第一話 記憶の欠片(4)
優希の心の中を覗き込んだフレアが直接、頭の中に話かけて来る。
理穂にわからないように…
フレア『久しぶりだね、優希ちゃん。辛いと思うけど、理穂にもまだ、記憶が戻ってない。だから、ここは、引き返して欲しい。』
(美紀ちゃんも理穂ちゃんも私の大切なお友達なのに…優希ひとりじゃ…この先に行く事が出来ないよ。)
フレア『焦らないで…記憶をを戻すには時間が必要なんだ。』
(どれ位必要なの?)
フレア『それは、わからない…理穂次第だと思う。』
(それじゃあ、ここで永遠にって事?そんな事は、させない!記憶を戻す為になら…私は、何でもする。)
時間の見えない記憶の回復に優希は、焦りを覚えざる負えなかった。
それは、記憶は、時間でしか解決出来ない事を示している。
打開策が見つからない今、ここでこうやって過ぎ行く時の流れを見守るしかないと感じていた。
(時間が戻れば…あの時に戻って…)
フレア『時の神ならば…記憶を戻す事が出る。時の神は、時間を自由に操る事が出来るからその時に戻って一気に記憶を回復する事が出来る筈だよ。』
(えっ…時の神って…さっきまでいた。どうして…どうしてこんなにタイミングが悪いのよ…)
フレア『優希ちゃんは、神の紋章を持っているんだよね。それは、時の神の紋章の筈だよ。時の神が優希ちゃんを導いた。だから、それは、間違いないと思う。』
胸に刻み込まれた紋章、それは、必要な時にしか浮かび上がってこない。
今、優希の胸には、神の紋章が浮かび上がっている。
神々が戦士を必要と感じた時に現れる紋章は、不思議な魔力を封じ込めている。
それに、誰しもが気づいていない。
あの神々の試練を受けていた時には、気付いていた筈なのに…
自分の中に潜在する能力は、未知数にある。
時には、神をも超える能力を発揮する事さえ出来る特殊なアイテムだった。
優希は、そんな自分の潜在能力を試す時が来たのかもしれない。
(時の神の紋章…時の神と同じ力を使えば…)
フレア『優希ちゃん…理穂を助けて欲しい。神の紋章が現れし時、悪鬼もまた現れる。されど神の導きの元、悪鬼を追い払う事が出来るであろう。今、それが始まろうとしている。だから、神の導きでみんながここに集結して来ている。』
(私に出来るかな?そんな事…自信が無いよ。)
フレア『これは、優希ちゃんにしか出来ない。時の神の紋章を持っているのは優希ちゃんだけだよ。』
飛行艇から優希は、ゆっくり降りてくる。
そして、理穂の両手を掴む。
誰しも同じだった…
それは、理穂も例外でない。
懐かしさが理穂の心の中を覆う。
この時、これがチャンスなのかもしれない。
優希は、目を瞑り時を操り、記憶を回復させるための準備に入った。
時の神の紋章が光を帯び始める。
そして、優希は、理穂の心に中を覗き込み、時間を遡る。
過去の記憶を全て、走馬灯の様に想い出が蘇ってくる。
幼少の頃の優希と理穂の出会いから今までの事が一つひとつ思い出す事が出来た。
目をゆっくり開ける。
理穂の頬からは、止め処なく涙が流れていた。
記憶は、完全に戻った。
そんな理穂に優希は、声を恐る恐る掛けてみた。
優希「理穂ちゃん…私の事…わかる…?」
理穂「当たり前だろ。優希の事を忘れたりなんかしない!」
その言葉を聞いた優希は、安心感と一人ぼっちから解放された安堵で理穂に抱き付き号泣した。
寂しさと辛さが一気に解放された。
涙が止まらない。
フレアも理穂の横で泣いている。
そして、落ち着きを取り戻した理穂と優希は、飛行艇に乗り込む。
優希の時もそうだった様に飛行艇の中に入った理穂は、落ち着きが無い。
久しぶりの飛行艇。
辛い思い出があったからこそ余計に懐かしい。
飛行艇のハンドルを握った優希は、理穂の手を片手で握る。
理穂「ありがとう…優希…お前がいなかったら、記憶は、戻らなかったと思う。」
優希「徹君は、記憶を全て取り戻している。そして、後…美紀ちゃん…」
理穂「美紀がまだ記憶を取り戻してないのか。」
優希「そう…でも…きっと優希が記憶を取り戻してみせる。」
ちょっと臆病になっている優希を理穂は見逃さなかった。
優希の小さな頃から知っている癖を理穂は、知り尽くしている。
理穂「違うな!何かあったんだろう。正直に言えよ。お前と私が何年付き合っていると思うんだ!」
優希「美紀ちゃんは…ダメなの…徹君しか見えていない…だから…」
理穂に誤魔化しは効かないと悟った優希は、正直に答えた。
その話を聞いた理穂は、少し青ざめた。
でも、そこは、度胸ある理穂の毅然とした態度だった。
理穂「美紀の元に向かう。まずは、美紀だ。彼女がいないと始まらない。」
優希「でも…」
不安そうな顔をする優希だったが今は、一人じゃない。
理穂がいる。
理穂が味方になってくれている。
そんな安心感が優希を前へと進ませる。
そして、再び私と徹の元にやってきた。
でも、優希にとって今の私(美紀)とは、険悪な関係。
臆病になってはいけないと思いつつ、どうしても震えが止まらない。
私(美紀)の事を怖がっているとか嫌だとかそう言う意味じゃない。
失敗を恐れている。
取り返しのつかない事になってしまうが一番恐ろしい。
心を閉ざしている私(美紀)とどう接していいのかわからない。
優希「ダメ!どうしても…動けないの…」
身体をガタガタ震わせる優希を理穂は、暖かく抱きしめる。
理穂は、何も言わずただ抱きしめてくれている。
そして、少し時間をおいて理穂は、優希に語りかける。
理穂「悪かった…美紀は、後にしよう…心を閉ざしていては、どうにもならん。ここは、徹に任せよう。もう少しこのままにしておこう。」
優希「理穂ちゃん…ごめんね。私達の仲間は、これだけじゃない。三崎さん、理恵さん、それから、瑞穂さんやお兄さんの康介さんがいる。まだ、ここに到着していないみたい。だから、そちらを先にするね。」
この世界に入り込んでいない残りの四人の仲間達をどうやってここに招き入れるのか。
仲間が揃わない限り、扉の向こう側に行く事が出来ない。
不安と憤りを感じてしまう。
それでも優希は、前向きに考えていた。
それは、人の心と心を結び付ける事。
それさえ出来れば、仲間達は、必ずここに来てくれる。
天聖の杖を使って魔法で仲間達を呼び寄せてみせる。
優希は、心にそう誓い飛行艇の甲板に出る。
そして、優希は、心に念じて神に誓う。
「神聖の武器よ、我が元に舞い降りよ。」
片手を天に翳し、空間から天聖の杖を掴み取る。
すると、優希の身体の紋章が強く光り出す。
優希「時の神の命だ。我らに集う神々よ!我が元に舞い降りよ!」
第一話 記憶の欠片2
その頃、理恵と三咲は、一緒に登校していた。
通学途中で大勢の学生達が行き交う中を同じ様に二人並んで歩いていた。
三咲「今日の授業は、しっかり聞いておかなと…」
理恵「中間テストも近いからね。」
何か聞こえる…
三咲「何だろう…」
周りを見渡しても声を掛けてくる様な人は誰もいない。
理恵「私も聞こえる…何?」
二人の目の前に歪んだ空間が現れる。
三咲「何だ…これは…」
理恵「面白そうだよ、行ってみようよ。」
理恵は、三咲の手を引っ張り歪んだ空間の中に足を踏み入れる。
理恵「きゃーーーー」
足を踏み入れた先に地面が無い。
空間の中に落ちて行く。
それを見かねた三咲も同じ様に歪んだ空間に足を踏み入れる。
三咲「うわっ…きゃーーーー」
そして、三咲と理恵は、優希の元へと飛ばされていった。