第二話 異世界(2)
何も知らなかったからだと思う。
優希、三咲、理穂の三人は、私の側に寄り添い励ましてくれた。
それは、仲間と言うよりも兄弟や姉妹の様な感じがする。
側にいるだけで暖かさが伝わってくる。
美紀「じゃあ、動かしてみるね。」
何も変わらない。
周りが暗闇に包まれているからかもしれない。
見えない景色が不安を覚えてしまう。
少なくとも三人は、そう感じていた。
でも、私は、違っていた。
三人の気持ちが私を突き動かしていたのかもしれない。
不思議に気持ちは、凄くリラックッスしていたのだ。
私の操縦する飛行艇は、ゆっくりでも前に進んでいた。
徐々に外が明るくなってきている。
日が昇るのか…
わからなかったけど、暗闇から解放される喜びが湧いてきている。
外は、さらに明るさを増してくる。
そして、私もみんな甲板に出る。
見渡す限りの海が続く。
陸地が見えない。
途方に暮れる私達は、辛さと心細さから泣くしかなかった。
食べ物も飲み物も何も無い。
ここに来て空腹感が強く襲ってくる。
余計に辛い…
神々の試練の時にこんな事は、感じた事が無い。
食べ物は、想像する事で出てきた。
だから、食うには困らなかった。
でも、今は違う。
神の力が喪失して普通の人間になってしまった。
当然、食べ物を想像しても出て来る事はない。
死ぬのを待つしかない。
そんな絶望感が漂い始める。
時間が経つに連れて喉の渇きが強くなってくる。
そして、交わす言葉も出なくなってきた。
そんな時だった。
遥か彼方に島があるのを優希が発見した。
優希「あそこ!あそこに何かある!」
私は、その島に向けて飛行艇を進める。
そんなに遠い距離じゃないのに遠くに感じてしまう。
そして、それでも、島が大きな姿になってくる。
岩場ばかりで何もない。
生き物さえいる気配がない。
愕然とする私たちは、途方に暮れるしかなかった。
もう、精根尽き果ててしまった。
ここには神様がいない。
生きる希望が無くなってしまった。
そんな風に思うしかなかった。
ここまでの旅の中で私たちは、神の力ばかりを頼ってきた。
罰が当たったのかもしれない。
こんな離れた場所で…
誰も助けに来てくれる事はない。
諦めるしかなかった。
喉の渇きが限界に達していた。
自分の唾も出てこない。
こんな広い海に水が溢れているのに…
飲むことが出来ない。
空を眺め目を閉じてただ自分の死を待っている。
誰一人言葉を口にする者はいない。
気力さえなくなってしまった。
やがて意識が遠のいていく。
死の淵を彷徨っている。
神様も仏様もいない辺境の地で私たちは、死んでしまった。
死んだ、私たちは、何に生まれ変わるのだろう。
…………
目が覚めた。
ここは、死後の世界なのか。
煉瓦積みの古い宿に私たちは寝ている。
古風な雰囲気が漂うこの部屋で私は、むくっと起き上がる。
日本という雰囲気じゃない。
どちらかと言うと西洋に似た感じがする。
窓際のカーテン外を見てみる。
そこは、石畳が引かれ、人に似た格好で小悪魔でコウモリの羽の生えた様な人々が行きかう。
そんな中、馬車も通っていった。
馬車の馬には、角がはえて足が六本ある。
妙な形をしているのに器用にその足を動かしている。
まだ、夢の中にいる様な世界が広がっている。
やはり、私たちは、死んでしまったのだろう。
みんなまだ目覚めていない。
私だけが起きている。
そんな部屋の中でチョロチョロと動く気配がする。
美紀(何?何なの?)
窓のカーテンの片隅に何かいる。
私は、そっと近付きそれを捕まえ様とした。
すばしっこく逃げ足が速い。
ピョンピョン飛び跳ねる姿が見える。
(ウサギ?…?…なの?でも、小さ過ぎる)
そして、優希の寝ている布団の中に入っていった。
ムニュムニュっと布団が動く。
「キャッ…ハッ…ハッ…くすぐったい。」
美紀「優希ちゃん捕まえて!」
ムクッと起きた優希は、キョトンとしている。
優希「えっ…ここどこ?」
目が覚めたばかりの優希は、何が起こっているのかわからない。
そして、ウサギに似た小動物は、次に瑞穂の布団の中に入っていく。
美紀「今度は、瑞穂の布団の中!」
好奇心旺盛で興味津々になってしまった私と優希は、その小動物を捕まえようとはしゃりきになった。
優希「よおーし!優希に任せて!」
そっと、寝ている瑞穂に近付いて布団の上から優希の身体が瑞穂の上に圧し掛かる。
瑞穂「うぐっ…ぎゃーーー!!!」
そんな事は、お構い無しに小動物を捕まえる事に夢中になっている。
目覚めた誰もが優希と同じ反応をする。
瑞穂「ここは、どこ?」
優希「どこでもいいじゃん。それより、あいつを捕まえて!」
逃げ迷う小動物は、次に理恵の布団の中に入っていく。
理恵は、目覚めていた。
キョトンとする理恵にまたもや優希が突進する。
理恵「うわーーっ………何なのよ………???で…ここどこ?」
こんな大騒ぎで徹も三咲も理穂も全員が起き出した。
徹「僕達…生きていたんだ。どうなってるんだろう。」
徹の手の上に逃げ込んだ小動物は、徹が手を握った時、簡単に捕まえる事が出来た。
徹「こんな可愛い子を苛めちゃダメだよ。」
そう言いながら徹は、小動物の頭を撫でる。
その小動物は、小さな耳にウサギの格好をしているがウサギとは違う。
私たちの世界には、こんな珍種はいない。
そして、その子(小動物)は、いつのまにか徹に慣れてしまっていた。




