1、苦しみの終わり
初投稿となります。よろしくお願いします。
6/25 誤字修正、微調整しました。
「大変申し訳ありませんが、今回のご融資の件は、ご縁がなかったということで…」
仕立てのよいスーツを着た男性が、表面的な言葉を残してさっさといなくなってしまう。
言われた方の男性は、ため息を吐いて苦笑いしつつ
「……ですよねぇ。」
くたびれたスーツを引きずり、銀行を後にした。
†
くたびれたスーツの男。それが僕。名前は有村悠真、31歳。現在無職。
現在の僕の散々たる現状と略歴を説明すると
・ブラック企業が経営する学習塾の講師となり5年、見事に体調を崩し、血を吐き入院。
↓
・なんと全身に癌が発見!(毎年の健康診断は何だったんだ!)余命1年を宣告される。
↓
・投薬治療により、奇跡的に退院できるまでに回復。心機一転、自らの学習塾を立ち上げることを決意。
↓
・共同出資者の友人に騙され、800万の借金だけを背負わされる。めげずに大小金融機関に融資をお願いするも、最後の銀行が2秒で撃沈。←これがさっきのこと
と、まぁこんな感じだ。そして、現在、とぼとぼと安アパートに帰宅途中というわけだ。
あぁ……終わった。貯金も治療費と薬代で底をついたし、どうしたものか……
明日からバイト探すか……それとも一発逆転ギャンブルに……
はぁ……ギャンブルはないよなぁ……
絶望すると見るモノすべてがモノクロに見えるって本当だったんだな。
と、割とどうでもよいことに感心している自分がいる。
変なところで冷静に分析してしまうんだ。
癌宣告されたときも、まず最初に聞いたのは治療費の見積もりだったもんなぁ……
ん?何か言い争うような声が聞こえる。
あ、なんか金髪とスキンヘッドの兄ちゃんたちが、女の子にちょっかいかけてるな……
女の子は、ちょっと可愛いな。黒髪ロングで、18、9歳ってとこか……
まぁ、どうでもいいけど……どうでも……って、ん? あの子、うちの生徒だった赤井彗未さん。赤い彗星で覚えてたんだが、ってそんなことより、車に乗ったスキンヘッドのほうに車に連れ込まれそうになってるじゃないか。
あーもう、仕方ない!失うものが何もない男の怖さを見せてやるっ!!
「おい!コラっ!兄ちゃん達。その子に何か用か?僕……いや、俺の連れなんやけどなっ!」
こういう時は、勢いと関西弁が重要 のはずだ。知らんけど。
男たちが気を取られている隙に、強引に赤井彗未の腕を掴んで車から引き出した。
「おい、見られたぞ。どうする?」
「仕方ない。やるぞ。」
あるぇ?今、殺るぞ?って自動変換されたような……もしかして、本職さんでしたか……あははは……そうですか……見なかったことにできますか?なに無理ですか?そうですか……ですよねぇ……
しかーし!!ここは地元。
路地に逃げ込めば、うまく撒くこともできるはず!!
「いたぞーっ!あそこだっ!!」
そう思っていたこともありました……
映画のヒーローのようにはいかず、早々に体力の限界を迎える。
昔はもうちょっと走れたはずなんだけどなぁ……
狭い路地。
怒声をあげ、追ってくる金髪たち。
本格的にヤバイ状況になったな。うーん……逆に考えろ。そうだ!あのセリフが言えるぞ!めったにないチャンスじゃないか
「はぁ、はぁ、はぁ……赤井さん。まだ走れますか?」
「はぁ、はぁ、はぁ……え、えと……誰ですか?」
おーっと赤井さん、僕のこと解ってないとか……別に、気にしてないんですけどね?全然気にしてなんてないんですけど……
「あ、あれ?忘れちゃったか?君の通ってた塾の先生してたんだけど…」
「あ……えと…… あり 有岡先生!!大丈夫、まだ走れます。」
有村だよ!コンチクショー!! 大人の対応を返せーー!!もういいっ!あのセリフだ!あのセリフを言ってやる!!
「よし!ごほんっ!えー……ここは僕が食い止めますから!赤井さんは先に行って!!」
よくやった!自分!よく言えたーー!!生涯で本当に使う場面に出会うとは!!
「はい!有岡先生!!ありがとうございました!!それじゃっ!!」
あるぇ??い、いや。いいんだよ。別に。でも、あと何回か言葉のキャッチボールがあってだねぇ…
****
「でも、先生を一人にしていけません!」
「ダメだ!行くんだ!僕のことは気にするな!!」
「で、でも・・・」
「走れぇぇーー!走るんだ。赤井さん!」
「は、はい!!」
****
とかねぇ……。まぁ、いいんだけどね。別に。
あぁー、来ちゃったよ。本職さんたち。あれは相当怒ってるな。謝ったら許して……無理だねぇ。
こうなったら、僕の通信教育の合気道が火をふ……
パスン
……く……ぜ……あ、あれ?……お腹の辺りが……
パスン パスン パスン パスン
あれ?・・・あったかい・・・サプレッサー?・・・銃・・・そっか・・・撃たれのか・・・
っていやいやいや・・・本気で殺しに来たのかよ・・・痛いよ・・・
いたいいたいいたいいたい・・・・ひと思いに頭撃ち抜いてくれよ・・・
って、いないし・・・赤井さん追っかけちゃってるし・・・いたい・・・うわっ・・・腹から血がドクドクでてる・・・なんじゃこりゃーーー!!!・・・今ならあのセリフすごい共感できるし!
いたいいたいいたいいたい・・・
いたいよ・・・いたい・・・いたい・・・
ちからが・・・ぬける・・・
たって・・・られない・・・
からだが・・・おもい・・・
さむい・・・さむ・・・い
あかいさん・・・
ちゃん・・・と
にげ・・れ・・・た・・・かな・・・
†
次に、気付いたら、白く眩しい空間に、僕はいた。
どこだよ。ここ。
たしか、撃たれて……白い空間……この展開って……まさか……
【察しがいいね。君は一度死んだんだ。
それで、ここで違う世界に転生してもらおうと思うんだけど。】
突然の声が響き渡った。
誰……ですか?
あ、いや……流れで大体予想はついているんですが……
【うん。君が思っているのであってるよ。神様ってことでよろしくね♪】
あ、はい。なんかノリが軽いな。
【あははは。それほどでもないけどね。てへ♪】
褒めてない。っていうか、思ったことはダダ漏れみたいだな。まぁ、神様だし仕方ないか。
あのぅ、神様らしい姿が見当たらないんですけど、目の前にある光ってるナニカが神様ってことで宜しいんでしょうか?
【あ、そうそう。そういう認識でOKだよ。あと、気楽にしゃべって大丈夫だから。
にしても、結構落ち着いてるね。急展開すぎるからもっと取り乱すかと思ったよ。】
取り乱すのも忘れるぐらい、テンパっているというか、これまでの人生で急展開は慣れたというか、なんというか……
【うーん……なかなか大変な人生を送ってたみたいだね。主にマイナスな方向で。
でも、安心していいよ。徳もずいぶん積んでるみたいだし、いい転生ができそうだよ。
サクっとこれからのことを説明するからよーく聞いておいてね。】
おおぅ。さらに展開スピードアップでびっくりですよ……
とりあえず転生について簡単にまとめると以下の通りのようだ。
・転生は地球ではなく、異世界“ラクリア”と呼ばれる世界に飛ばされる。
・“ラクリア”は所謂、剣と魔法のファンタジー世界で文明は中世ヨーロッパ程度。
・18歳程度の若返った状態で転生される。
・レベルやスキル、ステータス、メニューといったゲームのようなシステムが実在する世界である。
・特に使命はないが、魔物が多数存在し、弱いとすぐ死ぬらしい。
・今回は特別に、好きなスキルを8つ選べるようにしてある。
とのことだ。なにこれ!?ラノベでよくある展開ってやつですか。にしても、最後の項目、雑というかなんというか…俺TUEEEってことが簡単にできそうではあるよね。
といっても、ゲームとかあんまりしたことなかったからスキルを選べと言われてもなぁ…
【あぁ、せっかく転生するんだから強いスキルをどんどんとればいいんじゃないかな。ほいっ!】
ぽんっ!と厚さ30cmほどのデカイ図鑑のような物が現れる。そこには、【剣術/Sランク】、【火魔術/Sランク】などのスキル名が並んでいる。ってしかも、説明一切なしかよ。これでどう選べと……。
あのぅ……え、えーと……転生しないという選択肢はあるんですか?一応、死んでしまった後のことなんかも気になるんですが……あ、やっぱり死んだ後のことはいいです。どうせ、両親も早くに死別しているし、親戚ともそんなに付き合いがあったわけじゃない。もちろん、彼女もいない……童貞?いや、それはさすがに卒業してるよ……いや、聞いてない?あ、そうですか……でも、赤井さんが助かったのかは知りたいかも……
【えっ!?転生したくないの!?さすがにそれは盲点だったなぁ……君は今、所謂、魂だけの状態なんだ。普通は、天国なり地獄なりに行ってもらうんだけど、今いる転生部屋に入った瞬間、転生するしかできなくなるんだ。まぁ、無理やり出ていくこともできるんだけど、そうすると魂そのものが消滅しちゃうんだよね。これはあんまり、オススメしないよ。
あと、赤井さんのことは大丈夫だよ。あの後、無事に警察に保護されたから。なんでも、組どうしの抗争に巻き込まれたみたいだね。なんせ赤井さんの親は老舗の広域暴力団のトップだから。】
ぶふっ!!なんかとんでもないことが暴露されて、自分の魂消滅とかどうでもよくなったわっ!!
にしても、赤井さんの親がそんなことになってるとは……親子面談したときは優しそうなお父さんだと思ってたのに……今考えると、貫禄はすごかったように思うな。やっぱり大物になると違うのか。
ふぅ……
ある意味吹っ切れたかな。今後、転生なんてチャンスないかもしれないし、前の人生は正直不完全燃焼だ。やり直せるならそうしたい。
あの!転生します。やらせてください。
そして僕は、スキル選びを開始した。
最後まで、読んでくださってありがとうございました。