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盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~  作者: 上山マヤ
第3章 ゴブリン編

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第58話 価値

 砕いた氷壁をせっせと運び出すゴブリンとオークたち。

 オーク族の先兵ベルカジが、巨大な塊を担いでいた。

 それ見て俺は声をかける。


「それ、どうするんだ?」

「おう、タケルか。邪魔だから日当たりのいい場所に移動させるんだ」

「そっか。洞窟の中だと溶けないのか」


 氷の塊からは冷気が漂う。

 近くにいるだけで肌が粟立つ。

 ユラが興味深そうに、その断面を指でつついた。


「冷たい……。でも、なんか氷にしては重そうね」

「ああ。やたらとずっしりくる」


 ベルカジが頷く。

 そこへ、騒がしい声とともに一行が現れた。


 低い背丈。

 樽のような胴体。

 立派な髭を蓄えた男たち。

 ドワーフの行商団だ。


 交易のために定期的に山を登ってくるらしい。

 オークたちは植物の種や農具を買っているみたいだ。


「今回、こちらが出すのは食料だ」


 出迎えた族長のシャンデが、腕を組んで告げる。

 ドワーフの行商頭が、髭を触りながら渋い顔をした。


「食料か……。まあ、悪くはないが」

「それで食糧難になってるんじゃないですか?」


 俺が横から口を挟む。

 シャンデはバツが悪そうに視線を逸らした。


「そうはいっても、我らオークの武器をドワーフどもは買わんしな」

「当たり前じゃ! ワシらはもっと良い物を作れるのに、なんでオークから買わにゃならんのよ」


 ドワーフが鼻で笑う。


(言われてみればそうだな)


 鍛冶と言えば、ドワーフなイメージはある。


「オークの武器はつえーぞ!」

「そうだそうだ! 頑丈だぞ!」


 周りのオークたちが口々に反論する。

 ドワーフは呆れたように肩をすくめた。


「お前らみたいな、でっかい奴らの武器は需要がないのよ。人間には重すぎるし、ワシらにも大きすぎる」


(体格の問題か)


 たしかに、シャンデの大剣はすごいスペックだけど……。

 俺には絶対に扱えない。


「まあ、食いもんはうめえ。……ゴブリンの飯はまずいがな」

「どこがまずい!」


 それまで大人しくしていたラクンが、牙を剥いて噛みついた。

 ドワーフの足を踏んづけようとするラクンを、ユラが苦笑しながらなだめる。


(ラクンってゴブリン飯のことになると怒るよな)


 そこへ、砕けた氷壁を運び出すオークたちが通りかかった。


「なんだ貴様ら、東側に置けと言っただろうが」


 シャンデが指示を飛ばす。


「あっちはもう場所がないです。あと日当たりがいいのは、こっちの南側くらいなんで」

「いや、ここに置かれたら出入りが――」


 シャンデがそう言いかけた時だった。

 ドワーフの行商頭が、目の色を変えて氷壁の欠片に飛びついた。


「おい! 邪魔だドワーフ!」


 運んできたオークが怒鳴る。

 しかし、ドワーフは聞こえていない様子で氷の表面を撫で回す。

 匂いを嗅ぎ。

 舌で舐める。


「……オークたちよ、これをどうするつもりだ?」


 ドワーフの声が震えている。


「日のあたる場所へ置くんだよ!」

「……なんのために?」

「アホか、溶かすために決まってるだろうが!」

「アホはお前らだ! これが溶けるわけがないだろう!」


 ドワーフが顔を真っ赤にして叫んだ。


(溶けない?)


「これは『氷雪鋼ひょうせつこう』だぞ!」

「ただの氷壁ではないのか?」


 シャンデが怪訝な顔をする。


「これは鉱石だ! しかも、途轍もなく純度が高い!」


(そうか! スキルの開花か!?)


 俺が〈鑑定〉しても氷壁としか情報は出なかった。

 前にシャンデが言ってた。

 開花すれば素材やエンチャントまで分かるようになるって。


「重いから装備には使えないが、常に冷気を放つ性質がある。金持ちの家の家具や建物の装飾、食品の保存庫なんかに使われる高級素材じゃ!」

「ほう。売れるのか?」


 シャンデが身を乗り出す。


「ああ、それ全部買い取る」

「全部だと!」

「珍しい鉱石なんですか?」


 俺が確認すると、ドワーフは興奮気味に鼻息を荒くした。


「ああ。今回ワシらが持ってきた交易品、全部置いてく。それでも足りんだろうが……」

「そんなに価値があるんですか?」

「希少鉱石だ! 加工すれば王都やレベックで飛ぶように売れる。こんなデカイ氷雪鋼の塊は、ワシも初めて見るわ!」

「まだあるけど……」


 運んできたオークの言葉に、ドワーフはひっくり返りそうになった。


「な、なんじゃと……? もしかして、鉱脈を見つけたのか?」

「鉱脈かどうかは分からんけど」

「場所を教えてくれ! 採掘してやる。大儲けになるぞ?」

「発掘って……あんな硬いのどうやって」


 俺が尋ねると、ドワーフは得意げに言った。


「専用の道具がある。氷雪鋼を砕けるのは、氷雪鋼だけだ。あと〈採掘〉スキルも必要だがな」


(おい、マジかよ)


 道具で……壊せたのか。

 いや、生産スキルになるのか、この場合。


 俺はガックリと膝をついた。


(俺はなんて無駄なSPを……)


 攻撃して壊すことしか思いつかなかった。

 いや、考えようともしなかった。


 シャンデと目が合う。

 彼女もまた、信じられないという顔で額を押さえていた。


「くっくっく。……間抜けな話だ」

「なんかちょっと、頭痛くなってきましたよ」


 俺たちは、なんて遠回りを。

 ゴブリンとオークに至っては十数年間?

 宝の山の前で「邪魔だ」と言って立ち往生していたんだ。


 ユラが同情するような、呆れたような目で俺の肩をポンポンと叩く。


「ま、結果オーライよ」

「そ、そうだな……」


 ラクンは状況が呑み込めていないようだった。


「シャンデさん。どうしてドワーフたちに氷壁を見せなかったんです?」

「ゴブリンと繋がる洞窟は、我らの中枢だ。商人など入れるわけがない」


(まあ、それはゴブリン側も同じ思いだったんだろうな)


 ゴブリンがドワーフに見せてたら反対側から穴が開いたわけだし。

 よく似てるよ、あんたたち。


「えっと、この氷雪鋼で食料の保存場所を作ったり、もっと農業用の道具を買えます?」


 俺がドワーフに交渉を持ちかける。


「どの程度の鉱脈かによるな。農具に関しては次回、積めるだけ持ってこよう。施設に関しては約束できん」

「そういうわけなんで……」


 俺はシャンデに視線を送る。

 彼女は短く息を吐き、決断した。


「いいだろう。洞窟への立ち入りを許可する」


 ◇ ◇ ◇


 東側に運び出された氷壁の残骸。

 そして洞窟内の、俺が魔法でこじ開けた大穴。

 それを見てドワーフたちは呆然と立ち尽くしていた。


「なんだこりゃあ……。鉱脈とかって話じゃねえぞ」

「壁一面、これ全部氷雪鋼じゃねえか!」

「天然の穴が開いてるのが神秘的だぜ」

「この鉱脈がどこまで続いているのかは分からんが、見えてるだけでもオークとゴブリンたちは30年は食っていけるぞ」


 ドワーフたちの目が、通貨記号に見えるほど輝いている。


「むしろここに加工施設を作って、氷雪鋼の製品を輸出した方がいいかもしれんな」

「オークは鍛冶ができるし、何気に手先が器用だ」

「ゴブリンも細かい作業は得意だろ?」


 ドワーフたちは興奮しながら未来を語る。


 騒ぎを聞きつけたゴブリンの族長もやってきた。

 話を聞くと、興味深そうに頷く。


「面白いな。骨細工房を広げたいと思っていたところだ。ドワーフよ、どうか?」

「工房だって? 馬鹿言うな! 城だって建ててやれるぜ!」


 ドワーフの力強い言葉に、オークとゴブリンたちから歓声が上がった。


 かつて彼らを分断していた氷壁。

 それが今、彼らを繋ぐ架け橋になろうとしている。


 価値とは、そこにあるものじゃない。

 それに気づく目があるかどうからしい。

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