10、救出隊
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静かな夜が、破られたのは馬の嘶きによるものだった。深夜を過ぎた頃だろうか。バタバタと人が走る音が聞こえる。門番の声だろうか。怒号が聞こえる。魔物でも出たのだろうか。
俺は、すぐに寝室に出る。丁度、ガンファとアイリも外の様子が気になったのか部屋から出て来たところのようだ。
「何かあったみたいじゃな。ワシはこれから様子を見てくる。お前らは、家から出るな。」
それだけ言うと、ボウガンと矢筒がついたベルトを掴み、外に出ていった。
「アイリ、俺たちも後を着いていくぞ。準備してくれ。」
俺は、ショートソードとリュックを背負う。アイリも何も言わず、立てかけてあった杖を手に持った。
マールさんの所で習得した【隠ぺい】を使えば、ついて行っても気付かれないだろう。
外に出ると、村の門の前に、すでに村人たちの人だかりができていた。その中心には、見かけない荷馬車があった。
さらに見慣れない3人が村人たちに囲まれている。
長剣を腰に下げ、皮鎧を着こんだ屈強な男。
それに隠れるくらい小柄で少しポッチャリした女性。
そして、何か喚き散らしているエルフの男。
「げっ……ザハルさん。」
アイリが、思わず声を出す。
「ん?アイリ、知ってるのか?」
「えと……あのエルフの人。ここから一番近いエルフの大集落の人です。
昔はよくこの村に来て、村の人を困らせてた人だったかと思います。
あと、小柄な女性は毎月、この村にやってくる行商のウリリさん。
……もう一人の方は、知らない人です。」
もしかすると、マールさんの話にあったエルフの集落出身者か……厄介事なのは間違いなさそうだな。
「頼む!仲間がゴブリンの群れに襲われたんだっ!俺たちだけは何とか荷馬車に乗って逃げたが、他の奴が心配なんだっ!!頼む!!仲間を助けてくれっ!!」
屈強な男が村人たちに懇願している。
「どうやら緊急事態みたいだな。」
俺はしれっとガンファたちが集まる輪の中に入っていく。
「おい!ユウマ。アイリまで!!家に居ろと言っただろう!」
ガンファは怒鳴っているが、そんなことは今はいい。
次第に、村の門の前には、多くの村人が集まってくる。行商のウリリは顔なじみなのだろう。心配するように声をかける者もいる。
「すぐに助けに行かなくてもいいのか?」
「じゃが、ゴブリンの群れがこの村を襲いに来るかもしれん。村の防衛も考えなければならんのじゃ。」
たしかに、ゴブリンの群れの規模が解らない今、戦力すべてを救援に向かわせるわけにはいかない。
『おぉ!!アイリーン!!アイリーンじゃないか!!私を心配して駆けつけてくれたのか!』
エルフの男ザハルが空気を読まずに、喜びの声をあげる。
だが、小柄なウリリがひと睨みすると、なぜかザハルは大人しくなった。なんだ?この人怖い人?
まぁ、場が乱れずに済んだのは良かったのだろう。
「ウリリさん。ザハルさん。それに護衛の冒険者の方。救援の要請、承りました。
ガート村 村長バラガが責任をもって、救援を出しましょう。」
バラガさんが、鶴の一声で、決定を下す。さすが村のトップだ。決断は迅速だった。
そうなると話が早かった。ガンファが指示を出し、メンバーが選出されていく。
「俺も行くぞ。ガンファ。すでに、ポーションを持てるだけ持ってきた。」
俺はリュックの中に入れてきたポーションを見せる。さらにインベントリの中には、俺があれ以来、コツコツ作り貯めたハイポーションも3本入っている。
正直、ゴブリンと戦闘になって戦えるかどうかは未知数だ。剣も振り回すだけだろう。でも、人の死がかかっている状況で、何もしないという選択肢はあり得なかった。
ガンファは俺を睨み付けると、無言で頷く。
「あの、ユウマさん……わ、私も……つ、ついて……」
「「「ダメだ!(よ!)」」」
この時、俺、ガンファ、そしていつの間にかその場に来ていたマールさんによってアイリの提案は却下される。アイリはシュンとしているが仕方ない。
「アイリには村の防衛を頼みたい。救出を終えて帰ってきたら村がなくなってたなんてことにならないようにな。」
「う、うん。」
渋々といった感じだが、アイリは頷く。
「ちなみに、私もアイリとこの村に残るわよ。村にゴブリンがやってきた時は任せてちょうだい。」
マールさんが村に残ってくれるということは、ある意味とても頼もしい。半樹精のマールさんは村最強の戦力なのだから。
「よし!じゃあ、メンバーは狩人からはアゴラ、ペギー、それからイッシュとワシじゃ。
あとは、カインツんところの馬を2頭連れていく。カインツも来い。
それから、ユウマじゃ。お前は無茶をするなよ。
他の者は、村の見張りを強化してくれ。何かあった場合は村長の指示で動くんじゃ。
マール。お前に頼むのは癪じゃが、頼んだぞっ!」
呼ばれたそれぞれが頷いていく。
狩人のアゴラとペギーは山猫獣人の兄妹だ。兄のアゴラは20代後半で膂力が強く、強弓を引く。弓の扱いなら村一の腕前だろう。ガンファは、ボウガンだからな。ペギーは20代前半で、力は兄に劣るが素早く器用で、文字通り矢継ぎ早に射ることができる。二人とも獣人ということもあり、夜目、嗅覚、聴覚ともに頼りになる。
イッシュは例の勘違い門番だ。ただ、槍の腕前はそこそこある。そして、ガンファの弟子だけあって、ボウガンも使う。ただ、その腕前はあまり期待できない。
狩人以外から選ばれたカインツだが、彼は元シャール王国の兵士をやっていた30代の男だ。剣や馬の扱いに長けている。今は、村で唯一馬を飼っているため、何かと重宝されている。
ガンファは……まぁ、説明しなくてもいいだろう。する気もない。
「あ、あのぅ……私もぉ、着いていきますぅ。襲われた現場はぁ、大体解りますからぁ。
私の所の従業員も、逃げ遅れているんですぅ!!」
行商のウリリも着いていくと懇願している。ステータスを看破しても、戦えるスキルはない……
ただ、【地図作成】のスキルがあるため、確かに役には立つだろう。
「俺も行く!仲間を置いてゆっくり寝てるなんてできねぇからなっ!!」
冒険者の男か。とりあえず、ステータスを確認するか。
看破……
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■ステータス
名前/エギル・ファウンダー
Lv.3
種族/人間 年齢/35歳 職業/冒険者Dランク
HP 10/35
MP 3/18
腕力 24
体力 20
敏捷度 16
器用度 18
知力 17
精神力 16
称号:落ち目の冒険者 盗賊予備軍
装備:バスタードソード、ハードレザー
スキル
‐【剣術/Cランク】、【投擲術/Dランク】
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えと、この男、エギルか。剣術がCランクまで持ってるな。それなりに戦えるんだろう。
だが、それ以外が気になる。称号に盗賊予備軍とある……こいつ、大丈夫か??
こっそりと、マールさんに近づき、事情を話し、エギルが何も企んでないか確認してもらう。
マールはエギルを魔法で治療すると言い、樹木魔法で調べてくれたようだ。ついでに治療も行なう。
結果は「シロ」。嘘は言っていないようだ。まぁ、注意しておく必要はありそうだが……。
にしても、レベルの基準がよく解らん。Lv.3って弱いのか?でも、村人はほとんでLv.1~2だ。ガンファとアゴラでLv.4、マールさんのLv.15が人外だとしても、そこまで高くならないみたいだな。まぁ、俺もLv.3だからみんな似たような実力なんだろう。
救出隊メンバーが決まると、皆、ランタンを腰に吊るす。松明でも、問題ないが、馬が恐れるのでやめてほしいとカインツに頼まれたのだ。
馬にはカインツが乗り、もう一頭は空馬にしておく。
さらに、薬草小屋に置かれていたポーションや包帯などの医療キットなどを持ち出し、メンバーに配る。皆、準備ができたようだった。
ウリリは、まだ青い顔をしたままだが、少しずつ顔に赤みが差し始めた。
エギルは……正直、表情が解らない。
さぁ、出発だっ!!
『アイリーン!!ここを怪我してしまったんだ!!早く治療しておくれっ!!
な、なんだ!?魔術師っ!私はアイリーンに頼んでいるんだっ!!お前は……ひ、ひぃぃぃ!!』
ザハル……アイツはいったい何なんだよ……色々と台無しだ。
†
暗闇の森を進む救出隊一行。
誰もが無言でランタンに照らされている周囲に目を光らせる。
どうも、ウリリたちは荷馬車で森の中をかなりの間迷走していたようだ。。街道から大分外れているところに轍が見られる。
そんな中、ウリリは迷うことなく、荷馬車が来たルートを正確になぞっていく。
俺は、常に【隠ぺい】を使用している。始めは、ガンファたちは俺の存在感が薄れたことに驚いていたが、スキルだとわかると納得してくれたようだ。
獣人の二人には、居場所がなんとなくバレているようだったが……
しばらくすると、先頭を歩いていたアゴラが、注意を促す。
どうやら近くにゴブリンがいるらしい。
一行に緊張が走る。
俺も暗闇の森の中にある気配を探っていく。遠くで何かが複数いる反応がある。
獣人の嗅覚や聴覚はかなり広範囲にわたって索敵が可能なようだ。しかも、匂いで個体の種族までわかるようだ。
それは、動物である馬の同じようで、耳を忙しくピクピクと動かして、落ち着かない。
獣人の二人はハンドサインでやり取りし、さらに先行していく。
ガンファは無言でそれらを見ている。ここは彼らに任せたのだろう。周囲の警戒に入っている。
Gue… Gie…
ゴブリンのモノであろう、短い悲鳴が響いた。しばらくすると、前方の茂みからアゴラとペギーが出てくる。
「二匹仕留めた。他にはいない。先に進もう。」
妹のペギーが必要最低限の報告をする。兄のアゴラは終始無言を貫いている。
うぉ……プロフェッショナルな雰囲気だな。それぞれ一撃で仕留めたのか。ほとんど音が聞こえなかったぞ。
冒険者のエギルが驚いたように、二人の獣人を見る。
「す、すげぇな。おめぇら。」
「ウリリ。このまま進めば街道に出るが、ルートに変更はないか?」
ガンファが再度確認している。な、なんかガンファの雰囲気も違うぞ……
「は、はいぃ。途中まで街道を進んでいましたからぁ。」
俺たちはこのまま街道沿いに、移動を開始する。すると、街道の脇に何かの影が見える。
荷馬車だ。馬は、すでに逃げたのかいなかった。
「あ、あれは私の荷馬車ですぅ。きっと誰かが逃げてきたんだと思いますぅ。」
ウリリが今にも走り出しそうになるが、それはエギルに止められる。
「血の匂い。」
ペギーが警告する。
たしかに、周囲にはひどい血の匂いが漂っている。人間の俺でも解るほどに……
ここで、俺の【気配察知】に反応がある。それも複数だ。
「中央の木の上に1っ!荷馬車の下に2っ!右手前の茂みに1っ!奥の茂みに3っ!!多いぞっ!」
俺が警告したと同時に、皆が動き出す。
まず最初に動き出したのは獣人の兄妹だ。奥の茂みに消えていく。
ガンファは木の上に向けて、ボウガンを放つ。
カインツは馬を降り、イッシュと荷馬車に走り出す。
エギルはウリリを守るように前に出ていた。
俺は、右手前の茂みにショートソードを突き入れる……ように見せかけて、鋼糸を茂みに数本ぶち込む。
茂みを調べると、頭が吹き飛んだゴブリンらしき死体があった。看破
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ゴブリンの遺骸
討伐者:ユウマ・アリムラ
魔核石 の剥ぎ取りが可能
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初めて見たゴブリン。120cmくらいの背丈で、肌が薄緑、筋張った手足。顔はないため確認できなかったが……
再び周囲を見渡す。木の上のゴブリンはガンファに仕留められたようだ。
カインツとイッシュはそれぞれゴブリンと切り結んでいるが、1匹はイッシュの槍に突かれて、腹から血を流している。
ようやくゴブリンの顔が確認できた。うん……醜い。鉤鼻、乱杭歯、尖った耳、変形し禿げ上がった頭頂部……おっと看破しておこう。
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名前/ゴブリン
ランク/モンスターランクD
HP 10/10
MP 5/5
腕力 8
体力 10
敏捷度 10
器用度 8
知力 8
精神力 5
解説:低級の妖魔。群れで行動し、弱い物から襲い掛かる。繁殖力が高く、すぐに増える。
-スキル【短剣術/Fランク】
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ステータスは低いな。大勢で来られない限り大丈夫だな。たぶん……
奥の茂みの方は、どうなっているか解らない。
俺は、荷馬車の方に助っ人に入る。すると、それに気を取られたゴブリンがカインツに首をはねられ、残る1匹もイッシュに頭を貫かれ、こと切れた。
エギルとウリリはその様子を息をするのも忘れたかのように見入っている。
しばらくすると、奥からもアゴラとペギーが姿を見せる。二人とも怪我はないようだ。
「ユウマの言う通り、3匹いた。すべて仕留めた。」
そう言って、ペギーは3つの小さな魔核石を見せる。
うぇ?この短時間に心臓にある魔核石まで取ってきたのかよ……すげぇな。
「皆、怪我はないか?少しでも怪我をしておるんじゃったら遠慮せずポーションを使え。」
誰一人ポーションを使う者はいなかった。
「し、師匠!俺、やりましたっ!やしましたよっ!ゴブリンは初めてでしたが、まだまだやれそうです!」
イッシュが興奮して戦果を報告している。まぁ、俺も興奮している。だが、俺より興奮している奴を見てると逆に冷めていくもんだな。
エギルじゃないが、ガート村の人ってなんでこんなに戦えるんだ?この村が特別なのか、それともこれが普通なのか……エギルの反応を見ると、前者のように思う。
アゴラが血の匂いが濃い、荷台を調べている。
出てきたのは武装した死体が二つ。
「バートンっ!ジャジャっ!!チクショー……ここまで逃げてきたのに……チクショーっ!!」
カインツがエギルの背中をポンポンと叩いている。
「ウリリ。エギルさん。一旦、この荷馬車を曳いて村に戻るか?お前たちが決めてくれ。」
ガンファが二人に聞く。
「このまま……このまま皆の探索をお願いしますぅ。まだ、あの子たちがぁ……あの子たちがぁ……」
ウリリが震えながら、懇願する。エギルも無言で頷く。
荷馬車の轍の跡は、街道に沿ってにはっきりと続いている。このまま辿っていくことは、そう難しくないだろう。
先ほど発見した荷馬車はとりあえず、このまま放置することとなった。
再び移動を開始する救出隊一行。ただ、無残な死体を見た一同の気は重い。
ただ、無言で皆、歩を進める。
30分ほど、街道沿いを進んでいく。
向こうの少し開けた場所に2台の荷馬車が見える。
燻ったたき火の回りには、たくさんの人が倒れている。
先ほどとは比べ物にならないほど、血の匂いが漂う。ここまで酷いと獣人の鼻も利かなくなるらしい。
一行は、生存者を探す。倒れている者は皆、無残にはらわたが食い荒らされている。
荷馬車に積んでいた食料品も同様に荒らされている。残酷な言い方だが、目の前の生きのいい獲物の方を選んだのかそこまで酷くはない。
酸っぱい物が込み上げてくる。俺は思わず、近くの茂みに入って、すべてを吐き出す。吐いても吐いても、酸っぱい物が込み上げ、しばらく顔を上げることはできなかった。
それについては、誰も何も言ってこない。クソ……情けない。
唯一女性であるウリリは気丈にも、唇を噛みしめ、死体の確認をしている。
無言の確認作業が続いた。死体は、全部で6つ。
冒険者のオーオン。御者4人。それから従業員の一人リーグだった。
「うちの従業員のライキさんの死体が見当たりません、どこかに隠れているのかもぉ……
ライキさぁんっ!!どこですかぁーっ!!助けに来ましたよぉーっ!!」
これまで必死に耐えていたが、従業員が生きている可能性が解ると、半狂乱になりながらその名前を叫ぶウリリ。
「アゴラ、ペギー、ユウマ。お前たちは周囲を探すんじゃ。何か手がかりが残って居るかもしれん。
イッシュ、カインツ、エギルさん。一か所に死体を集めてくれ、ここで燃やすぞ。
このまま血の匂いを漂わせておくと、他の魔物が寄ってくる。
それから、ウリリ。できるだけ周囲を明るく照らしてくれんか。
荷馬車にある松明やランタンをありったけ灯すんじゃ。
それが終わったら、死んだ者たちの形見を選んでやってくれ。」
こんな時に……こんな時だからこそ、ガンファはテキパキと指示を出していく。本人も死体を抱え、一か所に集めている。
「ユウマ、あっち。兄と私はこっち。何かあれば呼ぶ。」
探索班はペギーが指示を出している。
あれ?アゴラはそういうのは苦手なのか?今まで声をほとんど聞いてない。
俺は指示された、方角の気配を探っていく。
――ピロリン♪【隠ぺい/Cランク】を取得しました。――
おっ、ここでずっと使い続けていた【隠ぺい】が成長したようだ。
ん?前方に一つの気配を感知する。よし、こちらに気付いた様子はないな……
慎重に距離を詰めていく。すると、森の中ですこし開けた場所に出る。
それまで雲に隠れていた月が差し込み、暗闇の森の中、あるものを煌々と照らしていた。
1人の少女。歳の頃は10歳ほどだろうか。
月の光を浴び、腰まで伸びた白い髪がキラキラと輝いている。それはひどく現実離れした光景だった。
少女は、月明かりの下で、くるくるとダンスを踊っている。とても楽しげに……
俺は、思わずその様子に引き込まれていた。
「あなたはだーれ?」
気付くと、目の前で、その少女が俺を見上げていた。
最後まで読んでくださってありがとうございます。




