3 すぐ隣には美人リア充。
上原君は、予鈴の後すぐに教室に入ってきた。
上原君の席は私の席からは遠くかけ離れているから、多分話しかけられることはない…と思う。今までだって、むこうからはあんまり話しかけてこなかったしね。え?悲しくなんてないですよ?
「きゃはっ!じゃ、お返事もらえるようにがんばってねーっ」
蘭がおどけて自分の席へ帰って行った。ふ、ふざけんな!というか、「きゃはっ!」が似合いすぎるんだよ!
あーあ、もうどうしよう?
朝のHRは、普段通り、何事もなく終わった。私は教室の廊下側の一番うしろのすみっこの席だから、そのちょうど対角線上、窓側の一番前に座る上原君がよく見える。とくにあわてた様子もなかった。それはもう、私の手紙に気づいてないんじゃないかと思うくらい。(ほんとだったらどうしよう…)
いつもみたいにかっこよかったよ、うん。
そして今は、一時間目の数学の前の休み時間。今もやはり、私は上原君のことを3秒おきにチラ見しまくってるんだけど、上原君は席に座って本を読んでる。いつものことだ…。
もしかして、本当に気付いてないんじゃないの?気が気じゃないよ…。
「すみれーっ」
「ぐふぁっ」
私がやきもきしてるのも知らずに、能天気なおバカな私の幼馴染が背後から飛びついてきた。今、女子らしからぬ声がしたけど、これ私の声じゃありませんからね?
「もぉ~すみれ、超おどおどしてるねっ!だって王子様のこと、1秒おきにチラ見しまくってるもん!いや~乙女だねぇ!」
おい!私1秒おきにチラ見なんてしてないんですけど!3秒おきなんだけど!
でもさ、好きな人に告白して返事を待つ間って、誰でもそんなもんじゃないの?
蘭にそう尋ねると、
「えぇ?私の時は、そんなことぜ~んぜん!雪耀君はやさしいから、翌日には返事くれたし!」
あっけらかんとして答える蘭。何その言い方!上原君がやさしくないとでも?!
あ、そうそう、今の話で分かったかと思うけど、言い忘れてた。蘭はれっきとしたリア充だ。
え?驚いた?そんな意外かなぁ。蘭は前にも言ったけど美人でおしとやかで、「きゃはっ!」が最高に似合う可愛い子。私の幼稚園時代からの長い付き合いの中で、本当にたくさんの男子をときめかせ、どんな男子に対してもやさしく接し、そして告白まで追い込んだ挙句、ことごとく振る、というのを繰り返している。振る時の決まり文句は、「好きになってくれたのは嬉しいけど、私、好きな人がいるの」。
これまで何人の男子をどん底に陥れてきたのか…その数は計り知れない。
まぁ、男子を振り続けてきたのにはある理由があるからなんだけど、こんな蘭は「悪女」といっても別に差支えないだろう。(蘭、名誉棄損で訴えるとか言わないでね。)
蘭についての説明が長くなったが、彼女の王子様、その名前は「筑波嶺雪耀」君。彼も私やすみれ、上原君と同じ小学校で、私たちが小6の時に二人は付き合い始めた。
二人の馴れ初めはまたの機会にするとして、筑波嶺君は蘭いわく、「何事にも一生懸命で、勉強もスポーツもどっちもそこそこだけど、とにかくひたむきに頑張る姿がとってもとってもかっこいいのー!」だそう。ちなみに筑波嶺君はそこらにゴロゴロしているおこちゃまな男子と違い、やさしくて紳士的。要するに上原君と同類ってこと。二人は仲いいしね。
「でもさぁすみれ!もしすみれがOKもらえたら、私と雪耀君、すみれと上原君でダブルデートできるじゃん!!きゃぁぁ♡ダブルデート!」
蘭だけひとりでテンションMAXだ。蘭は私が上原君のことを好きになってから、毎日10回くらいこの台詞を言うようになった。何なのダブルデートって!変なプレッシャーかけるなよ!
ウハウハ状態の蘭を鎮静させるかのように、1時間目のチャイムが鳴り響いた。
「あ、じゃあねすみれ!ダブルデート!」
蘭は可愛く手を振って(これがまた超似合う)、私の席をあとにした。というか「ダブルデート」って何かの合言葉だったっけ?
最後にちらりと上原君の方をみやると、さっさと教科書を広げて準備していた。数学は習熟度別で、発展クラスと基礎クラスが自由に選べる。でも上原君は、何故か基礎クラスだ。頭いいのに。もしかして、基礎コースに好きな子がいるとか?…そうでないことを祈るけど。
私がごっちゃごっちゃしょうもないことを考えていると、先生が入ってきた。
さぁ、一日の始まり!今日もしっかり集中しないとね!恋のことばかりでなくて。恋のことはなるべく考えないように努力します。
…あー、上原君は今日の授業でも大活躍なんだろうなー。本当にかっこいい。