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ぐっちゃんは一人

「愚痴って、何だろう。」


そうこぼしたのは、ぐっちゃんと呼ばれる子だった。

いっつも愚痴ばっかり言ってるから、ぐっちゃん。

いっつも愚痴ばっかり聞いてるから、ぐっちゃん。

愚痴の子、ぐっちゃん。


「愚痴?」

「うん、愚痴。」


愚痴の子が、愚痴とは何かと聞いてくる。

ふむ、変な感じだ。まあ答えてやるか。


「えーと、どうしようも無いことをぐだぐだ一人語りすること?」

「結構ひどいこと言うね、君。」


しかも微妙に間違ってるし。

いつもの口調で、ぐっちゃんが愚痴る。


ぐっちゃんは、人を名前で呼ばない。名前を知らないわけじゃないみたいだけど。


ぐてんと机に突っ伏していたぐっちゃんは、ため息をつきながら

床に向かってずるずると落ちていった。

地べたリアンか。華も恥らう女子高生がみっともない。


「危ないよ、ぐっちゃん。」

「うるさいなぁ。これだから君らは嫌なんだ。」


あ、また愚痴った。


「何で嫌なのよぅ。」

「だって君らいっつも僕のやること為すこと全部文句言うじゃんか。」


む、あくまで自分は被害者か、この野郎。


「君らって僕のこと変人とか思ってるだろ。」

「え、ぐっちゃん変人じゃん。」

「うわひど。君の方こそ変人だよ、人を傷つけることを厭わない。」


別に傷ついても無いくせに、ぐっちゃんは時々こういうこと真顔で言う。

その小さな口をにゅーっと突き出して、自分は被害者だーって棒読みで言うんだ。

誰も信じないよ、そんなこと。

どうせ被害者ぶるなら、その大きな目とか綺麗な髪とか使って、最大限努力すればいいのに

ぐっちゃんは何もしない。ただ愚痴るだけ。

そう、愚痴るだけ。



「ぐっちゃんって、人の名前覚えないよね。」

「急な話題転換の上に、何の誤解だよ、それ。」

「だって、ぐっちゃん人のこと名前で呼ばないじゃない。」


ぐっちゃんは人の名前を呼ばない。いっつも「君」とかで済ます。

私達は、ぐっちゃんって呼んであげてるのに。


そういうと、ぐっちゃんは地べたで寝転がっていたその細い上半身を起こして

じっとこちらを見た。

まるで、私の中身を見極めるように。


「何よぅ。」

「・・・別にぃ?」


ぐっちゃんは目を閉じアメリカンに首を振ると、

汚れたスカートを手で払いながら立ち上がった。


「名前ねぇ。」

「ねぇねぇ、名前言ってみてよ!私の!」


にっこり笑って私が言うと、またもやぐっちゃんは私を見つめ

そしてその細い指をビシィっと私に突きつけた。


「けぇちゃん。」

「は?」

「化粧のけぇちゃん。」

「はぁ?」


た、確かに化粧は多少厚いけど!でも私標準レベルなのに!

何この子。


ぐっちゃんは言い切ると、そのまま素早く踵を返した。

まるで、言うべきことは何も無いかのように。


「ちょ、ちょっと!」

「・・・。」


その時振り返ったぐっちゃんの顔に、表情というものは何も無く

ちょっと和風な西洋人形って感じだった。



「君らもさ、呼ばないじゃん。」


私の、本当の名前。




それだけ言って、ぐっちゃんは教室から出て行った。

その日は、一日中欠課だった。









ぐっちゃんは友達が居ない。

だから、愚痴をいつも言っている。


私達は、友達と毎日下らないことを喋る。

親が勉強しろと煩いこと、隣のクラスの教師がウザったいこと

今日の授業が嫌だから無くなって欲しいこと、えとせとら。

これらは全部、世間話。

どうしようもないことをぐだぐだ語る、世間話。


一人語りじゃないから、世間話。

一人が足りだから、愚痴。



ぐっちゃんは、いつも愚痴ばかり言っている。

何故なら一人だから。一人だから。




別に被害者ぶってるわけじゃなくて、ただ愚痴ってるだけなのにね。

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