第二話 久しぶり皇都
イーストガリア皇国という国がある。
かつては穏健な国で知られていたが今は違う、魔王軍の侵略が始まってからは軍事力を強化し立派な軍事国家として有名になった。
単純な軍事国家としてならグレセリア帝国の方が有名だろう。
しかし、戦争での功績ならばイーストガリア皇国の方が上だ。
何故ならかつて魔王を倒した勇者はイーストガリア皇国と共に行動していたからだ。勇者の行った功績はイーストガリア皇国の功績ともなり他の国よりもその権力は高い。
そんな国の皇城の一室に私の執務室がある。
「ふぅ」
やっと仕事が終わった。
イーストガリア皇国第一皇女として国のために働く事は本望だが、帝国の今回の蛮行を止めるためにここまで苦労するとはいささか腹立たしいな。
各国の首脳への説得は概ね終わったが、結果はまずまずと言った所か。
「フェリア様、いい加減お休みになったらどうですか?」
扉の隣で待機していた侍女が話しかけてくる。
「……分かったわ、少し寝る」
「それでは準備しておきますね、それと姫様」
「何だ?」
「ネロ様のために動くのはいいですけど程々にお願いしますね」
「なッ……!? 」
この侍女、名前をウェルと言うが、人の確信をつくのが好きで度々こういった嫌がらせをして来るいたずら好きの侍女だ。
「ウェル、私がいつ彼のために動いたの、私は国のために……」
「なら他の国に反発なんてしないで勇者召喚に賛成すればいいではないですか、それともネロ様以外に勇者召喚を止める理由があるのですか?」
「ネロの名前を出すのをやめなさい!」
本当に困った侍女だ、これでちゃんと仕事もこなすのだから始末に負えない。
「とにかく、今回の件はネロのためではなくいずれ訪れるであろう勇者達のために行っているにすぎない」
「分かりました、今はそういう事にしておきますね」
ニコニコ笑っているウェル。
絶対に信じてないな。
「そういえば姫様、先程カルデア様からネロ様を発見したとの報告が入りました」
「ッ!?それを早く言いなさい!!」
これだからこの侍女は……
「すぐに出掛ける準備して」
「お休みになられないのですか?」
「移動中に休みます、それより早く動きなさい」
「承知しました」
ウェルは今度こそ部屋から出て行く。
「……あの戦いから一度も会ってないな、ネロは今何をしているんだろうか、怪我とかしてないといいけど……」
そういえばネロがこういうのをフラグとか言ってたな、どういった意味かは分からないけど。
♢ ♢ ♢
旅に出てから二日、やっと俺達は目的の地へ辿り着いた。
「見ろ、ムース!イーストガリア皇都だ!」
『きゅ〜〜〜』
ははは、ムースの奴喜んでるな。
別に皇都自体に喜んで居るのではないだろう、だってほぼ毎日この皇都に新聞を取りに来て居るんだからな。
おそらく俺と一緒に来た事が嬉しいんだろう、何たって何年も一緒に外出した事ないもんな……
「さて、まずは何をしようか?」
久しぶりの二人での皇都だ、ムースのしたい事をやらせるか。
『きゅう、きゅる、きゅうー』
羽を動かしたり飛び回ったりしてムースが何をしたいか伝えて来る。
特になに言ってるか分からんがだいたいの事は分かった。
「レッドドラゴンの肉が食べたい?ははは、んなもん売ってるわけないだろう!」
『きゅうぅ』
空中で起用に打ちひしがれるムース、可愛いいんだけどレッドドラゴンの肉なんて世界中探しても売ってねえよ。
「仕方ないな、今度ワイバーンのいる谷まで行ってやるからそう落ち込むな」
『きゅッ!!』
ああ、喜んでいるムース可愛いよ、出来れば“本当”の姿に戻らないでずっとそのままでいて欲しい。
っと、俺とした事が少し暴走し掛けたな。
とにかく今は皇都での用事を済ませるか。
「ムース、行くぞ」
「はい、行きましょうか」
「ん?……ムースお前……“人間”の姿になってる……」
「どうかしました?」
俺の隣には人型のムースがいる。こういった世界ではお決まりといえばお決まりだが……龍の方が好きなんだよなぁ。
ちなみに容姿は美しく整っている。
龍の時の名残で髪と瞳は銀色をしており、身長は俺と同じで170と言った所か?
動くたびに陽に反射してきらめく髪は好きなんだがなぁ。
「ムース、龍の姿に戻ってくれないか?」
「何故ですか、皇都に入る時は人間の姿でいろって言ったのはネロ様でしょう」
うっ、痛い所をついてくる龍だ。確かに言ったけど、何年も前に。
「まだ皇都に入ってないだろう、門をくぐってからが皇都だ」
「どんな屁理屈ですか、私はネロ様と一緒に散歩がしたいんです」
ぐぅ、何処まで反抗的な龍なんだ、仕方ない今度アースドラゴンの肉を餌にして龍の姿をとらせるか。
「まあいい、今は腹ごしらえをするぞ」
「はい!ああ、久しぶりのネロ様との外出、私感無量ですよ」
ムースの狂気に満ち足り顔に若干引きつつ皇都の門をくぐる。
そこには和気藹々と賑わう人々がいる。
本当に懐かしい光景だ、初めてこの門をくぐり見た気持ちと同じだ。人々が平和に暮らし、誰も不満なんてないような顔をしている、しかし俺がこの国に来てからすぐにそれは変わってまったが……
「嫌な思い出だ……」
「ネロ様、どうかしたんですか?」
「いや、何でも無い」
昔にみたいな事にはならないだろう、なってはいけないのだが。
「さて、あそこの酒場なんて良さそうだな」
「龍の肉はありま……」
「お前気づいてるかどうか知らないが一応共食いだからな、それ」
こいつはこう見えてもかなり上位に位置する龍だから同じ龍クラスを食べないと魔力が回復しないらしい、それ故の共食いなのだが。
え?人型になる前はただの小龍ではないかって、いつから人型にしかなれないと錯覚していた?
「共食いとは失礼な、私はただ弱肉強食の理に従ってちゃんと相手してから美味しく頂いてるだけです」
世はそれを共食いと言う。
どうでもいいけどな、今は飯を食いたい。
もう何年も他人の作った飯なんて食ってないからな。
酒場の中に入ると結構な数の客がいた、ほとんどの客は無骨な格好をしている。おそらく冒険者だろう、ちょっと殺伐としているがこういう空気は嫌いじゃない。
「店主、ロックラビットの肉はあるか?」
「がはははは、あんなクソ硬いもん売ってるわけないだろう!」
「それならレッドドラゴンの肉は……」
「お前は黙ってろムース!」
「嬢ちゃん可愛いな!こっちで一緒に飲まないかい!!」
「男の方はとっとと帰れ帰れ!」
「うるせぇ!!」
一気に殺伐として来た酒場。ムースって人の時はどうも他人を魅了するんだよな、逆に“真”の龍の時は他の龍種に恐怖と尊敬の念を持った目で見られる。
うーん、不思議だ。
「所で兄ちゃん」
「ん、何だ?」
酒場の店主が話しかけて来る。
しかし、目は俺ではなく店の入り口を見ている。
「何か赤毛の騎士さんがずっとあんたのこと見てるんだけど」
「え?」
ゆっくりと振り返ると赤毛の騎士、カルデアさんが店の入り口にいた。
あのー、カルデアさん何で剣抜くの?何で踏み込むの?
「見つけたぞ死霊使い!!」
「出来れば見つけないで欲しかった!!」
剣を刺突の構えでこちらに真っ直ぐ飛んで来るカルデアさん、いや殺す気満々じゃないですかやだ〜。
「危な!」
「避けるな!」
避けるなって、酒場のカウンターが吹き飛んだんですけど、当たったらただじゃ済まなそうなんですけど!
あっ、このローブ着てるから大丈夫だった、と言ってもわざと受ける気はないけど。
「『ファイアスピア』!」
「ちょッ!魔法とか勘弁、『アクアマリン』!」
とりあえず反対魔法で相殺する。
くそっ!こんな狭い所でガンガン攻撃して来るな、ここはいったん外に逃げるか。
「あばよ、とっつぁん!」
「とっつぁん!?」
ちょっとした名台詞を残して酒場の扉を開けた先にいたのは、
「は、ははは……たった一人に割く人数じゃないだろう」
総勢五十名ほどの騎士団の皆さんでした。
しかもあの紋章から察するに第一騎士団、皇女直属の近衛騎士、と言う事はフェリアの差し金か。
「あなた達!早くその者を捕まえなさい!」
「「「はッ!」」」
酒場から出てきたカルデアさんの指示で一斉に斬りかかって来る騎士達、正直相手するのめんどくさいな。
「フェリアの奴何て指示出したんだよ!」
これは直接会う必要がありそうだな。
強さの片鱗もない主人公……
感想お待ちしております。