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満魔に生きる  作者:
エリエイア、八歳
14/15

エリエイアと避暑の旅③


 カタコトと揺れる馬車の中。そこで眠るのは、ガートランドとサリアナの愛しい子供たち。子供たちは今、揃いに揃って眠っていた。最初は起きていたのだが、心地よい揺れと、少しずつ増えていく眠る者。その中で、起きていられなかったのだ。

 そして今、馬車の中では子供たちが気持ちよさそうに眠り、ガートランドとサリアナだけが起きていた。が、ガートランドもサリアナも、若干うとうととしている。


「さすがに、眠たいな」

「揺れが気持ちいいし、太陽の光が温かいものね。……私たちも、寝る?」

「そうだな。珍しくリィアが隣に座ってくれたし、一緒に寝ようか」

「不埒なことはしないでね」

「はは。信用がないな」

「ええ、もちろん。昨日の晩の件、まだ許してないわよ」

「………許してくださいお願いします」

「次はないわよ?」

「分かっている。本当にすみませんでした」


 だがその中で、サリアナはしっかりとガートランドをけん制していた。昨晩、あれだけやめてほしいとも訴えたのにやめてくれなかったガートランドに、若干の怒りを覚えていたのである。

 ガートランドもやりすぎたことは自覚しているため、とにかく謝り倒しなのだ。


「本当にすみませんでした。許してください」

「本当に、次はないんだから」


 その後、しっかりと釘を刺したサリアナは横で眠るエリエイアを優しく抱き寄せ、温かいその体に自らも身を寄せて眠る体勢に入る。


「ちょ! こういう時はこちらに寄りかかってくれるものではないのか?」

「だって、そうしたらエリィが寒くなっちゃうじゃない。ガート、エリィに風邪をひかせてもいいのね? まあひどい父親ね、エリィ」

「え!? ちょっと待て。そんなことは一切……」

「思っていないなら、一人で静かに寝なさい」

「う! わ、分かった………」


 その後、ガートランドが自分のほうに寄りかかってほしかったのか、訴えを起こすが簡単に返された。そしてサリアナはエリエイアを抱き寄せ、その小さな体の温かさを満喫しながら、眠りに落ちて行った。

 逆に寝付けないのは、ガートランドである。愛する妻が横にいながら、何の手も出せない。何と言っても、昨晩は愛する妻を愛しすぎて、無理をさせた。その自覚があるため、余計手を出せないのだ。

 その分、子供たちをかまいたいと思っていても、子供たちもみんな夢の中だ。そのために、ガートランドは一人寂しい思いをしていた。

 そんなガートランドを救ったのは、目を覚ましたエリエイアだった。エリエイアは自分を抱きしめるサリアナの腕から抜け出し、ガートランドの膝の上にゆっくりと移動する。


「父様」

「おはよう、エリィ。目が覚めたんだね」

「うん。父様は、寝ないの?」

「ああ。眠れなくてな。エリィも、また寝てもいいんだよ? サリアナも、エリーゼたちも寝ているしな」

「ううん。もう起きてる。父様、何かお話して」

「お話か。どんな話がいい?」

「うーん。………父様の話がいい!」

「お、俺の話か?」

「うん!」


 *****


 じゃあ、話をしようか。

 まず、エリィは俺の名前、全部言えるか?


「ガートランド・リトスル・ビル・アイジェリア」


 正解だ。よく覚えていたね。

 俺はね、三十になろうかというときに、父様―――エリィからすればお爺様だね。お爺様から、アイジェリア公爵という爵位を譲り受けた。それまではお爺様がアイジェリア公爵だったんだ。

 お爺様はね、俺にリディが生まれてから、俺に後継ぎが出来たのがいい機会だと言って、自分は辺境の領地に引っ込んで、俺に爵位を譲ったんだ。

 大変だったよ、爵位を譲られてからは。ほかの公爵たちには目いっぱいからかわれるし、お爺様に助けを求める手紙を送っても、自力で頑張れとしか返ってこないしな。

 だから、その頃はサリアナにはかなり負担をかけたな。乳母がいるとは言えど、サリアナはできるだけ子育ては自分でしたいと言っていたから。

 あの頃のサリアナは、公爵夫人としての仕事、子育てで大変だったろうな。俺も、出来るだけ手伝いはしていたが、俺は公爵としての仕事で精一杯だった。

 そのせいか、サリアナは一度ひどく調子を崩したんだよ。リディもまだ幼いし、エリーゼも幼い。俺は公爵としての仕事からは逃れられない。それでも、自力で頑張ろうとしていたが、無理だった。

 その時、知らせてもいないのに、お爺様とお婆様が屋敷に戻ってきたんだよ。

 それから、俺の頬を思いっきりぶって、言ったんだよ。


「何してる!? 早く、サリアナのところに行かんか! 夫だろうが、ついていてやれ!!」


 でも、俺には公爵としてやることがたくさんあってね。つい、言いかえしちゃったんだよ。


「まだ、これだけはやらなくてはなりません!」

「馬鹿者! 何のために俺が戻ってきたと思っている! 代理でやっておくから、お前は早くサリアナのところに行け!」


 俺は、お爺様のその一言で、すぐに椅子から立ち上がり、走ってサリアナの部屋に行ったというわけさ。仕事がなければ、サリアナのもとに行かない理由はなかったからね。

 ………正直に言って、俺が来た時のサリアナの状態はひどかった。熱も高いし、意識も朦朧としていた。医者からは、覚悟はしておけとも言われたよ。

 それからは、ずっとサリアナについていた。エリーゼとリディアスはお婆様に面倒を見てもらえるよう頼んでね。

 それから、何日も何日も、サリアナとは話すことはできなかった。ずっと眠っているか、目を覚ましても意識が朦朧としていてね。でも、ずっとそばにいたよ。お爺様も、サリアナがよくなるまでは仕事を代わると言ってくださってね。

 だから、遠慮なくずっとサリアナについていた。


 そして、目を覚ましたサリアナが、俺の名を呼んでくれたときは嬉しかったよ。意識もはっきりしていて、医者ももう少し熱が下がれば大丈夫だと判断してね。

 さすがに、そこまでサリアナの調子が戻れば何も仕事をしないというのは許してもらえず、少しずつ仕事をするようには戻したが、それでもいつもよりは少なかった。


 ん? 何を不安そうな顔をしているんだい、エリィ?

 ああ、サリアナが心配なのかな? 大丈夫だよ、サリアナはもう元気だからね。普段の様子を見ていても、分かるだろう?


 *****


「ああ、泣かないで、エリィ。サリアナは大丈夫だよ。ね?」


 ガートランドの話を聞いたエリエイアは、うっすらと涙を浮かべていた。それを見たガートランドが焦って膝の上にいるエリエイアを抱きしめ、宥める。だが、エリエイアの目にたまった涙は耐えきれず、ボロボロと落ちはじめていた。


「ほら、泣き止んでエリィ。サリアナは大丈夫だよ」

「うん………」

「――――――――ガート?」


 そんな泣いているエリエイアをガートランドが必死に宥めていると、底冷えするような声が、隣から響く。その声の主は、もちろんサリアナだ。


「ガート、何をエリィを泣かせているの。エリィ、おいで。どうしたの?」

「母様、平気? 大丈夫?」

「うん? どうしたの、エリィ。母様は大丈夫よ? ほら、大丈夫じゃなさそうには見えないでしょう?」

「ホント? ホント?」

「ガート、エリィはどうしてこんなに私の心配をしてくれているの?」

「昔、俺が爵位を継いだばかりの頃の話をしたんだよ」

「ああ、あのとき体調を崩したものね。結構ひどかったらしいわね」

「かなりひどかったぞ。医者には覚悟しておけとも言われた。……まったく、無事に目を覚まして、俺の名を呼んでくれたときにどれだけ安心したと思う」

「ふふ、ごめんなさいね。でも、今は元気だからいいでしょう?」

「それも、そうだがな」

「ほーら、エリィ? 母様、大丈夫じゃなさそうには見えないでしょう? 元気よ」

「うん………」


 怖い声を発したサリアナは、その声に怯えているらしいエリエイアをガートランドの膝から奪い、自分の膝の上に乗せる。その後は、優しい声で話しかけた。

 その後は、とにかく大丈夫だとエリエイアにとにかく告げつづけ、何度も何度も言い続けて、エリエイアはようやく安心したのか、サリアナに抱き着き、また眠りに落ちて行った。


「また、寝ちゃったわ」

「……不安に、させただろうか」

「エリィくらいの年の子供にとって、親っていうものはいなくなったら大変だものね」

「確かに、そうだったな。お父様とお母様がいなくなったら、と考えるだけで辛かった」


 その後、寝入ったエリエイアを空いていた自分の横に降ろす。その後はよしよしと頭を撫でてやると、エリエイアは嬉しいのか、うっすらと表情を緩ませた。

 その間も、エリエイアたちの乗った馬車は、目的地であるアイジェリア公爵家領地、フォティナへと走って行く。

 ちなみに、先ほどの話では告げなかったが、フォティナにはガートランドの両親である、前アイジェリア公爵夫妻が住んでいる。

 エリエイアが赤ん坊の頃に一度王都のアイジェリア公爵家の屋敷にやってきて、寝ていたエリエイアを撫でていたのだが、もちろんエリエイアは覚えていない。

 両親に会って、エリエイアはどういう反応を見せるだろうか。ガートランドは、そう思いつつ、エリエイアの寝顔を見続ける。

 大きくなったいとし子。サリアナの調子がまだ全回復していないときに生まれたため、一般的な赤ん坊よりもちょっと小さかった。そのためか、成長も少し遅かった。

 だが、そんな小さかった子も、八歳になった。大きくなった。


「さて、久しぶりにお父様とお母様に会えると考えると、頬が緩んでしまうな。二人とも、元気になさっているだろうか」

「そうね。私は、あの調子を崩した時に会ったのが最後だから、今日はしっかりと挨拶ができて嬉しいわ。あのときは、まだ調子が悪かったから、ベッドに座ってしかできなかったもの。お義父様もお義母様も、起き上がるなって仰られて」

「あのときにお前がベッドから降りて挨拶をしようとしていたら、間違いなく俺が止めていたぞ。無理をさせるものか」

「そうね。でも、今日はきちんと挨拶できるから、嬉しいの」

「そうだな。…………この調子でいけば、日が暮れる前にはつけるだろう」

「じゃあ、その前に子供たちを起こさなくちゃね」

「ああ。だが、それまでは―――――」


 そして馬車の中では、子供たちが眠る中で暑苦しい空気が漂い続けていた。


 その後、子供たちはガートランドやサリアナに起こされることなく、目を覚ますことになった。

 理由としては、二人が暑苦しい空気を醸し出して、その空気を何とかするために窓を開けて、換気をしていたために少し肌寒くなったのだ。


「母様……、寒い………」

「あら。じゃあ窓を閉めましょうね。ほら、エリィは母様に引っ付いてなさい。エリーゼとリディは、二人で引っ付いて暖を取ってなさい」

「はい」



 そしてその後も馬車は走り続け、日が暮れる少し前に、目的地であったフォティナに到着し、前アイジェリア公爵夫妻やフォティナの民に出迎えられることとなった。



最後の最後で領地到着。

次話は前公爵夫妻との交流から、かな?


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