第45話 防水袋の素材
「トラベル、急がなくていいからな。ゆっくり行こう」
少し進んだところで、俺は独り言のように呟く。
トラベルは楽しそうに鼻を鳴らした。
歩くのが楽しいのか、それとも俺の緊張が伝わっているのか。
ユラは時折、集落のある方向へと目を向けていた。
(いつか……きっと連れて行くから)
今は、この旅を続けよう。
力を隠すのが正解なのか……。
全ての武器を晒す意味はないと思う。
でも、上級魔法を使えると知られるデメリットは、案外ないかもしれない。
その時、〈探知〉が反応する。
(モンスター……か)
この反応、なんか久しぶりだな。
「ユラ! トラベルを頼む!」
「分かった!」
俺はトラベルから飛び降り、背中のベルトから杖を取り出す。
(1人で戦うのは久しぶりだな)
「よし、行くか」
◇ ◇ ◇
(この配置……)
まさか待ち伏せしてるのか?
人が通る道だと分かって?
気配は道を挟んで4体が囲むように待機していた。
〈フーネル/水属性/レベル5〉
〈鑑定〉で名が浮かんだ瞬間、既視感を覚える。
(ん? どこかで聞いた名前だ)
その姿は、サメとワニを掛け合わせたような奇妙な生物だった。
体長は中型犬ほどだが、その皮膚はぬめりと光っている。
(……水属性か)
火の魔法はあんまり効かなそうだな。
でも、こういう属性の相性みたいなの、試してみたかったんだ。
杖を構えて、〈ファイヤー・アロー〉を放つ。
すると、フーネルは口から水を吐き出た。
見事に火の矢を相殺する。
(マジか)
迎撃してくるのかよ。
しかも、相手は距離を保ったまま動かない。
(一定の距離まで近づくと、一気に攻撃してくる……とか?)
俺には奴らの攻撃を防ぐ手段がない。
なら―—。
火矢の連射。
角度を変えて撃ち込む。
しかし、全て水に呑まれる。
(……我慢比べだ)
俺はテンポよく4体のフーネルに火の矢を撃ち続ける。
その全て相殺されてしまう。
状況は動かない。
(あいつら全然動かないな)
もう後ろから誰か通って倒してくれないかな……。
しばらくすると、先に動いたのは1体のフーネルだった。
水を吐こうとして、ゲホッ、と空気を吐く。
(お? 水切れか!)
「そりゃ、いつかは尽きるよな。自分の体内の水分を使ってるんだから」
しかし、俺の〈探知〉は、他の3体も同時に動き出したことを告げていた。
(他も一緒に来るのかよ!)
咄嗟に杖を構える。
水切れになっていない3方向へ火矢を放つ。
何とか足を止めさせる。
水を吐き尽くした1体だけが、俺へじりじりと迫る。
(くそ、早く来い……)
これじゃ俺も動けない。
土の上を、体を引きずるように進むフーネル。
その動きは鈍い。
なんだか苦しそうだ。
俺は撃ち続けながら、ふと思う。
(お前ら……戦う場所、間違えてね?)
結局、その1体は俺に届く前に干からびたように倒れた。
他の3体も水を吐けなくなって、ただ立ち尽くしている。
(水辺から離れすぎて、動くと消耗するから動けなかったのか?)
海とか川にいろよ……なんでこんな街道沿いに。
すかさず俺は剣を抜き、動けなくなったフーネルたちに駆け寄る。
その剣は、マナを通すと小さく光った。
鋭い斬撃が敵に向かう。
(剣が加速する!?)
動けなくなったフーネルを一撃で仕留めていった。
(思わぬ試し切りになったな)
スパルトイからのドロップアイテム、レジェンダリー武器『灰の古剣』。
驚くほど軽く振れた。
マナを込めると攻撃力が上がるみたいだけど。
使いこなすには、もっと練習がいるな。
「あ、思い出した。こいつらって防水グッズの素材になるやつだ」
あの防水袋、御者のムスターからもらったんだよな。
懐かしさが胸をくすぐる。
(ムスター、元気かな……)
「私がやるわ」
「うん。お願い」
解体はユラの仕事になっていた。
もしかして、別属性の魔法を取った方が戦闘での選択肢が増えるか?
ただ、上位に行くまでに初級中級合わせて3ポイント必要なんだよな。
剣スキルも色々あるし。
剣か魔法か。
どちらかに特化させた方がいいのかな。
(悩ましい)
遠くで木々の葉が風に揺れる音が、ざわめきのように聞こえた。
(祠、10個くらい見つかんないかな……)
その時、〈調査者の才覚〉が反応する。
採取可能ポイントがマップに浮かび上がった。
(おお、けっこうあるじゃん)
「あんまり重くならないようにするからな、トラベル」
(やっぱこの〈採取〉してる時が、一番楽しいまであるな)
俺はスコップを片手に、足取り軽く駆け出した。




