表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

私たちはどこから来たのだろうか

作者: y=why
掲載日:2026/03/17

20××年、少子化が進んだ結果、日本政府は男性から精子を買い取り、女性から買い取った卵子に受精させることによってそれを対策することにした。その政策によって生まれた子どものことは「フラスコベイビー」と呼ばれているらしい。


「それって俺に関係あんの?」


「さあ?」


 目の前で肩をすくめながら、カフェオレをノンシュガーで飲んでいるのは(気でも触れているんじゃないか、苦いぞ)先ほどまでその事について話していた友人だ。


「だけどさ、きみが学生時代に話していた話がさ、現実になったんだよ? ちょっとは喜んでもいいんじゃないかい? 占い師大先生」


 友人は左の口端を持ち上げながらそう言う。それに対して俺はひきつった笑みを返した。




 俺は占い師だ。そこそこ有名な方だと思うし、それ一本で食っていけるくらいには儲かっている。だが、あまり人から「占い師」などと言われ、持ち上げられるのは得意ではなかった。


 なぜならば


 突然、服の裾を誰かに引っ張られた。眉を額の中央に寄せながらその「誰か」がいるであろう方向に顔を向けると、そこにはむくれた顔の、某有名野球団のロゴが印刷されている古びた帽子を被っている少年がいた。


「どうした少年、迷子か?」


 友人が声をかけた。なんで初対面の人間にそんなに気軽に声かけられるんだよ。


 少年はその問いに答えず、俺の方をまっすぐと見た。その視線にいささか面食らい、腕で目を隠そうとしたが、そんな奇妙な行動を人がたくさんいるカフェでしようものならば、注目の的になった場合のデメリットが大きいことを考慮し、やめた。まあ、少年がこうして行動している時点でそうなっているのかもしれないが。


「あんただろ? 稀代の占い師ってやつは」


「稀代?」


 思わず、声が出た。くそ、子どもと話したくなかったのに。


「そうだよ。あんたは稀代の占い師だよ。そんで、未来で殺される」


「マジかよ、きみ殺されんのか?」


 友人は面白いネタを見つけた、といった様子で俺の方を見てきた。人の不幸をこう扱うのが小説家っていう生物なのか。畜生、なんでこんなやつしか俺は友達がいねぇんだ。


「そうだ。あんたの友達はあと数か月後に死ぬ」


「証拠は?」


友人は完全に少年のとりこになっている。その証拠に、口元が三日月のようにつりあがっている。しかもメモ用紙とシャーペンを持ち始めた。


「これだ」


 少年はポケットから何かを取り出した。


「ふーん、懐中時計? いや、文字盤がデジタル式だな。時刻も今のものを示していない。というか、減ってる? あ!」


 友人はいたずら好きな少年がするような笑みを浮かべた。


「これがきみがこの時代にいられるタイムリミットってことだね?」


 少年は小さくうなずいた。


「じゃあ、きみは何でここに来たんだい? 早く言った方がいいよ。この時代にいられる時間はあと三日だし、親御さんも心配しているかもしれな」


「俺に親はいない」


少年はきっぱりと、そう言った。


「もうあんたらの時代だったら知ってるか」


 そのあとに、ぼそりと独り言めいたことを呟く。なんだか大人ぶっている気がしてイラついた。


「俺は人工的に生み出された人間だ。そうだな…フラスコベイビーと言ったらわかるか?」


 少年はそのあと、一呼吸おいて言った。


「俺がなんでここに来たかはここでは言いたくない。ちょっとあんた、来てくれ」


 俺の裾を引っ張っていた手が、俺の腕をつかんだ。突然の出来事に少し瞳が丸くなったと思う。


「さっきは話さえぎって悪かった。あんたの言ってること、正しいよ。親が心配するってこと以外は」


 俺の手をひきながら、少年はカフェを出て行こうとしている。10歳そこらの人間ってもうこんなに力が強いんだな。


「ちょっと待ってくれ」


 友人は笑みをたたえた顔で言う。


「私も一緒に連れて行ってくれないか? こいつはあんまり喋んないぞ」


 少年は俺の顔をチラリと見た後、友人の手を掴み(なんで俺は腕なんだよ、手でいいだろ)店を出た。友人は


「マスター! ツケで!」


と大声で叫び、カフェの客が一斉に俺たちの方を見た。これだからこいつは…。







「ここが私の家だよ~」


 まるで執事のように恭しく自宅のドアをあける彼を一瞥する。これはかなり興奮してるなコイツ。

 あのあと、俺たちはカフェから最も近い友人の家に行くことにした。俺としても、来なれているここで話を聞けるのはありがたい。1ナノメートルくらいは落ち着くからな。


「さて、未来人くん、ここには私たち以外には人はいないよ。ぞんぶんに話したまえよ」


 リビングでまったく減っていないオレンジジュースを取り出しながら友人は笑った。


 それをこわごわとした様子で少年は見ていたが、自分の目の前に出されたオレンジジュースを突っ返しながら、語り始めた。


「俺は、さっきも言ったけどフラスコベイビーだ。そんで、今から10年後の未来から来た」


「へぇ、じゃあ今の時点できみは生まれているべきか」


 少年はこくりとうなずいた。


 カマかけてみただけなのに、とぼそりと呟きながらメモにかりかりとシャーペンを走らせる友人の頬は紅潮していた。


「そうだな。で、俺のお願いなんだが」


 少年はため息を1つついた。


「俺が誰から生まれたか調べてほしい。両親がわかったら、あんたの死ぬ理由を教えてやる」


 10歳そこらで脅しとはいい態度じゃないかクソガキ。


「なるほど、それでアキラに会いに来たんだね」


 合点がいった、というふうに友人はうんうんとうなずいた。


「アキラ…?」


 少年は首を傾げた。


「そうそう。稀代の占い師様は『アキラ』という名前なのだよ。あー、えっと、きみの名前はなんだっけ?」


「俺の名前は、キョウヤ」


 少年、いや、キョウヤはおずおずと言った。


 友人は獲物が罠にかかった時に喜ぶ狩人のような顔を一瞬だけしたあとに、いつも通りの人好きがする笑みで少年に微笑みながら質問した。こうして自分が知りたい情報を引き出す能力は素直に尊敬する。


「さて私だけ自己紹介をしないというのはフェアじゃないのでね。させてもらうよ。私の名前はエンジェル。よろしくね」


 少年は、ふーんと呟いた。


「それってキラキラネームってやつ?」


「そう、キラキラネームってやつ」


 友人は笑ってうなずいた。


「さて、自己紹介も済んだところで、早速きみの両親が誰か、アキラに占ってもらおうか」


といったところで、あっと友人は声をあげた。


「そういえば、今週どれくらいの人占った?」


「確か7人…あっ」


 俺は額に手をあてた。友人の声が聞こえる。


「ごめんね、キョウヤくん、ちょっとあと5日はアキラ占いできないみたい」


「え、なんで?」


 キョウヤの声は今まで聞いたことがないほど震えていた。


「アキラはね、占いは絶対当たるんだけど、人数制限があってね…。一週間の間に七人占うと、五日は占っちゃいけないんだ。体調崩して倒れちゃうからさ」


 キョウヤはこちらに視線を投げてきた。今の話は本当なのか、とでも言いたげな視線だった。


「アイツが言っていることは本当だ」


「えっ、じゃあ俺がここに来た意味って…」


キョウヤは懐中時計を見つめながら言う。


「ま、まあまあ、そう絶望しなさんな、キョウヤくん、占いなしだって、きみの両親を探せるさ」

「そんなわけないだろ…。いくら有名な小説家だからって」


「おや、私が小説家であることも知っているのかい。まあ、それはともかく、あるよ」


そう言うと、友人は廊下へと消えて行ってしまった。


俺は友人が帰ってくるまでの間、こいつと一緒に居なきゃいけないのか。沈黙が最高に気まずいな。


「あー、なんだ、なんかごめんな?」


「いや、あんたが謝ることじゃないよ」


「ずいぶんしっかりしてんだな。そういった教育とかされてんの?」


「いや、別に。あんたらの時代の孤児院と同じくらいの扱いだよ。だから馬鹿な奴が多い」


「そりゃ、大変だな」


「うん、話通じない奴しかいないもん」


 キョウヤは唇を尖らせた。なんだ、子どもらしいところがあるじゃないか。







「おまたせー! 許可取れたよー」


 OKサインを出しながら友人は廊下から出てきた。


「なんの許可だよ。主語抜けてるからわかんねぇんだけど」


 俺の言葉に、舌を出し、手を後ろにやったあと、てへっと言った。マジでこいつなんなの。


「ああ、ごめんごめん、主語が抜けてたね。あのね、フラスコベイビーの施設内の見学についてだよ」


「それは俺たちも行けるのか?」


「無理だね」


 俺の問いに笑顔で友人はそう答える。


「じゃあなんでそんなにニコニコしてんだよ」


 キョウヤがいら立ちを隠せない声で言った。


「そりゃあ、きみたちは行けないけれどさ絶対に情報は持ち帰ってくるからさ! まあ、待っててよ!」


 と、どこかずれた発言をして友人は家から飛び出して行ってしまった。







「あー、なんというか、あいつは人の気持ちがわかんないところがあるからさ。悪いやつではねえんだけどな」


 その発言に対して疑惑を孕ませた視線をこちらにキョウヤは投げてきた。


「俺はとてもそう思えないよ。あんなやつ」


「俺は一応あいつの友人だぞ。もうちょっと手心ってやつをさ…」


 キョウヤは黙って下を見つめてしまった。気まずい。クソガキでもこうしてしぼんでいる様子を見るのはあまりいい気分ではない。


「まあ、なんだ。元気出せよ。夏祭りとかやってるぞ。綿あめとか食べようぜ」


 キョウヤはゆっくりと顔をあげた。


「その前にさ、やりたいことがあるんだ。シンクってどこにある?」


シンクの方向を指さすとキョウヤはオレンジジュースをそこに流した。


「いこう」


「連れて行くのは俺なんだが」


と思ったが、言わないことにした。







「そっちの時代での祭って今の時代と違うところあるか?」


「来たことないからわかんないな」


 お、おう。何気に重いこと言ってくれるじゃねぇか。


「そうか。なら、今日は思いっきり楽しめ。これでも結構稼いでるんでな」


 キョウヤは笑った。初めて見る顔だった。遠くのピーヒャラという祭囃子の音がどこか大きく聞こえた。


「じゃあ、綿あめとチョコバナナと、サダメ戦隊サダメンジャーの仮面と、あとは」


「わかったわかった。全部買ってやるって」


きらきらとした瞳で大人を見てくるキョウヤは、年相応の子どもだった。







「へぇ、あの時計ってお前が作ったのか! そりゃあ、周りの奴らと話し合わねぇわけだわ」

「そんなもんなのか?」


 否定されると思っていたのか、キョウヤは目を丸くしてこちらを見た。


「そんなもんだよ。頭がいいやつってのは、人と和解できねぇから孤立しちまうの」


「そっか。そうかもしんない」


 キョウヤは仮面をじっと見つめながらそう言った。少し嬉しそうな顔をしていた。だからかもしれない。俺がこんなことを口走ったのは。


「別に両親が誰かなんて関係ないんじゃないか? お前が本当に知りたいのは、自分の孤独をいやす方法なんじゃないか?」


「そう、かもしれない」


 キョウヤの顔に影が差した。先ほどまでの明るい表情が嘘のようだ。くそっ、こんなこと言わなきゃよかった。







「キョウヤ! どこだ! キョウヤ!」


 俺は、子どもの面倒を見たことがない。そしてここは、大勢の人がごった返す夏祭の会場、そんな状態で、子どもを見失わないという可能性を考慮しなかった自分の浅慮にため息が出る。


 迷子局にはもう、連絡をした。その時に、そこにいるよう言われたが、なぜだか俺は駆けだしてしまった。馬鹿だな。そういえば、俺も小さい頃、夏祭りで迷子になったことがあった気がする。


 あの時は、ばあちゃんに迷惑をかけたな。







「あの、すみません占い師のアキラ様ですか?」


 親しげな様子の男女が声をかけてきた。


「すみません、今本当に時間がなくて、あとででいいですか?」


 こんな時に仕事関係で引き止められては困る。


「そんな! お話だけでも」


 男の方が俺の腕をつかんできた。パーソナルスペースとかないのかこいつ。離せよ気持ちわりぃ。


「ですから、本当に時間がないんですって」


「ぼくたち、フラスコベイビーの精子提供者と卵子提供者になりまして…。実は子どもが欲しかったのですが、子どもを育てる経済力はぼくたちにはなかったんです。それで、そうすることにしたんですが、その子どもが幸せに暮らせるかを占って欲しくて…」


 見れば、二人の服装はみすぼらしかった。


 ここで俺は、1つの考えが頭をよぎった。


「その子どもの名前は何にしようとかは、考えていますか?」


「名前、ですか? …名前は、キョウヤにしようと思っています」


「そう、ですか…。そちらのお名前をお伺いしても? 予約をしておくので」


「えと、ぼくはハチヤ ユウスケで、こちらはハチヤ フミコさん…です」


 その後、電話番号や様々な事を聞いた後、ユウスケは、「お時間を取らせてしまって申し訳ございません!」と謝り、祭りの喧騒の中へと、とけていった。







「すまん」


「そう言うんだったら、もうちょっと済まないって感じの顔しろよな」


 ポケットと頬を迷子局付近にいる老人から、もらったお菓子でいっぱいにしながら言うキョウヤに、俺は呆れながらそう言った。


「すまんって思ってる」


「いーや、思ってないね」


「思ってるって」


 そんなどうでもいい応酬をする。もっと別にいう事があるはずなのに、俺はそうしていた。


「すまんな」


「なんであんたが、あやまんの?」


「両親のことを知りたいんじゃなくて、自分の孤独を癒したいからそうしているんじゃないかなんて言って。


言い訳させてもらうなら、俺も両親のことを知らずに育ったんだ。ばあちゃんに育てられたんだよ。そんで、俺は両親のことを知りてぇなぁって思ってたんだ。


そしたら心のどっかに空いてる穴を埋められると思ってた。


…けど、そんなことはなかったんだよな。だから、お前も同じかなって思って、そういった。けど、言うべきじゃなかったよな。ごめん」


「別に気にしてないよ」


 キョウヤはあの時と同じように俺をまっすぐに見た。


「まだそうだって決まったわけじゃないし」


キョウヤは笑った。本当に気にしてなさそうな顔だった。







「あのさあ、キョウヤの両親かもしれない人にあったんだけどさぁ、聞く?」


友人の家に帰るまでの間、意を決してそう聞いてみた。


「いや、今は聞かない。エンジェルが戻ってきたら聞く」


「そうか」


 友人宅への道は、オレンジ色の光に家々が照らされて俺の心情とは裏腹に明るかった。







 家に帰ると、もう友人は帰ってきており本格的な中華料理を作っていた。ちょっと緊張した時に友人は中華料理を作る癖があるのだが、これもここまでくるともはや神聖さすら感じるな…。いや、なんで緊張したときに中華料理を作ることに対して俺は疑問をあまり感じてねぇんだよ。おかしいだろ。


 …どうやら俺は随分とこの友人に毒されてきているようだ。


「やあ、帰ってきたのかい!」


 言いながら、友人はチャーハンを皿に盛りつけた。


「そうだよ。帰ってきたんだよ」


「ただいまー」


 友人は少し俺たちを見て、驚いたようだった。


「どうかしたのか?」


「いや、帰ってきたとは言われると思ってなくてだね」


「ここは第二の我が家だろ。それくらいは言う」


「まじかぁ~」


 友人は床にぺたんと座り込んだ。余程うれしかったようで、にやにやとした表情が顔を覆っている手の隙間から見える。


「エンジェルなにしてんの?」


「エンジェルはね~、今、友人から『お前の家は俺の帰る場所だ』みたいなこと言われて嬉しんでんの」


「ふーん、そうなんだ。よかったじゃん」


 キョウヤはそう言って、手を洗いに行った。


「ほら、アキラも手洗いに行きな。キョウヤの両親についてはそれからだよ」







「両親の名前は男の方が『蜂屋 裕也』、女の方が『蜂屋 文子』ってことがわかったよ」


 案外あっさり、キョウヤの両親のことについて話されている現状に驚いた。キョウヤもそんなに感情が動いていないようで、なんか拍子抜けって感じだ。


「でも、両親のことについて、きみの方がよく知ってるんじゃないかな」


 友人は、俺の方に視線を投げながら言ってきた。


 瞬間、空気が変わった。先ほどから打って変わって、少しひりついたような感じになった。


「あ、えっと、なんて言うべきかな…」


 その空気に負けそうになり、思わず言葉に詰まる。


「そうだな…。キョウヤの両親と、さっき夏祭り行ったとき、えっと、キョウヤが迷子になって、探してた時に出会ったんだ。正直言って、その時はキョウヤの両親って確信は持ててなかった。けど、友人の話聞いてわかったよ。あの人たちはキョウヤの両親だ」


 キョウヤは真剣にこちらの言葉に耳を傾けている。友人はニコニコと笑っているが、これが俺の話を真剣に聞いている時の顔だ。


「その人たちの話から、貧困でキョウヤを育てられなかったから、フラスコベイビーとして政府に任せたってことがわかってさ。なんだろうな。あの、悪い人じゃなかったよ」


 そこまで言って、ようやく肩の荷が下りたような気がした。


「そうなんだ」


 キョウヤは至極どうでも良さそうな声を出した。


「なんというかさ、俺、あんたと同じみたいだよ。そんなに孤独がどうにかなんなかった。けどさ」


 キョウヤは笑った。夏の日の良く晴れた空みたいな笑顔だった。


「別にそれでもいいかなって思った」







「あんたの死因だけどさ」


 12時を少し回ったころだろうか。いきなりキョウヤが俺の寝室を尋ねに来た。夜更かしは子どもに毒だぞ。早く寝ろとは言い難い顔だった。


「エンジェルに殺されるんだよ」


 なるほど。合点がいった。なんだか友人への対応がちょっと変だったのはそれが原因だったのか。


「でもさ、エンジェルはそんなことする存在なのかなって思った。あんたとのやりとりで」


「まあ、あいつは承認欲求満たすためにはそういったこと平然とする存在だからなぁ…。あいつは自分の孤独をそういった方法で満たして見ないようにしてんの」


「そうなんだ」


 キョウヤはちょっと納得がいかなさそうな顔をした。なんだ、なんか不服なことでもあんのか?


「なんでアキラはそんな奴と一緒にいんの?」


「ん~、あれだな。キョウヤさ、さっき『別にそれでもいいかなって思った』って言っただろ?


俺も、埋まらない孤独と一緒に歩んでいくことを両親のこと知った後、決めたんだよな。


でもさ、一緒にいたり、なんかやったりして孤独がマシになったりなる人とか趣味とかあるわけ。それが俺にとってあの友人だからさ」


 キョウヤはまだ納得ができないみたいだった。口をへの字に曲げている。


「それにアイツ、このこと言ったら多分しないだろうから。アイツがそんなことを自分がするって知ったら自分で殺さなくする方法くらいは思いつくさ」


 キョウヤはこれに納得したようで「ふーん、そうなんだ」と言って、寝室に戻って行った。







「ってことで、俺はお前に殺されるらしいってこと知ったんだが」


「あ~、それねぇ。確かに殺す…かも」


 キョウヤが帰った後、俺たちはいつものカフェでの会計を済ませた。まあ、金を払うのは友人一人だが。


 こういう話になったのは、店のマスターに「そういえば前一緒に来ていた子って誰なんです?」と聞かれたからだ。


「一体全体なんで殺すんだよ」


「私って承認欲求お化けだからさ、小説家になったんだけど」


 友人は黄色に色づき始めたイチョウの木を眺めながら言う。


「連続殺人犯になったらもっと注目されるんじゃないかなって思ってさ」


「なるほど、それの第一被害者が俺なのか」


「いや、きみを殺す予定はなかったんだけどさ、多分事件のこと占いで知っちゃったんだろうね」


「それで、俺を殺す予定?」


 わざと皮肉気にそう言うと、友人は眉を下げて「やめてよぉ」と言った。そのあとに


「いや、まだ誰も殺してないから、知られてもそんなにやばいことじゃないんだよね。だから殺さないよ」


と言い、今度は俺の目を見た。


「きみだけじゃなく、きみ以外の人も」


 そういう友人の言葉を、俺は信じることにした。きっと、俺は遠い未来にキョウヤと会うだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
筆舌に尽くし難く読み応えたっぷりの絶品な短編小説をありがとうございました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ