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5話「ギルド」

あれから3週間がたった。

俺は傷のことも配慮して、本当は毎日行きたいところを3日に一回のペースで街を出歩いている。

本当は毎日行っても問題はないんだけどね。怪我したの足じゃないし。

でもそれだとサーシャが心配するから3日おきにした。


街にいってる間も平和だった。

なにやら『女が男であいつが男……?』とかわけのわからないことをブツブツと言っていたやつが現れたとか聞いたが、知らん。

どうやらナンパ癖で有名なやつらしいが、知らん。

途中でそいつと似ている男に声をかけられた気もするが、きっと気のせいだろう。

そんなちょっとした事件以外はいたって平穏だった。


ああ、あとサーシャの治癒魔法で背中の傷も治せるんじゃないかって思ったんだけど、今のレベルではこのお怪我は傷が開いたときに止血するのが精一杯だと言われた。

治癒に限らず魔法全般でレベル、そして先天的な才能センスがその魔法の威力に関係するとか。

つまり十二騎士団の治癒魔導士シリアはそれだけ治癒魔法の才能があるということだ。

彼女の手にかかれば死人も蘇るとか言われてるが、ただの彼女の熱狂的なファンが言いふらしている妄言らしい。

まあそんな簡単に死人が蘇ったらだれも苦労しない。

死ぬ寸前程度なら全快にできるらしいけど……。


あとは何があったかな……。

ああそうだ。ジルバさんに剣の稽古をしてくれっていったら快く受け入れてくれた。

最初は傷に負担がかからないように簡単なトレーニングだったけど、今では手合わせまでしてくれている。

まだ赤子の手をひねる状態だけどな……。これが経験の差か。


街を出歩くのが三日に一回で訓練が毎日とは、これいかに。

まあ訓練はジルバさんも見ているし家の裏庭でやってるからいざという時でも安全だしな。

傷が開くことになってもサーシャに止血してもらえばいい。

毎日訓練した結果、少しは剣が使えるようになったとは思う。

ジルバさんが言うには素人に毛が生えた程度らしいが、確かに前進している。

剣の道に限って、だが。


3週間。

そう、3週間だ。

三日に一回のペースとはいえ、俺は街を出歩いている。

だが事の進展はないのだ。

俺と同じ境遇。つまり神の落とし子がいないか街を回ったが、その影も見つからない。

この街に俺以外の神の落とし子がいるとは思わないほうがいいだろう。

神の落とし子を探すことは一時保留として、当面の目標は森の調査、そしてサクラの素性だな。

それまではジルバさんとの稽古に励むことにしよう。


「よし坊主、今日も始めるか」


「はい」


「もー、ミオもお父さんもあまり無茶しないでよ? 特にミオ!」


「わかってるって。傷が痛む前にはやめるから」


「そうだぞサーシャ。それにこいつはそんなにヤワじゃねえ。なかなか筋もいいしな! お前も久しぶりに一緒にやるか」


そう言って豪快に笑うジルバさん。

そう言えばサーシャのレベルも結構高いんだ。

街に出た時に人間観察と称して通行人のステータスを見たこともあるが、冒険者らしき人はともかく一般人は4や5など低かったはずだ。


「んー。確かに最近剣も握ってないし……。うん、じゃあ私も一緒にいい?」


「当然だ! それじゃあ3人でするか!」




そして訓練が始まった。

まずはサーシャが肩慣らしをしたいとのことで、俺との手合わせをすることになった。

肩慣らしに使われる俺っていったい……。


俺は剣の形を模した木刀を構える。

サーシャもゆったりとした動きで構えをとる。


うわ……隙がない。

ジルバさんは普段隙だらけで構えてるんだけど、サーシャはまるで隙がない。

ジルバさんの場合誘い込むためにあえて隙だらけにしてるんだろうけどさ……現に俺やられてるし。

しかしどうしようか。

まずは様子見に……。


「せいっ!」


サーシャとの距離を詰めて左肩からの袈裟切りを狙う。

これをサーシャは左に移動することでかわす。

俺はそこからサーシャの逃げた方向に木刀を切り返す。


「ふっ」


サーシャは短く息を吐いて俺の木刀を自身の木刀で防ぐ。

俺はそのまま押し切るように何度も打ち込んだ。


サーシャは冷静に対処し、避け、そして時には木刀で防いだ。

俺は自分が押していると勘違いして、決定打を打とうと大きく木刀を振り上げる。

その隙に。ほんの一瞬の隙に。サーシャは地面を踏み込み俺に胴打ちを喰らわした。


「……よっし!」


「決まりだな。サーシャの勝ち!」


手ごたえを感じたらしく、サーシャは小さくガッツポーズを作る。

俺はというと……


「っつ~…………」


「あああ!! ご、ごめんミオ!」


思いのほか本気の一撃で胸を押さえて座りこむ。

サーシャさんや、心配してくれるのはありがたいけど次からはお手柔らかに頼む……。


「どうだサーシャ。ミオの腕前は」


「おとうさん」


試合の終わった俺たちにジルバさんが近づいてくる。


「そうだね……。始めて3週間にしては剣筋はいいと思う。ただ……」


「ただ?」


「やっぱり経験がないのが痛いかな。あと攻撃が少し遅い……。攻撃が単調だから防ぎやすいしカウンターも狙いやすい」


「やっぱりそうなるか……」


そう言って少し考え込むジルバさん。

戦法とスピードは前々から言われてたけど直らないんだよなあ……。

音速魔法を利用したりしてみたが、木刀がすっぽ抜けた。

あれを使いこなすには握力を上げないとな……。


「……よっし、決めたぞ!」


その時ジルバさんが突然顔を上げた。


「決めたって、何を?」


「坊主、サーシャ。お前たちでクエストを受けてこい」


「「……はい?」」




この世界には案の定というべきか、冒険者ギルドたるものがある。

ランクはA~F。そして例外S。±などの細かいわけ目はない。

ギルド加入時は当然のことながらFランク。

クエストも同じようにランク分けされているが、自分と同じランクのクエストを10回達成したら次のランクへ昇格する。

ちなみにサーシャはD。ジルバさんはBランクだ。

Sランクともなると十二騎士団レベルだそうだ。

十二騎士団のどこかに穴ができた時、基本的にSランクの冒険者の中から抜擢するらしい。

そしてギルドがある場所は街の中心近く。

街を探索中に場所は覚えてる。


「で、まさか本当にクエストを受けることになるとはな……」


「おとうさん、習うより慣れろってタイプだからね……」


ああなるほど……。つまり実戦経験を積めってわけね。

……この傷で?

いやいやいや。まあ俺だって平気だなんだと街を探索したり稽古をつけてもらったりはしましたよ。ええ。

でもだからっていきなり実戦投入しますか?

ジルバさんあなた自分でいってたじゃないですか。素人に毛が生えた程度だって。

あ、だからサーシャがいるんだった。


「じゃあまずは加入の手続きからしよっか。ギルドカードがあると何かと便利だし」


おお……ギルドカードか。

なんだか胸が熱くなる言葉だ。

まさかこの手でギルドカードを手にする時が来るとは思わなかった。

興奮したままサーシャに続いてギルド内にはいる。


「…………おお」


ギルド内の風貌をみて俺は感嘆の声を上げる。

冒険者たちが魔物の情報交換をし、杯を交え友情を深めあう。

男女比は8:2ぐらいで女性のソロプレイヤーに若い男性冒険者がお近づきになろうと声をかけていたり。

ギルド内はやや明るい雰囲気で包まれている。そんなギルドを想像していた。

このギルドは俺の想像通りと言える。

先ほど述べた理想がそのまんま現実化しているのだから。


「ギルドの加入手続きはあっちね」


そう言って移動するサーシャにギルド内をみわたしながらついていく。

やばい。これは結構テンションあがるぞ。

友人がこの場にいたら大声をあげて歓喜していたかもしれない。

俺はしないけどな。沈黙は金、雄弁は銀ってね。


カウンターにたどり着くと、受付嬢が出迎えてくれた。


「ギルドへようこそ! 新規加入の人ですよね?」


「あ、はい。そうです」


「ではこちらに氏名を記入してください」


そう言って受付嬢が渡してきたのは一枚の用紙とペン。

用紙に書かれているのは……なんだこれ? 契約書みたいなものか?

クエストの最中に死亡された際当ギルドは一切の保証を~とか書かれている。

念のため一通り目を通すがやばいことは何も書かれていないようだ。

俺は用紙に『ミオ』とサインして受付嬢に渡す。


「……はい。ミオ様ですね。これで正式に冒険者となりました」


受付嬢は俺からう受け取った用紙をしまい、なにやら機械らしきもののキーボードを打ちこむ。

なんか中途半端に現代っぽい。便利だからいいけど。


「こちらがギルドカードになります。尚、紛失、盗難などをされた際は再発行に料金がかかりますのでご注意ください」


「はい」


そう言ってギルドカードをもらい、カウンターから立ち去る。

ギルドカードにはただ Fランク ミオ とだけ書かれていた。

……なんか想像してたのと違う。


「無事にできた?」


「ん? ああ……思ったより簡単にできて拍子抜けだ」


「あはは。まあ名前さえ書けば子供でもできるぐらいだからね」


「そんなんで大丈夫かギルド……」


「あ、そんなことよりこれ。手頃な討伐クエスト受けてきた」


サーシャはそう言って一枚の紙を取り出した。

なになに……? ブルーウルフ8体の討伐?

確かブルーウルフって……。


「サーシャさんや、俺はあんたの恨みを買った覚えはないんですけど」


「私だって売った覚えはないよ……。大丈夫、ミオも強くなってるし、今度は私もいるんだから。Eランクのクエストぐらいなら簡単だよ」


……ん?

今Eランクって言ったか?


「確か同じランク以下のクエストしか受けれないんじゃなかったか?」


「ああ、それはソロでやる場合ね。パーティはメンバーの平均のランクで決まるの。ミオはFで私がD。だから平均のEランクまで受けることができるってわけ」


なるほどねえ。

ということはジルバさんも加わればDランクまで受けれるってことか。

受けないけどね。Dはさすがに。


しかしブルーウルフか。

この世界で最初にやられたのがブルーウルフで、最初にやるのもブルーウルフか。

なにかをブルーウルフに縁があるな俺は。

それじゃあリベンジと行きますか。

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