第一話 記憶の欠片(3)
その頃、私(美紀)は、徹の側にずっといた。
優希の操縦する飛行艇が私と徹の目前まで近づいてきた。
徹「うん?…何か来る…この気配…間違いない!飛行艇だ!」
当然、声を出す徹に私は、少し驚きを隠せなかった。
美紀「飛行艇?何だったんだろう…」
記憶が近付いたり、遠ざかったり…
はっきりわからない。
そんな中、飛行艇の姿が私の前に現れる。
美紀「懐かしい…この感じ…」
そして、飛行艇の中から優希が急いで出て来る。
久しぶりの再会に心を躍らせる優希は、私目掛けて走ってきた。
でも、その時、私は、記憶がまだ戻っていなかった。
記憶の断片が優希の事を覚えているだけで、優希の駆け寄る姿は、写真のコマ送りの様にしか見えなかった。
私は、優希に何て言っていいのかわからない。
抱き付いてきた優希を私は、暖かく抱きしめる。
なぜ、そうしたのかわからない。
たぶんそれは、私の中にある記憶…
そこへ、徹が優希に話かけて来た。
徹「優希ちゃんは、記憶が戻ったんだね…良かった…」
徹の方を振り向いた優希は、次に徹の方へ駆け寄る。
優希「徹君…あなたにも会いたかった。」
久しぶりの再会に喜びを隠しきれない優希は、徹にも抱き付いた。
それは、私にとって好きな人を取られた感覚に陥ってしまった。
記憶の断片しか戻ってない私は、優希に強い嫉妬を抱いてしまった。
もし、記憶が完全に戻っていたら私は、こんな事は、しなかったと思う。
その時の私は、好きな人は徹で…
徹は、私だけを見ていてくれている。
そんな思いが強く、強い嫉妬は、私の心を怒りに変えてしまっていた。
徹に抱き付いた優希を強引に引き離した私は、優希の頬を平手で引っぱ叩いた。
優希「嫌っ…痛いっ。」
美紀「この!泥棒猫!徹に触るんじゃねえ!」
私の豹変ぶりに驚いた優希は、怖さと言うよりも訳が解らなくなってしまい、泣き出してしまった。
そんな怒りを露わにした私を抱きしめ落ち着かせてくれた。
安心した私は、そのまま、徹の胸の中で深い眠りに落ちた。
それを見切った徹は、優希に私に記憶が無い事を話した。
徹「優希ちゃん…ごめん…僕が軽率だった。」
優希「どうして…美紀ちゃん…どうしてこんな風になったの?こんなの美紀ちゃんじゃない…」
徹「僕が悪いんだ。記憶がまだ戻ってない美紀の前でこんな事をすれば、当然、美紀は怒る。美紀は、僕しか今は、見えていない。」
優希「そんな…記憶が戻ったのは、私と徹君だけなの…。」
徹「たぶんそうだと思う。だから、ゆっくりと刺激を与えない様に美紀の記憶を回復させる。今は、それしかないんだ。」
行くべき扉は、目の前にある。
でも、その扉までの距離がこんなに近いのに物凄く遠くに感じる。
それは、記憶の欠片との戦いだと思う。
すでに戦いは、始まりを告げているのかもしれない。
徹「優希ちゃん、美紀は、暫く僕に任せて欲しい。それから、もう一人気配を感じる。それは、恐らく僕たちの仲間だと思う。」
優希「うん、感じるよ。優希も…私は、そこへ行ってみる。今度は、こんな事が無い様に気を付けるね。」
立ち上がる優希に徹は、手を差し伸べて希望を託す。
徹「優希ちゃん、お願い!みんなを助けて…みんな揃わないとこの扉を開く事が出来ない。」
優希「うん、優希に任せて!私は、優しく希望が持てる子になって欲しいって…お母さんとお父さんに名前を付けて貰ったんだよ。だから、負けないよ。徹君、美紀ちゃんをお願い!」
そう言うと優希は、飛行艇に乗り込み、理穂に元に向かった。
優希にとって理穂の存在は、大きなものだった。
それは、兄弟姉妹と同じかそれ以上に親しかった。
しかし、記憶の無い理穂は、それを覚えていない。
断片化した記憶は、時に誤解を生む事がある。
間違った記憶が正しい記憶と入れ替わり残ってしまう事すらある。
悲しい事…
幸せになる筈が不幸のどん底に変わってしまう。
優希と美紀がもうその関係になってしまったのかもしれない。
あんなに仲の良かった友達や兄弟が…記憶が無い…それだけで敵対関係になってしまう。
神々の試練がまだ続いているのだろうか。
慎重にならないと美紀との関係の二の前になってしまう。
優希は、痛く苦い経験から少し臆病になってしまっていた。
それでも、前に進むしかない。
頬を伝う涙を腕で吹き払い飛行艇を理穂の元に向けて飛ばした。
一方、気配を感じていたフレアは、飛行艇のある方向を眺めていた。
理穂は、フレアと共にそれを見ている。
フレア「あれは…間違いない。飛行艇…」
不思議そうな顔をする理穂の顔を見たフレアは、理穂に飛行艇の事を尋ねてみた。
しかし、理穂は、首を横に振るだけで全く覚えていない様子だった。
そんな中でも唯一、懐かしさだけは、残っている。
美紀の時もそうだった。
記憶の断片がそうさせているのだと思う。
飛行艇の甲板から優希は、理穂の顔を見る。
そして、側に行って抱きしめたい。
そんな衝動に駆られてしまう。
でも、優希の記憶の中にある理穂と違う。
それは、美紀の時の経験からそう感じる事が出来た。
すると今度は、悲しみから涙が零れそうになる。
優希「理穂…ちゃん…もなんだね…」
言葉が自然に出て来る。




