第55話 異種族パーティ
「祠へ行きたい?」
オーク族の族長シャンデが、低い声で問いかける。
族長の部屋には重苦しい沈黙が満ちていた。
焚き火の爆ぜる音だけが、緊張感を煽るように響く。
「祠の場所を教えて下さい。そこで得られるSPがあれば、あの氷壁を砕くことができるかもしれません」
「ふむ……」
顎に手を当てたシャンデは、値踏みするようにじっと俺を見据える。
「人間のお前が、我らオークやゴブリンのために力を得ようとするのか?」
「それだけじゃない。俺自身も強くなれます」
(知った以上は、絶対に祠でSPを取る!)
俺の返答に、シャンデは口の端を吊り上げた。
「いいだろう。我らに害をなすようには思えんしな。ただし、私も同行する」
「……はい?」
「お前の力を見てみたい。もっと魔法の力を見せろ。我らオークは生まれつきマナが少なく、魔法は不得手だ」
(対魔法使いの経験を積みたいって感じがするな)
どう見ても筋肉ゴリゴリの戦士タイプだ。
魔法への対策を考えているのかもしれない。
(あれ?)
「えっと、力が見たいということは……」
「当然モンスターどもがいる。まあ、大した奴らではない」
シャンデが獰猛に笑う。
周りに控えていたオークたちも力強く頷いた。
(……ホントかな?)
「ゴブリンと、獣人の娘はどうする?」
シャンデの視線が、俺の後ろに向けられる。
「あの2人は――」
「私も行く」
遮るように声がした。
振り返ると、ユラが入り口に立っていた。
昨夜の消耗が嘘のように、その瞳には強い意志が宿っている。
「ユラ、もう起きたのか」
「平気よ。戦えないけど、経験値が欲しいからそばで見てるわ。SPが空っぽなの」
(なかなか言えない感じのことを、堂々と言ったな)
昨日のスキル取得で使い果たしたんだろうな。
彼女にとっても切実な問題だ。
「我も行く。オークの村で、1人は、嫌だ」
ラクンも俺の足元にぴたりと寄り添って主張する。
(2人とも超個人的な理由だな)
「くっははは! いいだろう。普段なら追い払うが、人間の力と貴様らの素直さに免じて連れて行ってやろう!」
シャンデが豪快に笑い飛ばす。
すると、視界にウィンドウが表示された。
──シャンデからパーティ申請が届きました。
(急に来るから心臓に悪い……)
これ冗談で拒否ったら殴られそうだな。
俺は承諾ボタンを押す。
──パーティに加入しました。
こうして、オーク族の女族長シャンデをリーダーとするパーティが結成された。
ゴブリンのラクン。
マヌルネコの獣人のユラ。
そして人間の俺。
異色のパーティが並び立った。
(……なんだこのパーティ、ハーレムかよ)
俺は小さくため息を吐く。
けれど、その奇妙な組み合わせに不思議と一体感を覚えていた。
◇ ◇ ◇
俺たちは冒険者の祠を目指して雪原を進む。
距離はそれほど遠くないらしいけど、足場は悪い。
「おい、人間」
「はい」
先頭を行くシャンデが、背中越しに声をかけてくる。
(パーティ情報に俺たちの名前が表示されてるはずなのに)
「貴様らのレベル。よくここまで来れたものだな」
「あ、……も、もうすぐ上がりますよ」
(まてよ?)
シャンデは20レベルだ。
対して俺たちは、6レベルと5レベル。
道中のモンスターのレベルはどうなんだ?
シャンデからしたら大したことなくても、俺たちからしたら即死級のレベル差になってたりしないか?
「あの、もし祠の周りのモンスターのレベルが高いようなら、やっぱりユラとラクンは帰したいんですけど」
「言っただろう、大したことはない。貴様らと、そう変わらんさ」
(本当かな?)
俺はチラリと後ろを見る。
ユラは寒さに強いとはいえ、昨日の疲れが残ってる。
ラクンは平然としているけど、レベルはユラと同じだ。
モンスターを見つけたら速攻で〈鑑定〉する。
やばいレベルだったら2人をすぐに帰らせよう。
俺が考えているのを察して、シャンデが鼻を鳴らす。
「疑り深い人間だ。我らの生活圏のそばに、高レベルなモンスターがいるはずがないだろう。人間どもの町も、同じのはずだ」
「たしかに、その通りですね」
納得しつつ、俺の視線はシャンデの背中に釘付けになっていた。
彼女の体躯に見合うほどの巨大な剣。
独特の装飾が施され、雪の中でも鈍く輝いている。
背負われているだけで圧倒的な圧力を放っていた。
(こういうの、聞くのがマナーだったりするのかな?)
「その武器、〈鑑定〉していいですか?」
「好きに見ろ」
〈オルクスの大剣/攻撃力:+50/STR:+10%/〈ブレイブ〉/耐久:∞〉
〈ブレイブ〉
効果:対象の攻撃力が増加する
(当然のことのようにレジェンダリー武器だな。それよりも……)
「いや、強すぎでしょ! 攻撃力盛りまくりで耐久無限?」
「素材やエンチャントまでは見られんか」
(エンチャント? そんなのまであるのか……)
「〈鑑定〉スキルでそこまで詳細に見えるんですか?」
(スキル説明には「詳細情報が見れるようになる」、としか書いてないんだよな)
「スキルの開花だ。〈鑑定〉は熟練が溜まると自然と開花すると聞く」
「なるほど!」
(そういえば、開花で効果が強化されるのもあるって聞いたな)
熟練度っていうからには回数が決まってるのか?
俺の反応を見て、ユラが小声で聞いてくる。
「そんなにすごいの?」
「ああ、一生モノの武器だよ」
ユラが感心したように大剣を見上げる。
「パーティにそういう仲間が1人いると便利だ。まあ、オークたちは〈鑑定〉なんぞにSPを振りたがらんがな」
「まあ、それは想像がつきます」
脳筋……いや、純粋な戦士たちだからな。
「これは先代の族長の剣だ。死者の武器は、子や仲間へと受け継ぐ。オークは"武器に魂を宿す"のだ」
(魂の継承……特殊な力でも宿ってるのか?)
「もしかして、耐久が無限になってるのって……エンチャントの影響ですか?」
「これはシェーレ鋼だ。シェーレ鋼で作られた装備は損傷しないと言われている。たしか人間の技術だぞ? いや、ドワーフだったか?」
「そんな技術が……」
(折れない、壊れない武器)
それが永遠に受け継がれていくのか。
ロマンがあるな。
「ラクンも何か持ってるの?」
ユラが何気なく尋ねる。
「ゴブリンは、骨を使う。これだ」
ラクンは胸元から、小さな骨をつなぎ合わせた首飾りを取り出して見せた。
粗削りだけど、どこか温かみのある光沢を帯びている。
「見てもいい?」
ラクンはコクリと頷いた。
〈妖精のアミュレット/「幻惑」「魅了」無効〉
「状態異常が2つ無効!?」
(これ、普通に冒険者ギルドで高値で取引されそう)
「ほう」
シャンデも興味深そうに覗き込む。
(確かにオークは精神系に弱そうだし……。いや、それは人間もか……)
ラクンは「ふふん」と小さく胸を張った。
死者の武器を受け継ぐオーク。
死者の骨を飾るゴブリン。
人間には、どういうものがあるんだろう。
種族も価値観も違う。
それでも今は、同じ場所を目指している。




