すようにジグザグに逃げていく。月明かりがあるため足元を気にしなくてもいいのはせめてもの救いだ。
時折振り向きながら、鋼糸を飛ばしていくが、命中することはない。来た来た来た来たーーっ!
月明かりの下、ドタドタをゴブリンたちを引き連れて走り回る。んー……まったく格好悪いな。
ただ、ゴブリンたちの足は遅く、追いつけないでいる。ゲームではこういうのトレインっていうんだっけ?
そろそろか……
俺は、先ほどから伸ばしていた鋼糸を一気に引っ張る。
ビンッ!!
木々の間に蜘蛛の巣のように張り巡らされた鋼糸が、ゴブリンたちの行く手に現れる。2匹のゴブリンバーサカーは突如現れた鋼の蜘蛛の巣をいち早く察知し、止まるが、他のゴブリンはそうはいかない。
極限まで細く引き伸ばされた鋼糸は、ゴブリンたちの身体に絡みつき、その身を切り裂き、切断する。5匹のゴブリンたちは瞬く間に、肉片となったのだ。
うん。計算通り。本当はデカイ奴も細切れのはずだったんだけどな……【野生】の勘ってやつか。
でも、気分は南〇水〇拳だ!シャオっ!!練習した甲斐あったな。一人シャオシャオ言って練習してるのをアイリに見つかった時は、この世の終わりだと思ったけど……
鋼糸、使い方によったら森の中で立体移動もできそうな気がするな。そうなったら巨人だって倒せる気がするな。落ちて怪我しそうだからまだやってないけどね。
ゴブリンバーサ―カーたちは目の前の鋼糸を斧で切り裂こうとしている。俺は鋼糸を引っ張る手を緩め、わざと弛ませる。すると鋼糸は鉄条網のようになる。ふっふっふ……力押しだけでは、勝てないのだよ!!
狂ったように斧を振り回すゴブリンバーサ―カー。その度に、鋼糸が体に食い込み、身を切り裂いていく。これも計算通り。さらに、もう一つ仕掛けがあるんだからな。
最初こそ、ブンブンと斧を振り回していたが、次第にその動きが鈍くなる。そして、ついに膝をつき、動きを止める。
やっと利いてきたようだ。俺の毒牙。
いろいろ実験した結果、鋼糸に毒牙の毒を流せることを知ったのはつい最近のことだ。
森の小動物を毒の罠で捕えるとか、毒の利き目を捕まえた動物で実験していたのだ。近所にいたら危ない奴の太鼓判を押されることだが、ここはラクリア。生き抜くためにはなりふり構ってられない。
倒れたあと、少し痙攣していたようだが、その動きも止まる。
死んだか…… 看破
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ゴブリンバーサ―カーの遺骸
討伐者:ユウマ・アリムラ
魔核石 矮小鬼の角 の剥ぎ取りが可能
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――ピロリン♪ピロリン♪ピロリン♪――
ん?なんだ?ステータス……と
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■ステータス
名前/有村 悠真
Lv.4
種族/人間 年齢/18歳 職業/ポーションの人
HP 80/80
MP 68/160
腕力 80
体力 80
敏捷度 80
器用度 80
知力 160
精神力 240
加護:神祖の大いなる加護
称号:転生者 封印されし称号その1 封印されし称号その2
装備:ハイキングルック ショートソード
スキル
-EXスキル【教育者】【学習者】【超健康体】【ステータス倍化/Lv.UP】【限界突破】
-ユニークスキル【極運】【ファミリア】【看破】【隠ぺい/Cランク】
-スキル【薬草術/Dランク】【気配察知】【気配消失】
-魔物スキル【鋼糸/Cランク】【毒牙/Cランク】
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おぉ、レベルアップしてる。あとは……おい。職業なんだ?ポーションの人って……
いつも、村で配ってるからか!!ハ〇の人みたいに言うなーーっ!!お中元なんて配ってないぞ!!
と、毎回突っ込むところがあるよな……俺のステータス。
お、鋼糸と毒牙がCランクになってるな。
ステータス倍……すでに精神力がすごいことになってるな。
人に何を言われても、これでもう大丈夫……いや、あの称号はまだ封印しておこう。精神力240じゃ、まだ耐えられそうにない。
おっと、そろそろサフィーナの所に戻ろうか。
「サフィーナちゃん。もう大丈夫だよ。怖いのはやっつけたから。」
先ほどの場所に帰ってくると、サフィーナは木のウロからひょこっと顔を出す。
俺は、木に近づき、ウロの中を覗き込む。
「もう、怖いの来ない?」
「あぁ、たぶん来ないよ。それで、そこで寝てる人、ちょっと見せてね。」
看破すると、横たわっている男はライキという。ビンゴだ。
状態は瀕死。ヤバいじゃないかっ!
俺は、リュックからハイポーションを取り出すと、ライキの傷口に少しだけハイポーションを振りかけて様子を見る。よしよし、回復しているな。もう口移しなんで絶対しないんだからね!!いや、マジで。
その間、サフィーナはポーションが珍しいのか興味津々で覗き込んでいる。
ハイポーションを1本丸ごと使い切るころには、ライキのHPは全快している。しかし、まだ意識が戻らないようだ。担いでいくか。
よっこらしょっと、ライキを担いで木のウロから出ていくと、サフィーナと目が合う。
「ユウマ。もういっちゃうの?」
ちょっとウルウルしてる目でこっちを見ている。
ようじょが なかまに なりたそうに こちらをみている!
どうする?……本当に、どうするよ……
「え、えーと、サフィーナちゃん。お、お兄ちゃんと一緒に来るかい?」
いやいやいやいやいや!!これは言ってはいけないNGワードベスト3に入るだろう!!
自分で言ってて、通報しそうになったわーー!!
相手は、魔物溢れる森の中に一人で踊っていた幼女。普通じゃない。看破しても謎だらけ。
客観的に考えると、完全にアウトだ。
ただ、迷い子という称号が俺の中で引っかかっている。
迷子って寂しいもんな。
一人ぼっちで……誰も頼れる人が居なくて……ここがどこかも解らなくて。
そうか……自分と重ねてるのか……
異世界に来てしまったこの俺と。
俺には、幸運にもガンファやアイリがいてくれた。
一人ぽっちはつらいもんな。
「一緒にいこう。お兄さんがさっきみたいに守ってあげるから。」
そう言って右手を差し出す。
「うんっ!いく!ユウマといっしょ!えへへ。」
少し照れくさいのか顔をクシャっと笑い、差し出した腕をギュッと抱え込む。
「よろしくね。サフィーナ。」
「よろしくね。ユウマ。」
いつの間にか、俺はサフィーナの手を引いて、ガンファたちのいる野営地まで戻っていった。
†
俺は山猫獣人のアゴラだ。自己紹介は苦手だ。あとは妹のペギーにでも聞いてくれ。そんなことより、今は人探しだ。行商ウリリの従業員を探している。いや、違う、今はその従業員を探しに行ったユウマという人間を探している。
最近、村に住み着いた人間。狩人でもない。森歩きにも慣れてない。しかし、気配の消し方、探り方の上手い妙な人間だった。だが、『ゾンビ退治がゾンビになる』とはこの事だ。アイツが探されてどうする。
ガンファと一緒に森の主を倒したと聞いたときは、どんな屈強な男かと思ったが、実際見るとヒョロっとした頼りなさそうな男だ。ガンファが一目置くから、どんな奴かと様子を見ていると、よくポーションを作っていた。俺も、ちょくちょくポーションを貰った。アイツのポーションはよく利く。狩りの時、よく怪我をするので、助かっている。
いやいやいや。違う。ユウマを褒めている時ではない。皆に迷惑をかけている。それはダメだ。
帰ってきたら説教だ。でも、俺はしない。ペギーにやってもらう。
俺は家族以外を前にすると、急に緊張する。何を言っているか解らなくなるらしい。それで、俺は必死になって伝えようとする。だが、それは周りから見ると、とても怖く見えるらしい。だから、そういうことはすべてペギーに任せてある。ペギーは家族の中でも一番社交的だ。
「兄、ユウマ、まだ見つからない。もう少し探す。」
ペギーも一緒になって探しているが、まだ見つからない。
死んだ者を焼く作業がもう始まっている。ここからでも見えるほど大きい炎が上がっている。
「ペギー、一度、戻るぞ。」
「解った。兄。」
「…………。」
「どうした?兄。」
「シッ……何か、聞こえる。」
遠くで何かを叫んでいる声が届いてくる。
『―――ーーい!おーーーーい!見つけたぞぉーーーー!!おーーーーい!』
「兄、ユウマの声。」
俺は頷き、声のする方へ急いだ。
†
どうしてこうなった……
今、俺はウリリから感謝されている。従業員のライキを見つけて担いできたからな。それは解る。
だか、それ以外の人からは、なぜか軽蔑したような目で見られている。いや、うっすらとその原因は解る。その原因かもしれないモノは、今、俺の肩の上で、はしゃいでいる。
白髪の少女サフィーナが、今、俺に肩車されるような形で、立ち上る大きな炎を見上げ、興奮している。
「おー♪おー♪おっきい ひ だー♪」
いや、解るよ?人を探しに森に入ったら、その人見つけて連れ帰ってきて、さらに幼女を連れて戻ったんだから。
「ユウマ、お前はいい意味でも悪い意味でも予想の斜め上をいく奴じゃの。まさか、捜索のついでに幼女を攫ってくるとは。」
「いや、違うしっ!!ガンファ。ついでに攫うってどんなヒトデナシだよ!俺はっ!」
「ん?ユウマ、ヒトデナシなの?ヒトデナシってなぁにぃ?」
「いや、サフィーナ、違うんだよ?お兄さんはヒトデナシじゃないからね?」
「お兄さんだって……それ、完全にアウトなやつじゃないのか?」
カインツが追い打ちをかけてくる。
「ユウマ。変態。寄るな。」
3つの単語でペギーは的確に抉ってくる。
「いやいやいやいや!!違うからーーーっ!!俺は森の中に子供がいたから!!」
「それで攫ってきたのか?」
狙いを澄ましてイッシュ。
「保護だよっ!!ほ・ごっ!!危険だから保護してきたんだよっ!!
エギルさんっ!!あんたは俺の味方だよなっ!!なっ!!」
「へっ?……あー、わりぃ、そっちの趣味の奴よくわかんねぇわっ!」
「あ゛ぁーーーっ!!違うからっ!そ、そうだ……ウリリさん。ウリリさんなら。」
「そ、そうですよねぇ。趣味嗜好は自由ですからぁ~。でもぉ、誘拐は犯罪だと思いますぅ。」
「ぬわぁーーー!!違うって言ってんだろーがっ!!」
「あはははは♪ユウマたち、なんだかたのしいねー♪」
現場は、カオスだった。
「そろそろ、ユウマで遊ぶのは終わりじゃ。ライキが気が付いたようじゃぞ。」
あ、俺遊ばれてたのね……ひでーのな。お前ら。
「ライキさぁん!!無事でぇ……えっぐ……無事でぇ……ひっく……本当によがっだでずぅ……」
ウリリはライキに抱き付き、号泣している。ライキの方は今の状況がよく解っていないようだった。
「ウリリ。悪いが、そういうのは後じゃ。荷馬車の荷物はどうする?このままカインツの馬で曳かせていくか?」
「ひっく……は、はいぃ。そうして頂ければ助かりますぅ。本当にぃ、本当にぃ、ありがとうございますぅ。」
そうだ……ここはまだ森の中。しかも魔物の時間帯である真夜中だ。
一行は、荷馬車に分かれて乗り込み、ガート村への帰路についた。
最後まで読んでくださってありがとうございます。




