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第一話 記憶の欠片(8)

その時、優希が目覚めて操縦室にやってきた。


そして、再び私は、優希と遭遇した。


優希「美紀…ちゃん…」


私は、強い警戒感に襲われた。


緊迫した空気に包まれる。


美紀「来ないで!」


優希「私は、徹君を美紀ちゃんから奪ったりしない…」


臆病になっている私は、どうしても彼女の事が好きになれなかった。


本当は、一番大事な友達なのに…


この時、私の記憶の奥底にしまい込んでしまった思い出が再び蘇る事は無かった。


美紀「嫌っ…来ないで…」


優希「どうして…本当に私の事を忘れちゃったの?」


私に近付いて来る優希にいらいらが募ってくる。


そこへ理穂がやってきて、優希を捕まえる。


優希の腕を引っ張り、首を横に振る。


優希「理穂ちゃん…どうして優希を止めるの?」


それでも優希は、美紀に近付こうとした。


でも、自分の身に危険を感じていた訳じゃない。


ただ自分の気持ちが伝えたかった。


優希「私、水沢 優希は、美紀ちゃんの為にこの歌を歌います。」


そして、優希は、歌い始める。


美紀「この歌…知ってる…紙飛行機…」


その歌は、私がここに来て口遊んだ歌だった。


私を元気付けてくれた歌だった。


嬉しかった。


今度は、私が優希の元に近付いて行く。


いらいらしていた気持ちは、とうに消え、むしろ今は、心地良い気持ちが足を前に進ませていた。


そして、私は、優希の目の前にいつの間にか立っていた。


優希が歌を歌い終わるとそのまま、私と抱き合った。


それは、久しぶりの感触だった。


優希も私もその感触に懐かしさを感じていた。


優希は、私の手を握り…


優希「想い出して…美紀ちゃんの想い出…」


美紀「えっ…うん…」


臆病になっていた…


だからかもしれない…


彼女の気持ちや心の中の想いは伝わっくるものの私の記憶が戻る事は無かった。


でも、優希に対する嫉妬や憎しみは無くなり、代わりに好意を抱く様になってきた。


美紀「うん…あなたの気持ちは、わかったわ。でも…」


優希「でも…?」


美紀「無くなった過去の記憶までは…」


それを悟った優希は、私の胸の中で泣き出した。


優希「嫌ーーーっ。どうして…どうして、美紀ちゃんだけが記憶を取り戻せないの…そんなの無いよ。」


そんな優希に私は、声を掛ける事が出来なかった。


ただ、ただ優希に「ごめんね」と謝る事しか出来なかった。



完全に記憶が戻ってない私だった。


でも、このままここにいる訳にもいかない。


前に進まないといけない。


助けてくれた優希にも、ここにいる仲間達にも申し訳が立たない。


そんな気持ちでいる中、瑞穂も目を覚ました。


私がここにいる事に少し驚いた表情だったがすぐに慣れた様子だった。


ただ、いつの間にか康介がいなくなっている。


瑞穂は、その事を知っている筈なのに口に出さない。


私自身、記憶が戻ってないのもあるけど康介の事は、無論、知らない。


三咲も理穂も理恵もあえて口に出さない様にしていた。



近くに無人の小さな星をみつけた私達は、飛行艇をそこに止めた。


余りに酷く損傷を受けた飛行艇を修理する為だった。


でも、ここは、未知の世界。


何が起こるかわからない。


警戒心を持ってみんなで飛行艇を修理する。


修理と言っても部品を揃えたり組み付けたりする訳では無い。


神の力を己から引き出し、元の形をイメージする。


ただそれだけの作業だ。


しかし、一人の力を使う時間は限られている。


交代で少しづつ修理していく。


そして、私は、みんなの気遣いから監視役をしている。


周りを警戒する役目だった。


何も無い限り、特にする事は無い。


私も一緒になって飛行艇を直したい。


でも、みんなの様な力が自分に備わっているか不安を感じる。


過去の記憶が蘇れば、こんな心配しなくてもいいのに…


そんな事ばかりを考えていた。


次元を超えたこの世界にも星がある。


星を眺めてぼんやりと前を見つめていた。


そこへ後ろから優希がそっとやってきた。


私に気付かれまいと息を殺してやってきたのだった。


私の真後ろに立つと両手で目を塞ぐ。


美紀「誰?」


優希「当ててみてよ。」


この感じ…


この手の感触…


間違いない。


美紀「うん、わかるよ。優希ちゃんでしょ。」


優希「何でわかっちゃったのかな?…でも、美紀ちゃんが元気になってくれて良かったよ。」


遠くから見ていた優希が私の事を寂しげにしていると思ったのかもしれない。


私を励ましに来てくれたのだと思う。


二人ならんで座る。


そして、星空を見つめる。


優希「何があるんだろう…どうして、ここに導かれたんだろう…」


美紀「…導かれた…私達は、勇者として…神様から導かれたの…」


優希「それは、どういう事なの?」


美紀「それは、たぶん、この世界に困っている人々がいる。そんな困っている人々を助ける為に私達がここに導かれたって…私は、そう思うの。」


優希「また、私達の町の様に理性を失った人たちが襲ってくるのかな…そんなの嫌だな…」


美紀「理性を失った人?何の事?」


優希「ううん…美紀ちゃん…何でも無いよ。」


美紀「お願い…教えてくれない…過去の事…」


優希「でも、美紀ちゃんが心配なの。私のせいで…」


「私が美紀ちゃんの記憶を封じ込めちゃったの…だから、これ以上、美紀ちゃんを苦しめたくないの…お願い!わかって…美紀ちゃん。」


これ以上、私は、優希を責める事は出来ない。


過去の事は、知りたい。


過去を知って、自分を見失って、暴走して…


そんなのは、嫌だ。


もう二度と暴走したくない。


美紀「うん、もういいよ。優希ちゃんの気持ちは、わかるよ。だから、心配しなくていいよ。」


優希「美紀ちゃんごめんね。」


そう言って、優希は、走り去って行った。

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