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第一話 記憶の欠片(1)

平穏な日々、私はいつもの様に登校する為に準備をしていた。


私の名前は、冴島美紀さえじまみのり


今年の夏に天聖学園に転校してきたばかりの女子高生。


誰もが異次元へと飛ばされる事など予想しなかったと思う。


選ばれし者が背負う宿命だったのだと思う。


そして、神々の悪戯なのか悪夢がまた始まろうとしていた。




異変に気付いたのは、朝だった。


自分の部屋の中に霧が立ち込める。


(何故、部屋の中に霧が発生するの?有り得ない…)


不安に駆られる私に更に追い打ちをかける様に今度は、不自然な白い光が霧の一粒一粒から発生する。


異常な雰囲気が立ち込める部屋の中から外へ逃げ出そうとドアノブに手を掛けた。


「開かない!扉が開かない!助けて!誰か助けて!」


大声をだし、助けを呼んだ。


しかし、その声も霧に飲み込まれてかき消されてしまう。


恐怖が私の心の中を蝕んでいく。


大きく膝を崩した私は、扉に凭れ掛る様に倒れ込んだ。


暫くすると、声が聞こえてくる。


『神々に選ばれし者達よ、今、旅立ちの時、混乱の世界を救う救世主よ、今現れん。』


「そんなの…知らない。そんな力なんて私なんかに無い!」


繰り返し何度もその言葉が繰り返される。


さらに恐怖が私に襲ってくる。


耳を両手で塞いでも手をすり抜けて耳に声が届く。


その声の合間から別の声が聞こえてきた。


「大丈夫だよ。僕が付いている。心配しないでいいよ。美紀には、大きな力がある。だから、僕が守ってあげるからおいでよ。」


(嘘よ!私には、そんな力なんて無い!)


そう思うだけで声がその思いに答えてくる。


「嘘じゃないよ。本当だよ。美紀は、僕の事を忘れてしまったの?僕は、美紀の事が好きだよ。」


私は、記憶にない。


以前は、女子高だったので男子なんていない。


そんな私に当然、彼氏なんていない。


(嫌!止めて!そんなの知らない!)


「記憶の欠片を呼び覚まして!お願い!」


(記憶の欠片…懐かしい感じがする。何だろう…暖かい感触…)


「そうだよ。心を静めて、僕の事を想い出して!」


心を静める私は、この感触をどこで感じたのか思い出そうとしていた。


口から自然に言葉が出る。


「(…と…お…る…)」


「そうだよ。僕の名前だよ。」


懐かしい響き…


優しい響き…


「全部思い出さなくてもいいからね。僕を信じてくれる?」


この人なら大丈夫。


私に安心感を与えてくれた。


「(うん。)」


そう、また、自然に言葉が出る。


「目を瞑って…そして、言うんだ。『神の命に従い、我を導け』と…」


半信半疑だった。


でも、この懐かしい感触にどうしても捕われてしまう大きな魅力を感じた。


たぶん、この感じは、初恋の予感に近い。


私は、その言葉を信じ彼の言うとおりに言葉した。


「神の命に従い、我を導け!」


落下する様な感覚が全身を襲う。


「きゃーーーーーー!」


そして、意識を失ってしまった。


これが、異次元への旅立ちであり、そして、それは、物語の始まりでもある。



私は、目が覚めた。


暖かい感触が伝わってくる。


夢でも見ているかのようだった。


そして、目を開けると、同じ世代の男の子に抱かれている。


肌のぬくもりは、その男の子から受け継いだものだった。


ぼんやりと見える彼の顔。


そして、どこからか声が聞こえてくる。


『導かれる者は、強き力の持ち主。』


『選ばれし戦士は、ここに集わん…』


(何の事かわからない。でも…優しいこの感触は、どこかで味わった様な気がする。)


男の子が声を掛けてくる。


「大丈夫?美紀みのり?」


懐かしい声…


(どこで聞いたんだろう…この声…)


記憶の欠片が反応していたんだと思う。


ふと、私は、自分の姿を見た。


それは、生まれたままの身体…


裸だった。


それを承知で男の子は、慌てる事もせず、私を抱いている。


私も他の男の子だったら慌てて身を隠すのが普通だと思う。


でも…


彼のぬくもりを感じていたい…


こんな気持ちに駆られるのはどうしてだろう。


不思議な感覚が私を覆っている。


そして、彼の瞳を見たとき、涙が自然に溢れてくる。


(思い出せない悔しさなの…)


(違う…)


(暖かい心がそうさせているの…)


(違う…)


私は、どうして涙が溢れてくるのかわからなかった。


でも、彼の名前は、知っている。


(とおる…)


どうしてかわからないけど、その名前を口に出していた。


彼は、優しく私に答えてくれた。


「美紀は、僕の名前を思い出してくれたんだね。」


透き通った真っ直ぐな声に反応する。


声でじゃない…心の中の何かが反応している。


この人は、私の心を知っている…。


何もかも、私のことを知っている…。


たぶん、その安心感が私の心を許しているのだと思う。


不思議な感触の中、私は、彼に抱かれていた。


彼は、そっと、私に自分の着ていジャンバーをそっと、私の身体に掛けてくれた。


そして、優しく私を腰掛けさせてくれた。


私は、言葉を繰り出す彼に耳を傾けた…


徹「美紀は、やっぱり来てくれたんだね。」


何の事かわからない。


でも、恐怖心とかは無い。


むしろ、安心感がある。


そんな中で私も言葉を返す。


美紀「わからないの…でも、私は、あなたといると安心できる…どうしてなんだろう…」


徹「それは…僕の彼女が美紀だから…初恋の人だから…」


初恋の人…


その言葉が妙に心地いい。


私の好きな人だったのか…


でも、わからない…


想い出せない…


徹「焦らなくてもいいよ。ゆっくり想い出してくれればそれでいいんだよ。」


私の過去に私の知らない何かがある。


それが想い出せない…


今度は、悔しさから涙が溢れてくる。


そんな私を見て徹は、また側に寄り添い私を抱きしめてくれる。


肩を震わせて泣く私に徹は、何も言わず、いつまでも抱き締めてくれていた。




どれくらい時間がたったのだろう。


徹は、うとうと眠りに落ちていた。


そんな徹の頭を私が撫でている…


この気持ちは、恋をしている事なんだろうか…


でも、それは、間違いない。


私は、いつの間にか徹のことが好きになっていた。


殆ど会話なんてしていない。


それなのに何故か彼の事が好きになっている。


過去の忘れられた記憶がそうさせているのだと思う。


そうであっても今、私は、徹と一緒にいたい。


間違いなく恋をしている。


眠っている徹の頬に軽くキスをする。


幸せな感覚が私の心を支配する。


そして、目を閉じた私は、いつの間にか歌を歌っていた。


頭の中から自然に湧き出てくる歌…






「青空の向こうに君がいる。


そんな、君にぼくの想いを届けよう。


紙飛行機は、弧を描く。


想いを乗せて…


気持ちを乗せて…


いつまでも、君の元に届くまで


飛んで、僕の飛行機


回って、飛んで…


いつか、君が振り向いてくれるまで…




星空の向こうに君がいる。


好きな、君に恋の願いを届けよう。


紙飛行機は、弧を描く。


夢を乗せて…


希望を乗せて…


永遠に、時の壁を飛び越えるまで


飛んで、夢の飛行機


回って、飛んで…


いつか、君が振り向いてくれるまで…



飛んで、回って、飛んで…


僕の紙飛行機」






(何なんだろう…)


(この歌…)


(知っている…でも…)


徹「その歌は…優希ちゃんの歌だよ。」


美紀「優希ちゃん…って…誰なの?」


徹「美紀をお姉ちゃんみたいに慕ってた。」


美紀「お姉ちゃんみたいに…知りたい…どうしても私の想い出を…」


徹「そう…。美紀の記憶の欠片が鼓動をし始めている…」


美紀「記憶の欠片…それは…」


徹「美紀の心の中に潜在している記憶の中…忘れられた記憶の欠片が反応しているんだよ。」


美紀「知りたいの…徹の事も…優希ちゃんの事も…」


徹「ゆっくりでいいから焦らずに思い出していけばいい…」


神の導きは、私の過去を呼び覚まそうとしている。


その想い出は、私にとって掛替えのない出来事だったに違いない。


どうしても、思い出したい。


そうすれば、ここに導かれた理由がわかると思う。


でも、どうしても思い出せない。


過去の想い出が…


徹との想い出が…


ゆっくりと時が流れる。


ここは、何も無い世界。


異次元の扉の前に徹と私はいたのだ。


それを知らない私は、ただ、側に徹がいて私を優しく包んでくれている。


それだけで私は、幸せに感じていた。


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