第一話 どうやら私、悪役令嬢に転生したようです。
ノリと勢いだけで書いたので、細かいところを突つくと穴が開きます。
サクサクっと終わります。お付き合いいただけると嬉しいです。
朝。学園の生徒が皆、登校する時間。
私は学園の門柱の前で王立ちすると、少し前方にいる栗毛の淑女──ミーナ・サラサーテの後姿に向かって声を掛けた。
「ちょっと貴女?」
しかし、ミーナは私に気付くことなく、同じ時間に登校した他の生徒と挨拶し合いながら学舎へと歩を進めていく。
あー、もう! わざわざミーナが登校する時間を調べ上げて待ち伏せしたっていうのにっ!!
「ちょっと、聞こえてるの?」
じれったくなって私はミーナに走り寄ると、その肩を叩いた。ミーナが驚いたように振り返り、青い瞳で私を見る。
「え……? パトリシア様?」
ミーナは小首を傾げて、私に尋ねて来た。
「何か?」
ヤバい、何その仕草、超カワイイんですけど!
という感情を殺し、眉間にしわを寄せてミーナを睨み付ける。
「『何か?』じゃないわよ。呼ばれたら返事くらいしなさいよ」
「すみません。大勢おりましたので気付きませんでしたわ。どんなご用件でしょうか」
ミーナが礼儀正しくスカートの裾を摘まみながら頭を下げ、改めて私に質問した。
私はウェーブのかかった赤い髪を後ろへ払い除け、顎をツンと上げる。これでミーナには私が彼女を見下しているように見えるはずだ。
「最近、貴女、フィデル様に少し馴れ馴れしいのではなくて?」
私が言うと、ミーナが説明し辛そうに何かを言いかける。
「あの、それは、パトリシア様が……」
「このわたくしに口答えする気?」
ピシャリと言い放ち、ミーナの言い訳をぶった切る。
目の前の少女が切なげに眉根を寄せるのを見て、私は一人満足していた。あぁ、私の演技力って最高かも。
* * *
私はいわゆる前世の記憶を持ったまま生まれた『転生者』だ。しかも転生した先は、元居た世界じゃなくて、前世で大ハマりしていた乙女ゲーム『レイジアント・デイズ』の世界だった。
レイジアント・デイズは、中世ヨーロッパ風の世界を舞台にした女性向け恋愛シミュレーションゲームだ。王都に住む貴族たちが十六歳から三年間通う『学園』を舞台に、主人公であるヒロインが様々な男性(生徒だけじゃなく一部先生も含む)と出逢い、成長しながら恋愛していくというストーリーだ。入学式がスタートで、三年後の卒業時にやってくる流星群の夜にエンディングになっている。
気が付いた時は、もぉ、狂喜乱舞したよね。うふふふ、うふふふ、とニヤニヤ笑いながら部屋の中でクルクルと回る私を見て、両親にはたいそう心配されたけど。あ、ちなみに当時、五歳でした。
確かにね、生まれてそれまでずっと、魔法こそないものの中世ヨーロッパ風の世界だし、やたらと美形が多いなぁ──てか、美形しかいないなぁとは思ってたのよ。気が付いたのは、私の婚約者である『フィデル・アルバラード』という公爵子息の名を聞いたからだ。
あれ? って思って、周りを注意深く見てみれば、『レイジアント・デイズ』との共通点が見つかる見つかる。国の名前、王都の名前、地理、人の名前、等々。おかげですぐに「あ、私、乙女ゲーム転生したんだ」って気が付いた。
前世で『レイジアント・デイズ』を遣り込みまくったのは、ひとえにフィデル様のせいだ。フィデル様が好き過ぎて、フィデル様に声を掛けて欲しくて、フィデル様とデートしたくて、何周プレイしたことか! 友達にもドン引きされたさ。いいの、幸せだったから。
私が転生したのは、そのフィデル様の婚約者という役柄のパトリシア・エスカランテという名の侯爵令嬢だった。いわゆる『悪役令嬢』ってヤツ。ヒロインがフィデル様ルートを選んだときに、その恋路を邪魔する役です。
それに思い至ったときは卒倒するかと思ったね。でも、卒倒はしなかった。代わりに鼻血が出た。やっぱり両親にたいそう心配されたのは言うまでもない。でもさ、でもさ、前世で愛してやまなかったフィデル様の婚約者だよ? 将来、あーんなコトやこーんなコトをしちゃう仲だって公言してる関係だよ? 鼻血くらい出るよね?
まぁ、ただ、現実は厳しかったわけで。
体験したから言うんだけど、乙女ゲームを、ゲーム開始前の時間軸からリアルでやるものじゃないね。
と言うのも、侯爵令嬢としての教養を、一から身に付けなきゃいけなかったからだ。
一般的な勉学はもちろん、マナーにダンス、政の知識や会話術……。侯爵令嬢として生まれたけど、前世のへっぽこ頭しか持っていなかった私には、そりゃぁもう、辛いなんてもんじゃなかった。涙なしには語れない、複数の家庭教師たちが用意する地獄のような特訓を受けた。
これ何てハードモード? パトリシアって、ゲームの設定では成績優秀なすごく賢い女性なはずだったんだけど。その彼女に転生した癖に、なんで外見以外のスペックが前世と同じなのか、本当に謎だ。
まぁ、そうこうする内に私も成長した。『学園』の入学試験も受けた。ギリギリの成績だったけど合格し、無事、入学する運びとなったのが去年のこと。
今は学園生活二年目、花の十七歳です。
本日22時に第二話を投稿します。