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盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~  作者: 上山マヤ
第3章 ゴブリン編

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第49話 歌に残る記憶

 翌朝。

 目を覚ました俺は、薄暗い洞窟の寝床で耳を澄ませた。

 石の壁に反響しているのは、一定のリズムでカン、カンと鳴り響く音。


(なんの音だ? 工事でもしてんのか?)


 身を起こして外に出ると、広場の中央で数人のゴブリンが巨大な骨を叩いていた。

 高さ3メートルほどの獣の脚骨。

 鉄棒のようなもので刻むように打ちつけ、乾いた音を響かせている。


「……うるさいわね」


 隣の寝床から、ユラが眠たげに目を擦りながら出てきた。

 耳がぺたりと伏せられている。


(獣人の耳には響くのかな)


「ケル、起きたか!」


 ラクンが駆け寄る。


「『骨時計』だ。村は、この音で、時を知る」


(……時計?)


「へぇ……腕時計みたいなものか」

「うで、とけい?」

「えっと……まあ、時間を教えてくれる道具だよ」


 ラクンは「ほう」と頷き、胸を張って見せた。


「ならば同じ。我らの、骨時計は、仕事の合図だ」


(面白いな)


 骨を叩いて時間を伝える……。

 これはこれで立派な仕組みかもしれない。


「……ラクン、なんかめっちゃ話すようになったな?」


「同じものを食べ、同じ村で眠った。ケルとユラが、群れに近づいたのだ」


(群れ? 仲間として認められたってことかな)


 ユラが少し驚いたように耳を立てた。


「今のほうがいい。たくさん話せるほうが」

「そうか」


 ラクンの表情はまだ読み取りづらい。

 けれど、少しずつ柔らかくなっている気がした。


◇ ◇ ◇


 午前の合図に合わせ、男たちは武具を手に洞窟の外へ向かう。

 狩り、見張り、鍛冶場。

 俺は広場の隅からその様子を眺めていた。


「ケル! 人間の話をして!」

「森のこと! もっと教えて!」


 子どもたちに囲まれてしまった。


「え、えーと……」


 戸惑いながらも、俺は現実世界のことを少しだけ噛み砕いて話してやる。

 夜でも光る街灯のこと。

 音楽が流れる箱のこと。

 そして学校の授業のこと。

 子どもたちは歓声をあげ、目を輝かせた。


(こうしてみると、俺も何か役に立てるのかもしれないな)


 少し離れた場所で、ユラも数人の子どもたちに囲まれて、そのふさふさの尻尾を触らせていた。

 最初は嫌がっていたみたいだけど、今はまんざらでもなさそうな顔をしている。


「みんなは普段なにして遊んでるの?」


「骨投げ!」

「歌聞く!」


(歌も娯楽なのかな)


 レベックの舞台でも音楽は鳴っていけど……。

 この世界でまともに歌を聞いたのは、ラクンの歌が初めてかも。


 ラクンがこちらへ向かってくる。

 それを見てゴブリンの子供が言う。


「ラクンはノクスの歌が上手だよ」

「ノクス!?」


 俺は思わず大声を上げた。


(どうしてここでその名前が?)


 胸の奥が、ひやりと冷える。


 初めてこの世界にきた時に拾った手記。

 元の世界に戻る鍵の一つとして、「ノクスの核」という言葉が記されていた。


「ケル、遊んでるのか? 知りたいこと、族長が、話してくれるぞ」

「族長が?」

「我らの長、"伝える"が、一番上手い者が、選ばれる」

「へえ」


 具体的にどうやって決めてるんだろ?

 朗読とかするのかな?


「ラクン、ノクスの歌ってどんなの?」

「……き、聞きたい、のか?」


(なんか照れてる?)


 歌うのが恥ずかしいのかな?

 でも、洞窟じゃ歌ってくれてたけど。


「うん、聞きたい」

「……そうか」


 ラクンは小さく咳払いし、歌い始めた。


 その声に子どもたちが集まり、大人たちも足を止め耳を傾ける。

 ユラもこちらに顔を向け、耳を澄ませた。


(昨日も思ったけど、ラクンの声って凄く響くんだよな)


 耳ではなく心に直接入ってくるような。


 そんな歌声に俺は心酔していた。


(歌詞らしい歌詞はないのか)


 歌い終えたラクンが、少し照れくさそうに寄ってきた。


「今のがノクスの歌? すごく良かった」

「ノクスは、人の名、である」

「人!?」

「ノクスは、朝の名、土地の名、世界の名、である。……そんな、歌だ」


(それって神様のことを歌ってる……?)


 骨時計の音とラクンの歌声が重なり合う広場。

 俺は初めて、この世界で手がかりを見つけたような気がした。


 ◇ ◇ ◇


 族長の部屋へと向かう途中。

 鈴を転がすような笑い声が耳に届いた。

 洞窟の通路に明るく反響するその声に、俺は足を止めて目を向ける。


 数人のゴブリンの子どもたちが、輪になって何かを投げ合って遊んでいた。

 棒や石かと思いきや、手に握られていたのは獣の骨。

 白く削られた小さな肋骨や指の骨を、弾むように放り投げては笑い転げている。


(これが……骨投げか)


 ずいぶんとワイルドな遊びだな。


 興味を惹かれ、俺はそっと近づいた。

 しかし、子どもたちは俺の気配に気づくと、ピタリと動きを止める。

 黒曜石のような瞳に、わずかな警戒の色が浮かんでいた。


(そりゃ知らない種族の人が近づいたらこうなるか)


 俺はにこりと笑って、軽く手を振ってみせた。

 沈黙の数秒。

 やがて1人の子どもが、ためらいがちに小さな骨を俺に向かって投げてきた。


(おっと)


 反射的に手を伸ばし、見事に掴み取る。

 俺は試しに、同じように投げ返してみた。


「ヒャハッ!」


 子どもたちは一斉に声を上げ、目を丸くして笑った。

 再び骨を放り投げ、互いに取り合う。


 俺は輪の中には混ざらなかったけど、子どもたちに受け入れられたような空気が広がった。


 少し離れた場所からその光景を眺め、俺は胸の奥に温かいものを感じていた。

 骨を投げて。

 追いかけて。

 笑う。

 その単純な遊びに、文化の素朴さと野生味がにじみ出ていた。


「ケルは、子供と、遊ぶのだな」


 ラクンがいつもの調子で、質問とも独り言ともつかない声を漏らした。


「そうだね。そういえば大人がそばに居ないんだな。子どもたちだけで遊んでる」

「そういう、ものだ。ゴブリンの子は、大人の姿を、見て育つ。狩りや、仕事は、その時に、教える」


(放任主義ってことか)


「楽しそうに笑ってるし、いいのかもしれないね」


 厳しくも見えるけれど、子どもたちは生き生きしている。

 笑顔が多いなら、それでいいのかもしれない。


 ◇ ◇ ◇


 骨投げの遊びを見届けた後、ラクンがぽつりと口を開いた。


「ケル、知っているか。女は読む、歌う。男は作る、伝える。それが、我らの生活だ」


(分業してるってことか)


 前にも教えてくれたよな。


「へえ、なるほど。じゃあ、女の人が歌うのは仕事ってことになるの?」

「そうだ。歌は、遊びとは、違う。祈りであり、言葉であり、時に……求愛、でもある」

「求愛!?」


 俺は思わず聞き返した。

 隣にいたユラも「えっ」と声を漏らす。

 ラクンは当たり前のように頷く。


「『歌って欲しい』、と願うのは、心を、捧げたい、言葉。群れでは、常識だ」

「……え、まさか、それって……!」

「ケルが、知らないのは、知っている」

「……うん。そうだよね」

「だから、あまり、言うのは、やめろ」


 ラクンの言葉はストレートだったけど、その口調は歌のように優しかった。

 それでも、俺は心臓が止まるかと思うほどの衝撃を受けた。


「あ、……うん」


(やばい……この世界の常識)


 ちゃんと覚えていかないと、本当に命取りになる……!

 もしかして、ネコ族にもそういうのがあるのか?

 知らぬ間に地雷を踏んでたりしないよな?


 ユラがポツリと呟く。


「本当に種族が違うと、色んなことが変わるのね」

「そうだな」


 ユラにもよく「変わってる」って言われるしな。

 本当に気をつけよう。


 俺は心の中で強く反省した。

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