第9話 ボス戦
「冒険者の祠の調査達成により、新たなクエストが解放されました。ご覧になりますか?」
「……マジすか」
(発展型のクエストだったのか)
「見せてください」
ウィンドウに表示されたのは――。
討伐クエストだった。
「報酬はこちらになります」
〈マナブーストの本/スキル書/マナの最大値が増加〉
(スキル書!? そんなのがあるのか)
すぐにスキルツリーを開いて確認する。
(マナブースト……マナブー……)
しかし、該当スキルが見つからない。
(ん? 無いぞ?)
「スキル書って、そのスキルを覚えられるんですよね?」
「はい。SPを消費して、スキルを取得できるようになります。中には、スキル書でないと取得できないスキルもあります」
(なるほど!)
スキルツリーに空欄があるのはそのためか。
条件を達成しないと取れないスキルもあるんだな。
(ってことは……レアスキル!)
「受けます!」
◇ ◇ ◇
(買い物も済んだし、準備は万端だ)
町を出た俺は、自分の姿にちょっとした高揚感を覚えていた。
新しい皮鎧にマント、そして磨き上げた鉄の剣。
(けっこうカッコいいんじゃないか? もう完全に冒険者だろ)
にやけそうになるのを抑えつつ、一つだけ大きくため息をつく。
(それにしても、ポーションが死ぬほど高かったな)
飲んでもいい。
傷口にかけるのも有効。
頭からかぶっても効果はあるらしい。
念のために1つだけ買ったけど、死ぬほど高い。
店でのやり取りを思い出し、少し渋い顔になる。
けれど、今後の戦略はすでに決めていた。
俺はUIを操作する。
カホンの祠で手に入れたSPをさっそく消費した。
〈マナコスト軽減〉、〈マナ回復強化〉を取得する。
(今は正直気休め程度だ)
でも長期戦になればこの差が生きる、はずだ。
それにこのスキルツリーの配置……。
上手くいくような気がする。
「よし。じゃあ、ボスをぶん殴りにいきますか」
◇ ◇ ◇
草原の中を歩きながら、足元に目を向ける。
バッタのような虫が跳ねている。
日本と変わらないようでいて、よく見ると触角の数や色が違う。
風の匂い、空の色。
その一つひとつが、確かに異世界だ
(おっと、一番の違いは……)
「お前らがいるってこと、だよな」
〈探知〉が捉えたモンスターの気配。
俺が剣を抜くと同時に、2体の羽ドラゴンが連携して襲いかかってきた。
(ふむ……)
冷静に見切る。
横へステップし、すれ違いざまに1体目を切り伏せる。
返す刀で2体目を迎撃。
(2体ならまず問題ないか)
クモの方が厄介だった感じがするな。
これが経験を積むってことなのか。
恐怖よりも、自分の成長への確信が勝っている。
ボスに近づくに連れて、俺の鼓動は心地よく高まっていった。
◇ ◇ ◇
カホンの冒険者の祠に到着した。
隠し通路を抜けて、開けた広間へと足を踏み入れる。
(……空気が重い)
まるで、底なし沼に足を踏み入れるような圧迫感。
広間の中心に、静かに佇む影があった。
俺は一瞬だけ立ち止まる。
(ここまで来てビビるなよ)
〈ライトエイプ/光属性/レベル:5/ボス〉
ボスの表示には、驚きはない。
覚悟していたから。
でも――。
(5レベル……予想よりちょい上だったな)
今の俺はレベル3。
相手は格上だ。
けど、俺の目は冷静だった。
(ヤバいと思ったら即退却する)
霧を出して〈ステルス〉を使えば逃げ切れる。
無理はしない。
逃げ道があるという事実が、心の余裕を生む。
怖いのに、何故か口元に笑みが浮かぶ。
(これに勝てば、また新しい道が開ける!)
その先に、俺がこの世界に来た理由があるのかもしれない。
「さあ、こい!」
俺が剣を構えた瞬間。
影が動いた。
「キィィエエエッ!!」
甲高い奇声とともに、全身が発光するサル型のモンスターが躍り出た。
身の丈は、俺より少し大きい程度。
しかし、そのスピードと跳躍力は人間離れしている。
そして、まばゆい光を纏った威圧感は凄まじい。
(速いッ!)
左右に跳ねる。
壁を蹴り、残像を残すような速度で迫る。
間合いを測る間もなく、光る拳が目の前に迫っていた。
「——っ!」
とっさに剣で受け止める。
重い衝撃が骨まで響く。
(あっぶな!)
腕が痺れる……。
反撃の剣を振るう。
しかし、ライトエイプは空中で身体をひねり、軽々とかわした。
剣先がわずかにかすっただけだ。
「キャキャキャッ!」
嘲笑うように跳ね回りながら、奴は両手を広げた。
その掌から、無数の光の粒子が放たれる。
(光っ――)
「くっ!」
光の雨が弾けるように降り注いだ。
回避しきれない。
(熱っ……痛ったぁ!)
針で刺されたような痛みが襲う。
それでも新調した皮鎧が、光のダメージを吸収してくれているようだった。
(くっそ。こんなの何度も受けてられないぞ!)
俺はすぐに距離を取って、体勢を立て直す。
奴は光を撃つ前に、何度も跳ね回ってマナを溜める動作をしていた。
(魔法主体なのか? でも殴る力も強かった)
俺は剣を握り直す。
手のひらの汗を拭う余裕はない。
◇ ◇ ◇
観察を重ねるうちに、攻略の糸口が見えてくる。
ヒット&アウェイ。
マナを溜めて魔法を撃ってくる。
ちょこまかしてるくせに、理にかなった戦い方だ。
しかも、油断をしていると、飛び込んできて拳を振るってくる。
(まともに追いかけっこしてたら、こっちの体力が尽きる)
息を切らせながらも、俺は切り札を出す決断をした。
(逃げるためにとっておいたけど……ここで使う!)
〈フォッグ・クラウド〉
白い霧が一気に広間を覆い尽くした。
ライトエイプの視界が遮られる。
「ウキャッ!?」
ライトエイプはしばらく跳ねていたが、霧の中に姿を消した俺を警戒し始めた。
そして次の瞬間。
奴は狼狽し、デタラメに光弾をばら撒き始めた。
霧の中へ、光の範囲魔法が放たれる。
(そうだよな。見えない霧の中に隠れてるって思うよな!)
けど、そこに俺はいない。
俺はすでに〈ステルス〉を発動して、霧の外側から回り込んでいた。
光弾を撃ち尽くし、隙だらけの背中が見える。
俺は音もなく接近して——
「そこッ!!」
咆哮と共に剣を振り下ろす。
刃はライトエイプの肩から背中にかけて切り裂いた。
(浅い……!?)
光の膜のようなものが、刃をわずかに逸らした感触があった。
ライトエイプは、さっきまでとは違う、悲痛な叫び声を上げながらバックステップする。
それを見て、即座に〈フィジカル・ブースト〉を発動させる。
身体を強化して、俺は地面を蹴った。
「これでっ!」
一気に距離を詰めて、剣を振り下ろす。
ライトエイプが跳ねて逃げようとする。
しかし、間に合わない。
最後の一撃が、その胸まで届いた。
短い断末魔の叫びとともに、光を放ちながら、ライトエイプはその場に崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……ッ」
残心を取りつつ、俺はその場に膝をついた。
一気にマナを使いすぎた反動か、視界がぐらぐらする。
(勝てた。でも――ギリギリだ)
静けさが戻った広間で、俺は震える手を見つめた。
恐怖の震えじゃない。
興奮と、達成感だ。
俺は強くなってる。
もっと強くなりたい。
そのためには、別の力が必要だ。




