第一話 旅立ちの日
ーーーチュン、チュンチュン
鳥の鳴く声が聞こえる。
日の光が差し込み、少しづつ目が開いていく。
「朝か……」
まだ眠い、でも起きないといけないよな。 面倒だな……非常に面倒だ、体を起こすの がだるい。何でこんなにだるいんだっけ?
部屋を見渡す、俺の寝ているベッドにたくさんの本が並べてある机、窓と花瓶とクローゼット。
うん、どこにでもあるような普通の部屋だ、特に何かがあるわけでは無い。
という事は昨日の夢か……
でも、何で今更あの時の夢を見るんだ。もう何年も前の出来事なのに。
いや、今は関係無いか、飯にしよう。
今日の朝食のメニューは目玉焼きにロックラビットの肉のワイン漬けだ、このロックラビット実は恐ろしく硬いのだが、ワインに漬けてしばらく弱火で焼けばこれまた恐ろしく柔らかくなる。
ちなみに米はこの世界に存在しない、最初は米が恋し過ぎて発狂しかけたが今ではもう慣れた……米食べたい。
さて、そろそろ今日一番の情報が入るはずなのだが。
ーーーコンコン
「おお、ちょっと待ってろ」
ーーーガシャン!
…………良し、今日の昼飯が決まった。
俺の前には昼飯……ではなく新聞を首に巻いた人の頭一つ分くらいの銀の鱗を持つ小龍がいた、小型だが魔法で強化した窓を割って入ってくるほどの力はある。
『くるぅ』
「おっと、待ってろすぐに外してやるから」
ーーーガシャン!
小龍の首の新聞を外してやると窓を割り飛び去って行った。昼飯め、覚えていろよ……
とは言ってもあの小龍がいなくなるとこの辺りまで新聞配達できる奴いないんだよな。
さてさて、今日の見出しは何じゃろな?
『グレセリア帝国が勇者召喚!?
本日早朝、グレセリア帝国外務大臣が他の国へ、勇者召喚の儀を行う事を発表。これに対しイーストガリア皇国は猛反発したが、他の国の重鎮達はこの儀式に対し割と良好な態度を示しており、一週間後には儀式を執り行うとの事、その際には各国の王達にぜひ立ち会って欲しいとグレセリア帝国の皇帝は述べている。』
「さて…………旅に出るか」
新聞を広げたまま若干混乱気味の俺。
食べ終わった食器を片付け、必要な荷物をリュックサックに詰め紐を締める。
次に寝室に戻りクローゼットを開け、古こけた一着のローブを取り出す。
灰色と基調とし所々に黒の刺繍が入っていおり、前面は腰ほどから左右に広がり前足は露わになっている、背面は背中をすべて覆い隠し足元まで広がっている。
これにズボンを履き俺の正装の完成だ、何気にこの服を着るのも数年振りか。
ちなみにこの服には、いろいろと伝説級の素材を使った挙句、魔法を掛けまくったため“勇者”の伝説級の防具を軽く越えた代物になっている。
「よし、準備完了」
すべての支度を済ませ扉を開ける。
最後にこの森を出たのはいつだっただろうか。
いや、今はどうでもいい事か、とりあえず真っ先にやる事は……
『ギィアアアアアアアア!!!!』
『グアアアアアアアア!!!!』
目の前で繰り広げられる龍どおしの縄張り争いをとっとと終わらせる事だ。
ていうかこの辺は俺の縄張りなんだぞ、一応。
というわけで、龍どもを黙らせてから数時間、ひたすら歩き続けてやっと森を出ようとしていた。
飛べばいい話なのだが、たまにはゆっくりとピクニック気分で歩きたいではないか。
「はて、この森はこんなに広かったかな?」
と言っても、数年この辺りに来ていなければ森も変化するか。
辺り一面ツルとかツタとか何処の世界遺産ですかと言わんばかりの巨木とかが囲っている、流石に鬱陶しいな、少し本気で歩くか。
足に魔力を溜め、足のつま先で地面を思いっきり蹴る、歩く速度は一気に加速する。
それを左右の足で交互に行いあっという間に森を出た。
「久しぶり外の世界!!」
森を抜けるなり両手を広げて思いっきり叫ぶ、何度も出ようとしてその度に思いとどまったこの思い。
数年振りの外に俺は歓喜している。
「いやー、やはり外の世界はいい!澄んだ空気に何処までも広がる空!そして魔物に襲われる女性!何でもっと早く出なかったのかよく分からないな!」
よし、とりあえずイーストガリア皇国の皇都や向かうか。
「「「「ッ!?」」」」
何か赤髪の女性騎士っぽい人と数匹のリザードマンがびっくりしたような顔で俺を見ているが気にしない。
今はそれよりも優先すべき事があるのだ。
「おっと、そこをどいてくれますか?急いでるんで」
女性騎士とリザードマンの間を通ろうとしたら、リザードマンの一匹が斬りかかってくる。
「ガァ!!」
邪魔だなぁ、女性騎士を襲ってるんならそのまま襲っていればいいのに。
勢いよく降り降ろされたリザードマンの剣は俺の体を“通り過ぎ”地面に振り下ろされる。
「「「「ッ!?」」」」
おお、驚いてる驚いてる。
まぁ、そうなるよね、リザードマン程度の攻撃では俺にかすり傷すら付けられない。
よし、とっととこの場所から逃げるか。
「待ちなさい!!」
女性騎士が俺に怒鳴り掛けてくる。
無視無視、こういう事に関わったらろくな事が無い。
女性騎士がリザードマンの相手をしてる間にまた加速して……
「待ちなさいと言ってるんです!!」
「ぐぇっ」
苦しい苦しい、女性騎士め、襟を掴むな襟を!
「首が、締まる」
「なら逃げようとするのなめなさい」
容赦ないな。
しかし、リザードマンがいるのに俺に構っているってどんだけ余裕なんだって……うわぁ。
「リザードマンが細切りに……」
「この程度、朝飯前だ」
振り向くとそこには無残なリザードマン達の死体が転がっていた。
あの一瞬でここまでやるとは、この女出来る!?
「で、何でしょうか女性騎士さん」
「お前に聞きたい事がある、質問に答えろ」
ああ、面倒なパターン入ったな。別に逃げてもいいけど後で指名手配とかされたらたまったもんではないしな。
「この辺りで“死霊使い”が現れると聞いたんだが、知らないか?」
「死霊使いですか……心当たりが無いですね」
死霊使いね〜、いったい誰の事だろ〜(棒読み)
「そうか……心当たり無しか……嘘を付け!さっきのリザードマンの剣がお前を通過したのを見て何故信じられる、貴様名前は!?」
えぇ、最初っから俺が死霊使いだと思った上での質問なんて意味ないでしょ。
しかし、名前なんて名乗るのいつ振りだったかな?
「俺の名前はネロだ、女性騎士さんのお名前は?」
「ネロか、私の名前はカルデアだ」
「カルデアさん、いい名前ですね」
「褒めても何も出んぞ、とにかく街の騎士団屯所までついて来てもらうぞ」
ですよね〜、褒めて頬を赤くして照れた所を離脱計画が頓挫してしまった。
さて、どうやって逃げたものか……
「ああ、あんな所にドラゴンが」
「そんな手に引っかかるか!!ぐわっ!?」
『きゅる?』
とか言いつつ後ろを振り向くカルデアさん可愛いな。そして、そんなカルデアさんの顔に覆いかぶさる小龍も可愛いよな。
「よしっ!でかしたムース!」
小龍改めてムースの作った隙がある内にトンズラだぜ。
「それではカルデアさんさようなら」
足元に魔方陣を展開させ宙に浮くと高度を上げ一気に加速させる。
みるみるカルデアさんが遠のいて行きついには米粒ほども見えなくなった。
『きゅ〜〜』
途中でムースが追い付き肩に乗る。
「さて、出鼻を挫かれたが……やっと進めるなムース!行くぞ!!」
『きゅっ!!』
待ってろよ勇者、今から俺が直々に会いに行ってやる。
♢ ♢ ♢
「こちらカルデア、“皇女様”に伝えてもらえるか?目標を発見したとな」
……全く、皇女様には困ったものだ。
たかだか一人の男のためにイーストガリア皇国特務隊一番隊隊長の私にこんな辺境の地まで来させるとは。
「しかし、あれが伝説の勇者か、死霊使いとしか噂では聞かなかったのだがな?」
感想お待ちしてます。