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冒険者ギルドも忙しいんです?

作者: 竜天

せっかく登録したので、どこかで見たことあるようなテーマで書いてみました。


 この世界ミルサスには色んな仕事がある。

 戦士、魔術師、鍛治師、商人──。

 挙げたらきりがない程だ。

 そんな人たちに一番忙しい職業を尋ねると全員が悩む。

 自分の仕事が一番と、言いたい所だが噂を聞くだけでも忙しそうな職業だってある。

 経験がないからはっきりと断言出来ない。

 だが、逆に暇そう、簡単そうな職業を尋ねると一部を除いた人々が答える。

 冒険者ギルドの職員だと。

 多くの人が思うならそうなのかもしれない。

 だが、言わせてもらいたい。

 冒険者ギルドも忙しいです、と。




「よぉ、レギウス。相変わらず暇そうだな」

 冒険者ギルドの一角、依頼受付口で戦士風の男が軽口をたたく。

「暇じゃないって、前から言ってるだろ。……で、依頼受けにきたの?」

 同じようなやりとりを何度もやっているので返事も適当になる。

 応対しているのがレギウス、つまり俺だ。

 一応、朝から受付口にいるから暇ではなく。立派に仕事をこなしているのだ。

「受付口にいるだけだから暇だろ。ただ座っているだけでいいんだから」

「あのなぁ、受付口に座っているだけでも意外と大変だぞ。まず、この空間から移動できないから、見えないところでストレスがたまる。さらに、座っているだけでもやっておかなきゃいけない事がある」

「なんだよそれ」

「依頼書の管理だよ。冒険者が受けた依頼、実受諾の依頼、新規で入ってきた依頼、それぞれの確認作業があるんだよ」

 これらの作業だけで午前は終わる。

 まぁ今日は新規で入って来た依頼が無いから幾分か余裕があるけど。

「そんなの魔法でチョイチョイ、だろ?」

「王都のギルドならそれでも良いだろうけど、ここは田舎のリベラルだぞ。魔道具だって設備費がバカにならない。お前、王都で使われている管理システムいくらか知ってるか」

 後半は小声、しかも男に顔を近づけて言う。あんまり口外してよい話でもないのだ。特に魔道具は半数が魔術ギルドと鍛冶ギルドで製造、管理されており、一般には秘匿されている情報があったりするので声高々には話せない。

「あー、3万」

「安すぎ。270万だよ」

 男は目を見開く。そりゃそうだ。270万もあれば10年は遊んで暮らせる。

 魔道具は特殊(しかも貴重)な素材を扱う事が多い。その上規模が大きいものだから余計に費用がかさむのだ。

「しかも、維持・整備費が毎月1万。おまえ、うちのギルドがそんなに金持ってると思うか?」

「悪かったよ」

 おい、そんなにうちのギルドは貧乏に見えるのか、見えるんだろうなぁ。

「でもよ、それが忙しいって理由にはならんだろ。その程度、ガキでもできるんじゃないか?」

「そうでもないさ。滅多に来ないが、パーティ申請に来る人や募集をかける奴の手伝いもある。中々手が回らんよ」

「でも今は無いんだろ?」

「無いけど」

 偶にはあるんだ。3月に1回程度だけど。

「なら暇じゃねーか。今だって俺と駄弁ってるくらいだし」

「こう見えて、今仕事してるぞ」

 見た目ほど暇してないとちょっと得意げに話す。

「冒険者と話す事が仕事っていうなら、それ無理あるからな」

「何故解った!?」

「あほか!」

 そんな怒ることでもないだろ。ちょっとした冗談だってのに。

 まぁこれはあんまり話さないほうがいいんだが、冒険者の職員への印象変えるために少し話しておこう。

「冗談だよ……。ほら右耳にいつもつけてる羽。これが何かわかるか」

「知らねー。アクセサリーじゃないのか?」

「んなわけねぇだろ。マナフォンだよ」

「それって、魔道具の?」

「流石に知ってるか。伝達魔道具マナフォンは」

 マナフォンは最近完成された魔道具で特定のメッセージを受信する機能がある。

 メッセージの内容については発信側の魔力が許す限り、特に制限がない。

 特に魅力なのが、送信相手を自由に選択出来、受信側は魔力を消費しないということだ。

「金が無いっていうくせに最新技術を持ってるじゃねーか」

 ジト目でにらんでくるがこれにはわけがある。

「金持ってるわけじゃないぞ。これは評価品だ」

「評価品?」

「そ。長距離用じゃなくて短距離用のマナフォンの性能確認のために配布されたんだよ。だから商人・鍛冶・魔術・ハンター・メディックギルド全て短距離用なら職員全員持ってる」

 まぁリベラルと隣町のカテルンに限った話だけど。

 デザインはギルドごとに異なっているという手の込み具合だ。

「多少は納得できた。詳しい話聞いても仕方ねーし、そこら辺はつっこまん。で、それがどうして仕事してる事と繋がるんだ?」

「マナフォンから情報が流れてきて今その処理をしているとしたら?」

「……なるほどね、そりゃ確かに仕事してるわ。しかも冒険者と話をしながら。そりゃ大変だ」

「解ってくれたか。で、依頼受けるの?斡旋してもいいけど」

「おお、忘れてた。この依頼を受けたいんだが」

 本筋から大きく離れて長い間無駄話をしていたがいいかげん仕事をしないと。

「はいはい、確認とるからちょっと待って下さいね」

 因みに――


 男と話している間、マナフォンは何の情報も流していなかった。




 あの後冒険者が来る様子も無く達成報告に来る人もいないので、受付4名のうち2名は裏方に回ることになった。

「ネリー、そこにある草とって」

 ギルドの後輩であるネリーにアイテムをとってもらうように頼む。

 微妙に遠いからわざわざとりに行くのも億劫だし。

「はい、どうぞ」

「ありがと。えっと」

 アイテムを受けとり、リストを見る。

 今やっている仕事はギルド内で保有しているアイテムの確認だ。依頼を斡旋している以上、依頼達成として様々なアイテムがギルドに入ってくる。

 中には後日仲介した相手にギルドから渡す作業もあるので間違いが無いか厳重にチェックするのだ。

「9,10と。薬屋に渡すキュリス草はこれだけか。後は……倉庫にしまうか」

 採取系の依頼を受けた冒険者によくあることだが、余分にアイテムを取ってきたりすることがる。

 それらは大体商人ギルドに売りに行くのだが、面倒くさがって冒険者ギルドに合わせて納品する事がある。

 それらの使い道は基本的に無い。せいぜい他のギルドに格安で売り払うくらいだ

「レギウス先輩、キュリス草、この前も余分は倉庫にしまって結構な数になってますよ。商人ギルドに売りますか?」

 キュリス草の依頼は良く出される。薬草の基本材料で全てに使われるからだ。

「今週は2回依頼出てたし、前の分は放置してたからなぁ……。在庫分かる?ついでに倉庫にしまった日も」

「ちょっと待ってください。えっと、2日前にしまった数が8。その前だと2週間前にあったのが20。1月前に3です」

「あー。そういえば旅してるパーティが無駄に持ってきた事があったな。安く買い取ったけど、多いし、その時期はキュリス草の需要無かったから保管してたんだわ。……1月前のは処分確定だな」

 1月前のはおそらく水分が抜けきって枯草と化しているだろう。

「保管してるポートの実はいくつあるかなっと……。16か。まぁ残りはとってくるかなぁ」

 ポートの実とキュリス草を合わせることで低級のポーションが作れるのだ。

 うちのギルドじゃ作れないから製作は薬屋任せだが。

「売らないんですか?これだけの量なら売ったほうが早いような」

「商人ギルドも今は必要としていないしね。ギルドから必要としてないものを売りに行くのは相手の不遜を買うようなものだよ。それに何かあった時のためにポーションを常備しておくのは教えていただろ?」

 たまに命からがら依頼を達成してくる人がいる。そういう人向けにポーションを売り出す。価格は商人ギルドより少し割高で。

「そうでしたね。でもまだ低級ポーションあるんじゃないですか?」

「今日は討伐依頼の報告に来る人がいるだろうからストックはなくなるんじゃないかな。のこり5本程度だったし」

「憶えてるんですね。流石です」

 尊敬の眼差しで見られるが、少し罪悪感が。

 ポートの実の数調べるついでにポーションの在庫確認したなんて言えない……。

「今回は偶々憶えてただけだよ。とりあえずキュリス草は2週間前の分は材料、1月前のは処分にチェック入れて。今回のキュリス草は収納で」

「1月前のはともかく全部出さないんですか?」

「いいよ。薬屋から依頼出して誰も受けなかった時のために残しておきたい」

 タイミングが悪いと受諾されず期限切れで消えるなんて事もある。

 その際ギルド職員にとばっちりが来るのは分かっているので事前に対策をしておくのだ。

 とりあえずポートの実も16個全部材料として出すので材料にチェックを入れる。

「ポートの実足りませんがどうしますか?」

「製作依頼はどうせ3日後になる。その間にこっちで取っておくよ」

 明日は午前中森への視察がある。その時に取れば十分だ。

「そういえば明日視察ありましたね。それじゃお願いします」

「はいはい。先にギルド依頼の書類作るかな」

「ギルド長に連絡はしないんですか?」

「ストック無くなったら言って来るし、何より一度確認して後でまたなんて効率が悪いよ」

 人、それを面倒という。

「レギウス先輩がそういうなら」

「ほら、まだ整理しきっていないアイテムがあるから作業に戻る」

 ま、依頼品の受渡しは全て終わっているから残りは全部収納なんだけどね。




 空も夕暮れに染まるころ。

 冒険者ギルドはこの時間帯から受付を一人にする。

 ギルドが賑わっているような都市なら別だけど、田舎じゃ何処もこんなもんだ。

 で、残りは帰るのかというとそういうわけでもない。

「ゼル、依頼成果書書き終わったか?」

「まだです。もう少し待ってて下さい、先輩」

 ゼルと俺が呼んでる青年は、今年入ったばかりのギルド職員だ。

 人狼種な上に男だから田舎のギルドじゃ珍しい奴だ。

「今回は失敗報告無いんだろ?ならさっさと書く」

 依頼成果書というのは、自分が担当した依頼についてまとめたものだ。

 どんな人物が依頼を出したのか。依頼の内容はどうだったか、依頼を受けたのは誰か……と、書くことは色々ある。

「先輩も成果書ありましたよね?2つ位。書き終わったんですか」

「当然。じゃなきゃ催促しないよ」

「早くないですか?」

「空いてる時間を見つけてかける分は書いておくの。この前教えただろ。書く量多いからかける分は時間を見つけて書いとけって」

 受付している間も時間はある。誰も来ない場合は成果書の製作に費やすのだ。

 だから受付中も暇ではない。

 暇じゃないんだよ?

「依頼1つ程度ならすぐ書き終わるかなって…。今まで書いててすぐ終わりましたし」

 そりゃそうだ。最初のうちは簡単な依頼の成果書書かせていたんだから。

 成果書は採取、探索、ギルド、討伐、個人の順で簡単になっていく。

 いちばん簡単な個人というのは町の人のお手伝い程度の依頼のことで、書くほどの事が無いため、新人の練習に良く使われる。討伐は事前情報がほとんど出ているため、失敗時以外は依頼受諾時点で書き終われることから簡単といわれる。

 ギルドの依頼はギルド間で書類がまとめられるためその編集作業に追われる程度で討伐と大して変わらない。

 次からが問題だ。

 探索は人探しと未開地の調査があるのだが面倒なのは未開地の調査。未開地なだけあってまだ誰も知らないような植物、動物、魔物がいたりする。何処まで探索できたかを細かく書く必要があるため、それを書くだけで一日費やすなんて事もある。

 ここまで言って探索が最上位じゃないのは単純な理由で、あんまり依頼で出されないからだ。大体領主直属の兵士達が行う。

 だから実質一番大変なのは採取だ。

 簡単な部類に見える採取だが、地味に書く事がある。

 基本事項は省くとして、採取で書く内容は採取量、環境変化、採取物の状態、採取された日の天候、等だ。

 一番の曲者は環境変化だ。これは採取後のその場の状態を書くのだが、冒険者から報告が少なかったり、無ければギルド職員自ら直ぐに見に行く必要がある。

 今後同じように採取が出来るかの確認をしておかないと、別の群生地の調査が必要だったりと後処理が大事になるのだ。

 ただこちらはただのギルド職員。見ただけで環境変化なんて分かりやしない。

 書く内容が抽象的なことも合って書くのに苦戦するのだ。

 まぁ慣れればそこまで書くことは無いと気づくのだが、そこは経験の差というもので。

 ゼルが担当したのは採取の依頼だ。話を聞く限り見に行く必要は無いが、新人なため何処までが必要な情報かわからない。

 結局採取場所まで単身乗り込んでいったのだ。しかもギルド職員の服という軽装で。良く怪我が無かったもんだと感心したね。

「先輩、教えてくれてもいいじゃないですか。何処までの情報が必要で、どの情報がいらないかを」

「アホ。それ教えたら今後楽をしようと俺に尋ねるクセがつくだろ。そうなったら緊急時の対応で失敗する。それに話を聞いたのはゼルだ。お前から後で俺に伝えられた情報に齟齬がある可能性がある。結局自分で判断するしかないんだ」

 まぁ半分方便だ。俺だってはじめてのころはどうすればいいか分からず何度も採取場所に向かって調べたものだ。その苦労をわからせてあげようと老婆心言う名の意地悪な気持ちがあった。

「成果書できたら俺に見せろよ。添削するから」

「今回もギルド長に直接出さないんですか?」

 少し前まではギルド長に直接出して不備の確認をしてもらっていたが、最近は俺が事前に確認して注意している。

「今回初めての採取依頼の成果書だろ?分からない事があって当然だ。ギルド長にいっぱい怒られたいならそのまま出してもいいぞ」

「いえ、後で見てください」

「おうよ」

 因みに、ゼルが成果書でミスをすると俺が後で修正することを義務付けられたから先に確認しておく、というのは内緒の話だ。




 日は完全にしずまった夜。ギルドも扉を閉め冒険者がいた中央の部屋も閑散としている。

 せいぜい奥の職員部屋から声が聞こえる程度だ。

「それじゃ今日の報告をしてもらう。レビィ」

 部屋の奥、ギルド長の椅子に座るのがセニアギルド長。

「はいよ。じゃぁ今日の依頼受諾数と未受諾数、受諾中の総数の報告をするぜ」

 男勝りな口調なのはレベッカ。同期やギルド長からはレビィの愛称で慕われている、受付担当のチーフだ。

「今日の受諾数は4つ。んでまだ未受諾が8。受諾中が今日の分も合わせて5つだ」

 王都ならこの10倍はゆうに越えているだろうがまぁ田舎ならこんなもんだ。

「なるほど。では今日報告がきた依頼の成功・失敗の数を、ギース」

 ギースとは俺のことである。ちょっと変わった愛称である。

「はい。今日報告がきたのは3件。うち成功が2件、失敗が1件です」

 レビィと数え方が違うのはまぁ、レビィの数え方が適当なだけだ。

「失敗が1件か。まぁいい。判明している時点で失敗になっている依頼はそれを除いてあるのか、あるなら判明から何日たったかを報告しろ」

「1件未だ報告が来ていないものがあります。依頼の受諾は3日前です」

「3日前か……。これの担当者は?」

「ネリーです」

「なら、ネリー後で詳しい報告を聞く。いいな」

「は、はい」

 震えながらも返事をする。怒られると心配しているのだろうか。今回のは冒険者側の不備なのでそこまで怒らないと思うけど。

「よし、次。明日から張り出される依頼について交渉班……」

 今やっているのは今日一日の報告会だ。ギルド内には複数の班があり、班ごとに仕事をこなしていく。

 まずは俺達受付班。受付班は窓口応対とそれに付随する書類作成が主な仕事だ。

 時間があるときは他の班の手伝いをしたり、なんて事もある。

 次に交渉班。

 交渉班は依頼を取ったり別ギルドへ依頼を出したりと、外側の仕事を担当してい

 る。知っている人は知っている激務班だ。

 次に雑務班。

 基本的に倉庫の管理、道具の点検が仕事だが、頼まれれば別の仕事をする。とい

 うのも、雑務班とは受付班、交渉班を引退した人たちが着く班だからだ。

 一応他にも班はあるらしいが、ギルドの規模が大きくないので3つの班で十分運営できている。

 これらの班、というか冒険者ギルドにはある共通点がある。

 それは女性職員の多さ、である。

 女性職員がそれなりにいるメディックギルドと比べても女性職員が多く冒険者ギルドの男女比は平均して2:8程度となっている。

 まぁこれは男性が他の仕事につく事が多いからだが。

 因みにうちのギルドの男女比は1:5である。

 男は俺とゼルのみ。後は全員女性である。受付の時は気にしないが、会議の時だけは正直肩身が狭い。

「ふむ、まぁ大体の報告は聞いたな。よし雑務班はこのまま解散。交渉班は新規

 依頼の書類をボックスに提出次第解散。受付班は成果報告書提出次第解散だ」

 報告会も終わり、少しざわつきながらも各々行動を開始する。

 雑務班は夫の帰りを迎えるためか、早々に帰宅。交渉班も提出をしてさっさと帰ろうと話しながら部屋を出る。

 当然受付班も――

「あぁ、ネリーはここに残れ」

 そういえば後で報告を聞くといってたな。

 どうしようか。何かあった時のために残っておくかな。

 ネリーは残るの初めてだろうし、何かと不安だろう。

 ゼルは書類の不備で何度も居残りがあったが。

 連帯責任で俺も残るって言うのは中々たいへんだった。

 そのゼルはというと成果書を出して帰る準備をしていた。同期を心配してないというか、残される事が多いからか誰かが残されることに違和感を憶えてないようだ。

 レビィは座ったまま。どうやら残るらしい。

 本当にどうしようか。成果書は書き終わっているし。

「先輩、帰らないんですか?」

 ゼルがたずねてくる。まぁ成果書終わったのは知ってるからな。

 気になるし、一応残ろうか。やろうと思えば報告も別にあるし。

「あぁ。ギルド長に話があるから残るよ」

 話があるという所で残っているレビィとギルド長が反応した。が、気にしない。

「そうですか。それじゃお先に失礼します」

 先輩が残るというのにそれを気にせずさっさと帰る後輩のほうが気になったからだ。

(男一人で肩身が狭いんだから残ろうとしてくれよ!)

 部屋には結局女3人男1人が残っている状態だった。




 結局あの後ゼルは帰ってしまい会議室に残っているのはギルド長、レビィ、ネリー、俺の4人だけだった。

 普通なら女所帯に男1人で楽しいのかもしれないが、仕事関係だからそこまで楽しくない。むしろこの後何も起きないようにと心配で大変だ。

「……ギース。話とは、残らなければならない程大事な話か?」

 報告会中に話しておけばよかったけどタイミングが無かったからここで言うしかない。流石に明日にまわせるような話ではない。

「えぇ、今日中に返事も頂きたいので」

「そ、そうか。なら後で聞こう。お、お前は屋上にでも待っていてくれ」

 何故屋上?普通にここでもいいんだけど。

 もしかしてネリーへの説教がしたいから外に出したいのか?

 フォローの必要が出てくるかもしれないから、一応残ると意思表示するか。

「いえ、ネリーの報告についてですが、補足の必要が出るかもしれないので一緒に残ってネリーの報告を聞かせていただきます」

「そうか。なら構わない」

 あれ、普通に通ちゃったよ。本当に報告だけだったのか?

 あ、もしかして俺の話がなんか重要に聞こえたから後で聞こうと考えているのか。それなら無理して残る必要は無かったかな。

「所で、レビィはいつまで残るんだ?成果書の提出は無い以上残る意味も無かろう。帰っていいぞ」

 あれ、なぜレビィを帰そうとするんだ。

 報告聞くならチーフのレビィが残るのは別におかしいことじゃない。

 もしかして一度引いて俺に安心感を与えるためにわざと別口にしようとした?

 わからん。

「……いや、ネリーの報告は私も聞いていたほうがいいだろ?今後のためにも」

「…ふむ、そうだな。それならネリーの報告が済んだら帰るといい」

 これは別口で説教の可能性があがっちゃったぞー。

「気にするな、ギースも大事な話があるようだから最後まで残るさ」

 レビィから凄い威圧感を感じる……。

 あれ、レビィさんも僕にお話があるんですか?やだなー、もう。

「気にするな。その後は全て私に任せておけ」

「いやいや、そっちこそ。最後まで見守るのがチーフの役目だからさ」

 こ、怖い。何、二人ともそんなに俺に説教したいの?

 ネリーが異常なまでに怯えているからやめてあげてよ。

 俺?外見は普通を装ってますよ。それ以上は聞かないで。

「と、とりあえず、ネリーの報告を聞きましょう。その後についてはそれから話し合いましょう」

「……いいだろう」

 ただの報告でなんでここまで怯えなきゃいけないんでしょうか。


「ほ、報告は以上です」

 ネリーが震えながら報告を済ませる。

 そりゃそうだよ。ギルド長超こっち睨んでるもん。何故か後ろにいるレビィからも威圧感を感じるし、ネリーの隣にいる俺も内心びくびくだよ。

「……ふぅん。で、受諾した冒険者の今の状況はわかっているのか」

「え?い、今の状況ですか」

 だから睨まないで。ネリーさん恐怖心で俺にすがりつかんとしているから。机の下で俺の服の裾を超引っ張ってるから。

「昨日も失敗の報告に来ていないのは聞いたな。未報告から2日たった時点で冒険者が今何をしているか確認することになっていたはずだが?」

「え、えぇっと……」

 ドスが効きすぎでしょう。ネリーびくって震えてますよ。

 ゼルのときは怒りながら頭を紙でたたいていたがそっちのほうがずいぶんましだ。

 こっちは空気が重すぎてこの場にいるのがつらい。

 因みに、失敗報告がない状態で2日たったら受諾した冒険者の探索をするのはリベラル冒険者ギルドでのみの決まりだ。他のギルドはまちまち。

 ネリーの様子だと確認してないだろうなぁ。ちょっと涙目になってるし。

 と、とりあえずフォローしとかないと。

「その冒険者ですがどうやら町にいないらしく、宿屋にも宿泊記録が無いので今の状況を知るのが難しいため捜査を見送っています」

「レギウス先輩……」

 一応こっちでも調べておいたのだ。どうもこの冒険者、この近辺を縄張りとしているわけではない流れ者のようだし、ランクがあまり高くないから念のために。

 だから知っていただけなんだが。ネリーさんの信頼度急上昇だね、こりゃ。

 しかし、ちゃんと説明入れたのに、

「ギース。私はネリーに聞いたんだが」

 何で俺は睨まれているんでしょう。




 もうネリーがギルド長におびえすぎて「あわわゎ」なんて小声で震えてますよ。

 レビィからのフォローも全然ないし。

 これ俺が試されてる?

 むしろ俺を説教するための下準備でもされているんでしょうか。

 もう藁にもすがる思いで後ろのレビィに目配せをする。

 助けて!!

 レビィは何か悩むそぶりを見せてから言葉を発した。

「……新人のうちは未報告の処理をなかなか憶えねぇ。ましてや今まで失敗報告が直ぐにきていた。成果書のミスも無かったことから本人にも油断があったんだろ」

 なんでギルド長の味方してんの!?

 助けてっていう目配せわかんなかった!?それとも楽にしてあげてとかと勘違いした?

 二人に見えてるか知らないけどネリーの脚、すんごいガクガク揺れてるんですけど。振動がこっちに伝わるくらい。

「新人でも、ギースとレヴィはそんなミスしなかったな。一度も」

 馬鹿!そりゃ俺が職員になる前にバイトで入ってたから知ってただけだよ!

 レビィだって一度あったけど上手くごまかしたんだよ!

 そして肩にかかる体重。

 ネリーさん白目をむいて気絶してしまいました。

 15にもなって恥ずかしい、なんて言えない。

 むしろ良く頑張った。

「報告中に居眠りか……よほど重い罰がほしいのか」

「先輩ながら悲しいね。すこし根性鍛えなおすか」

「お前らいいかげんにしてあげて!?」

 流石の俺も怒りますよ。怒りすぎて口調がおかしくなったわ。


 とりあえず、ネリーは仮眠室に寝かせた。

「いくらミスとはいえ今回は初めてでしょう?」

「「……」」

「内容も冒険者の確認を怠るというよくあるミス。昨日彼女に事前にいって置けば回避できたことです」

「「……」」

「それをドスを効かせて脅すわ、根性が無いわと。他に言うべき事があるでしょう。ネリーびびって声が出てませんでしたよ」

「……」「やっぱ根性無し……」

「レヴィ?なんか言ったか」

「い、いや何も」

 二人を見てため息をつく。

「…今みたいに、ネリーは喋りたくても喋れない状況になっていたんです。二人とも経験あるじゃないですか。そして改善していきたいって話をしたじゃないですか。だからこそここまで酷くならないと信じていたのに」

「「う……」」

 心当たりがあるようだ。

 当然だ。そんな昔の話でもないんだから。

「どうして、あんなに睨んだんです?レビィも後ろから威圧感をつよくかけるし、フォローするかと思ったら追撃してくるんだから驚いたよ」

「すまない、すこし苛立っていてな」

「私も、悪かったよ……」

 二人ともばつが悪そうな顔をしている。

「反省したなら、ネリーに後で謝って下さいよ。一番つらかったのは彼女ですから」

「わかってる」「おう……」

「…それじゃ、ネリーの様子見たら帰ります」

 俺があんまり残っていてもよくないだろう。二人は反省しているようだし、あの様子ならネリーが目覚めてから謝るだろう。

「ま、待てギース。私に大事な話があったんじゃ」

「あ……そういや、そんなこと」

 あ、二人を説教していて忘れてた。

 まぁ口頭でいいだろう。

「ええ。今度薬屋にギルド依頼として低級ポーションを作ってもらうことにしたので、後日承認印を下さい」

 今日達成報告に来た冒険者に残り全部売りつけたのでストックがなくなったのだった。

 これはギルド長も知っているだろうから普通に通りそうだな。

「あ、ああ。構わない」

 なら話は終わりかな。

「それじゃ、失礼します」

 扉を閉める時「ほ、他にはな」という声が聞こえた気がしたが無視。

 なんか面倒になりそうでしたから。




 仮眠室の扉でノック。おきてるかもしれないからね。

「ネリー、入るよ」

 部屋の中に入る。部屋には簡易ベットが3つ並んでいるだけだった。

 ただの仮眠室だからそんなもんだ。

 ネリーは寝ているようだ。あれだけ怖い思いもすれば気絶後ふさぎ込む、何てこともあるだろうが、どうやら大丈夫そうだ。

「レギウス先輩、ですか」

「起こしちゃったか、すまんな」

「いえ、どちらにせよ起きて帰らなくちゃいけないので」

 ベットから起きて身支度をしているようだ。

「もう帰るのか?ギルド長やレビィもまだいるようだし挨拶でも」

「今は、ちょっと怖いんで無理です」

 だよねぇ。鬼の形相で見つめられてたのだってついさっきの話だ。

「そうか、なら仕方ないな」

 階段でしょざいなさげにしている二人には帰ってもらおう。

 とりあえず今日は帰れと二人にサインを送り、しぶしぶ帰ったようだ。

「レギウス先輩、帰らないんですか?」

「ああ、最後の確認があるからね」

 二人とも帰ったので戸締りは俺がすることになるようだ。

「そうですか。あの、……さっきはありがとうございました」

「気にするな。むしろ上手くフォローできなくて悪かったな」

 なんとなく頭をなでながら言う。なんていうか、こう、なでやすい位置にあるんだよね。

「いえ、そんな」

「いいから。明日も仕事がある。早く帰って休みな」

「はい、それじゃお疲れ様でした」


 ギルドの鍵を閉めて帰路につく。

 明日は俺が朝一番にギルドに行って鍵を開けるのか、面倒だな。

 結局、今日は休まる日が無かったな。

 朝の冒険者との駄弁りから始まり、倉庫の点検、成果書の作成、後輩のフォロー、同期と上司への説教。

 やる事が思いのほか多かった。後半に関してはノーコメントで。

 明日は視察の際に色々回収する必要があるからバッグの準備をしないとな。

 俺が担当している依頼の報告も明日には何かしらの結果が出るだろうから準備しておく必要がある。

 あ、ネリーが担当しているあの未報告に関してもまだ調査しておいたほうがいいだろうな。ギルドカードで出身は確認できても活動拠点が分からないからできることが限られる。5日たったら王都の本部に連絡とって依頼を受けれないようにする必要もあるし、早めに手をうっておきたい。

 他にやることはないかと色々思案する。

 考えるのがだんだん面倒になって道の側にある喧騒に視線を移す。

 町は明かりが出ており、酒場や飯屋といった夜でも営業する場所でそれなりに賑わっている。

 そこにいるのはほとんどが地元の人で冒険者はぽつぽつとしかいない。

 だがそれでも賑わっているのだからこの町は中々栄えているんだろう。

 今日は何があった。どこかで何かを見つけた。

 それらの話をそれとなく聞き流しながら町を歩く。

 そしてこう思うのだ。

 人々が飲み食いし、騒いでる中、さっきまでギルドにいた俺は――


 忙しかったんだろう、と。

挿絵(By みてみん)

読んで下さりありがとうございました。

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