第二話 異世界(8)
三咲「徹君…優希ちゃん…眠ってる。」
理恵「泣いて、泣いて、なき疲れて…」
徹「神の力が使えない今、みんなが疲れ切ってしまっている。」
三咲は、優希を背負ったまま、徹と共に美紀の入ったあの部屋の前に立つ。
三咲「ここは…」
徹「美紀も瑞穂さんも理穂さんも中にいる。」
理恵「でも…」
優希と瑞穂が喧嘩したばかりで足が前に進まない。
徹「もう大丈夫だよ。瑞穂さんも安らぎの中にいる。」
三咲「安らぎの中って…?」
徹「僕は、美紀の気配を感じ取る事が出来る。だから、優希ちゃんも連れて中に入って!」
理恵「うん。でも、徹は、入らないの?」
徹「この部屋の中には、男は入る事が出来ない気がする。」
理恵「どうして?」
徹「それは…」
理恵「大丈夫だよ。ね!徹君も入ろうよ。」
徹「う…うん。」
ドアを開ける。
そして、中に入る。
不思議な空間が広がる。
それは、幸せに道溢れた空間…
楽しそうにしている、美紀。
僕は、そんな美紀の姿は、初めてだった。
何もかもさらけ出して裸の美紀がそこにいた。
その姿は、イヤらしいとか泥々している関係でなく、真にきれいで純粋だった。
裸なのは、美紀だけでは無い。
理穂も瑞穂も裸だった。
そして、その回りには、ミリアムと同じ格好の小さな子供達が取り囲んでいる。
まるで、それは、信頼関係を完全に作り上げている不思議なオーラを帯びている。
理恵や三咲の回りにもこの世界の子供たちがやってくる。
美紀や瑞穂、理穂と同じ様に…
『遊んで、遊んで…』と…
優希を下に降ろした三咲や理恵も、だんだん場所に慣れて来たのか徐々に心を許し始める。
そして、そんなざわめきに目を覚ました優希も自然にその雰囲気に溶け込んでいった。
ただ、徹だけが宙に浮いている。
母性本能を擽る女性の姿でない徹には、誰も寄って来ない。
男がこの部屋の中にいる事自体間違っている。
それに気付くと徹は、この部屋から出てこうとした。
しかし、ドアにノブが無く部屋の外からは入る事が出来ても、中から外に出る事が出来ない。
閉じ込められてしまっている空間だった。
ミリアムが外から扉を開けてくれるまでこから出る事が出来ない。
仕方無く、僕は、美紀達の様子をここで見るしかする事が無かった。
美紀が僕に気付いたのか僕の手を引き、元いた場所に戻る。
そして、楽しそうに話掛けてきた。
美紀「最初にこの子たちに会った時、本当に寂しそうな顔をしていたの。でも、今は、こんなに楽しそうよ。私は、この子たちとこうやって遊んでいるだけでも本当に幸せなの。」
徹「それは、良かったね。でも…ううん…何でも無い」
言い掛けた言葉に僕は、詰まってしまった。
それは、美紀にとって今が幸せならば、それでいい…
ただ、ここに来た本文さえ忘れてくれなければ、それで良かった。
子供たちを甘やかせる事としつける事の意味が違う。
そして、いつまでもこうしている訳にもいかない。
この部屋の中の雰囲気にどっぷり漬かっていく姿を見ると怖いものすら感じてしまう。
僕がここでそれを指摘すれば強い非難を浴びてしまう。
徹「うん。まずいな…この状況…」
僕は、この部屋の中にいる子供達を一ヶ所に集める事にした。
神経を集中させ子供たちに問い掛ける。
『みんな、ここに集まって!大事なお話があるんだ。』
子供たちが僕の心の言葉を理解してくれたのか、一斉に僕の回りに集まってきた。
『みんな、よく聞いてね。僕たちは、この世界の人じゃない。君たちの遊び相手でも無い。僕たちは、君達をこの部屋から出して自由にしてあげる為に来たんだ。だけど、今は、部屋の外に悪い連中が一杯いる。』
ざわめく子供たちの声が聞こえる。
それでも僕は、話を続けた。
『君たちのお父さんやお母さんと一緒に悪い連中と僕たちは、戦う。だから、寂しいかもしれないけど、みんな、我慢出来るかな?』
子供同士が顔を突き合わせ話す声が聞こえる。
やがてみんな一斉に部屋の奥に行ってしまう。
美紀たちは、そんな僕の姿を何も考えて無いかの様にじっと見つめている。
そして、暫くすると、部屋の奥から何かをみんなで背負って持ってきた。
徹「何?」
『守って…お願い。…みんなを…自由に…』
そして、子供たちが持って来た物を手に掴む。
徹「武器…えっ…拳銃…何で僕たちの世界の物がここに…」
『助けて…お願い。』
徹「わかった。でも…その前に…」
美紀たちの方を見る。
『任せて!』
子供たちは、一斉に仲間の女性陣に突っ込んでいく。
美紀「わっ!痛い!」
理穂「痛っ!」
三咲「痛ーい!」
……みんな意識を取り戻していく。
瑞穂「どうして…私どうしていたのかしら?」
徹「うん、ありがとう。」
子供たちは、手を振り部屋の奥に入って行った。
そして、仲間の女性陣の方を見た時、徹の頭に何か飛んで来た。
理穂「ギヤーっ…見るな!」
理恵「うわっ…裸!」
優希「スッポンポンだよ。わはっ♪」
美紀「徹が目を覚まさせてくれたんだよ。ありがとう。徹!」
徹の方を振り返ると徹が倒れている。
美紀「あれっ…どうしちゃったの?」
徹「痛ってー!理穂さんの攻撃が直撃した…」
理穂「私の裸を見るからだ!」
優希「理穂ちゃんストライクだね。」
徹「さてと…どうしようかな…」
この部屋に閉じ込められている。
これからどうするか徹は、考えていた。
優希「うん?…徹君?何を考えているの?」
徹「どうやってこの部屋から出るかだけど…うーん…」
優希は、ドアを開ける。
優希「ほら、開いたよ。」
徹「嘘?何で?」
優希「ここを回して…ほら!」
徹が見た時は、ドアノブが無かった。
でも、今は、ドアノブがある。
狐に撮まれた様な錯覚に陥る。
徹「う…うん、ありがとう。優希ちゃん。」




