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盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~  作者: 上山マヤ
第3章 ゴブリン編

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第50話 骨に残る記憶

 岩壁に囲まれた奥の広間。

 族長の部屋だ。

 中央では大きな焚き火が燃えている。

 赤々とした炎が、洞窟の天井を照らし出している。


「ケル、そしてユラ。……よく来た。少しは慣れたか?」


 低くしわがれた声が響く。

 俺は自然と背筋を伸ばした。


 族長の周りには数人の若いゴブリンが座る。

 彼らは、静かに炎を見つめていた。

 まるで儀式の場に招かれたような、張り詰めた緊張感があった。


 俺とユラは、焚き火を挟んで族長の向かいに座った。


「驚くことが多いです。今日は知りたいことを教えてくれると……」

「そうだ。我らゴブリンは、死の神に創られた種族だ」


(死の神……)


 ラクレスと戦った……敵、だよな。


 隣でユラがピクリと反応した。


 彼女もレベックで舞台を観ている。

 思うところがあるはずだ。


 族長の語りが始まった。

 焚き火がパチパチと爆ぜる。

 その音が、言葉の隙間を埋める。


「かつて、死の神は人に敵対し、我らを兵として用いた。だが、勇者ラクレスが神を討ち、その時から我らは自由を得た。死の神の影から解き放たれ、我らは群れを築き、繁栄を選んだのだ」


("勇者"ラクレスか。人を憎んではなさそうか?)


 俺は黙って耳を傾ける。

 語りはただの昔話ではなく、重みを伴った歴史の記録のようだった。

 ユラも真剣な表情で聞いている。

 獣人である彼女にとっても、他種族の歴史は他人事ではないのだろう。


「我らの死は、火に還す。炎と共に歌い、群れの記憶として骨を残す。骨と共に生き、次の代へと伝えられる。こうして我らは、死してなお群れに溶ける」


(火に還す……骨を記憶にする……)


 ふと、骨投げで遊んでいた子どもたちの姿が頭に浮かぶ。


(骨投げてたけど?)


 実はあれにも、何か意味があるのかもな。

 彼らにとって骨は、飾りつけや単なる遊び道具じゃない。

 記憶を受け継ぐ象徴であり、共に在るものなのかもしれない。


「だが、人と争わなくなった後も、別の火種がある」


 族長の視線が炎を越えて、俺に向けられた。


「オーク族との軋轢あつれきだ。食料、狩場、群れの境界……。だが忘れるな。彼らもまた、死の神に創られた種族。かつては共に戦った同胞であった」

「今は……敵なんですか?」


(人と争ってないのは良かったけど)


 俺が問いかけると、族長は深く目を閉じた。


「敵であり、同胞である。だからこそ厄介だ。……最近、妙な噂もある」

「噂?」

「死者の骨を喰らう者が現れたという。骨を記憶とする我らにとって、それは最大の冒涜。奴らはボーンイーターと呼ばれている」


 焚き火の炎が大きく揺れる。

 影が壁を踊った。

 俺は背筋に寒気を覚える。


(骨を食らう? モンスターか?)


 骨を食べる……。

 それは彼らにとって、先祖の記憶そのものを消されるに等しい恐怖なのかもしれない。


 族長はしばし炎を見つめ、静かに言葉を続けた。


「お前たちは群れの外から来た者。だからこそ、この争いを見極められる、やもしれぬ」

「……え、俺たちが?」


 不意に投げかけられた言葉に、俺は目を瞬かせる。

 俺の言葉に、ラクンはわずかに頷いた。

 その瞳の奥には、確かな安堵の色が浮かんでいるように見えた。


「ケル、群れの間を歩くのだ。お前の目は、ゴブリンともオークとも違う」


(また妙な役目を……)


 でも、オークがどんな種族なのか気にはなる。


「俺が間に入っても解決するかは分かりません。下手すると、もっと大きな争いになるかも知れませんよ?」

「構わぬ。それも流れの中のことだ」


 俺は深く息を吸った。


 ゴブリンの文化に触れて、その死生観を知った今。

 ただの異世界の観光客ではいられない。

 ここで出会ったものに、自分も関わるべきだと、心のどこかで感じていた。


 ◇ ◇ ◇


 族長の部屋を出ると、焚き火の残り香が衣服に染みついていた。


(確かに知りたいことは教えてくれたけど)


 俺が呼ばれた用件って……。

 オーク族とのいざこざを何とかしろってことじゃないのか?


「ラクン、知ってたな?」

「冬の前に、食糧問題を、終わらせたい。それで、ケルを、呼んだのだ」


 ラクンは当たり前のように答える。


「まあ、いいけどさ。オークの村ってどこにあるの?」

「我が、使者として、行く。ケルとユラも、来てくれ」

「ラクンが使者なの?」

「オークの、族長は、女のゴブリンとしか、話さない」

「え? 俺だめじゃん?」

「人の声なら、聞く、かもしれない」

「私も行くの?」


 ユラが自分を指差して聞く。


「獣人の声なら、聞く、かもしれない」

「……なるほどね。わかった、付き合うわ」


 ユラは苦笑いを浮かべつつも、嫌そうな顔はしなかった。


(これってゴブリン的には賭けになってないか?)


 それだけ深い問題なのかもしれない。

 ゴブリンは人と敵対してないけど、オークはどうなんだ?

 ラクレスと死の神の話って300年前くらいの話だから……。


 俺は自分の剣の柄を握る。

 その手は少し汗ばんでいた。


(戦うことになるのかもしれない)


 かつて仲間だったゴブリンとオークが縄張り争いをしている、と。

 仲裁って難しそうだよな。

 片方に敵意があったら、絶対に解決しないだろうし。


「なんにしても、オーク側の意見を聞いてみないとね」

「今日の夜、戦歌いくさうたを、やる。明日、出発する」

「戦歌?」

「無事を祈る、儀式だ」

「そんなに遠いの?」

「3日で着く。オークと会うのは、久しぶりだ。そのための、歌だ」


(道中じゃなくて、会った後の心配か)


 でも戦歌か。

 またラクンの歌が聞けるのかな?

 もう気軽に「歌って」なんて、言えなくなったからな。


 押し付けられたような仕事でも、俺は新たな旅に胸を躍らせていた。

 オークとの対話、そして彼らの生活。


(楽しみだな)

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