プロローグ 物語に美少女はつきものだ。
どうも、初めまして。作者の百瀬カルアというものです。
この度はこのような珍奇な僕の作品にご興味頂きありがとうございます。ご期待に添える作品になるのか、どうなのか、分かりませんが、精一杯頑張っていこうと思っております。
一つ、美少女の話をしよう。
この平々凡々たる僕がこの取るに足らず、語るに足らない、特筆すべき事項のまるで見当たらない短い人生の中で出会った、比類なき絶世の美少女の話だ。
彼女の名前は『バンビ』。
とある有名私立高校に通う女子高生だ。
町の高台にある、高級な住宅街に父と二人で住んでいる。
年齢は十七歳。誕生日は8月。
血液型はO型。星座占いはしし座。
左利きで、趣味は読書。好きな食べ物は杏仁豆腐で、髪型はセミロングのストレート。
性格は温厚で、誰にでも優しくとても気が利く。三歳の頃から始めたという習い事は、ピアノにバレエ、生花や料理など、多岐に渡り、中でもピアノの腕は様々なコンクールで優勝した経験もあるという話である。
しかし、そんな瑣末な情報は重要ではない。なぜなら、僕たちにとって一番有益となる彼女の特徴は、彼女が『紛れもない美少女』であるという事実であり、その情報の前には、他の情報など全て霧となって霞んでしまうからだ。
彼女がどれくらいの美少女かと言うと、おそらく、町中で彼女とすれ違った人からアンケートを取れば分かるだろう。
きっと十人中十人が、「あんなに可憐で美しい少女には、今生出会ったことがない!」と興奮しながら答えるに違いない。
僕にはその確信がある。
そう、美少女! 天真爛漫な美少女である。
まるで彼女は、この世の最果てにだけ存在する楽園に、ひっそりと佇み、仄かな芳香を放ちつつ咲き誇る花のよう。
あの潤んだ瞳は世界に溢れる純白な光だけを満たし、きれいで繊細な黒髪は絹のように艶やか、白磁の花瓶を思わす白い肌に、思わず支えてあげたくなるような華奢な体つきは少女らしい丸みを帯びている。
嗚呼、彼女が毎日、自宅の庭先の花壇に水をやるのを知っているだろうか?
清楚で飾らない浴衣を見にまとい、小さな日傘をさしつつ、絶妙なアングルで小首を傾げ、花壇の花々を一つ一つ愛おしそうに覗き込んでいるその仕草を、一目でも見たことがあるだろうか。
僕は見た。この目で見た。
その瞬間に、僕の魂はその形を失った。
ぐにゃっと、ぎにゃっと、為す術も無く鷲掴みにされたのだ。
美しい、彼女は美しい!
まるで、妖精だ! 天使だ!
そう僕の心は浮き足立った。思わず叫びたくなった。
目眩がするほどの高鳴る鼓動、体の中心を駆け巡る衝動。
はあ、と僕はため息を漏らす。
出来るならば彼女をこの腕の中に抱きしめてみたい。彼女を独り占めにしてみたい。きっと、彼女を知っている男ならば、誰もがそう思うに違いない。
しかし、しかしだ。
物事はそう簡単に思い通りにはならない。
そう、人生はいつだって残酷だ。
つまり、彼女には、もう既に、好き合っている「彼氏」がいるのだった。
それも、こんな凡人以下の自分が敵うことなどない、非の打ち所の無い完璧な彼氏だ。
僕なんかが、到底太刀打ち出来るものではない。
僕にとって、彼女は高嶺の花。僕のような人間が到底、手に入れる事の出来ない、空に瞬く一番星。
彼女と僕は吊り合わない。
僕には、そんな資格はない。
だからこそ、僕は演じ続けるんだ。
誰もが望むわけでもない、ただの『脇役』を。存在する意味などない、『脇役』を。
ただひたすらに彼女の幸せを願いながら、僕は、演じ続ける。