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盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~  作者: 上山マヤ
第2章 レベック編

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第44話 新たな旅立ち

 朝日を浴びた石造りの壁が白く反射する。

 俺は思わず目を細めた。


 レベックの城門を出てすぐの街道。

 俺は愛馬トラベルのたてがみを優しく撫でながら、手綱を引いていた。


 これから向かう王都は、レベックとは比べ物にならないほど巨大で、未知に満ちた場所だという。

 どんな出会いが、どんな試練が待ち受けているのか。

 不安がないわけじゃない。

 けれど、それ以上に自分の可能性を試してみたい、という強い気持ちが胸に込み上げてくる。


 気になっていたことを隣を歩くユラに尋ねてみた。


「そういえば、ユラはカホンやカウベルのほこらには行ったの?」

「祠? ああ、冒険者の祠のこと?」


 ユラは不思議そうに首を傾げた。


「行かないわよ。あれは人間専用だもの」

「えっ、そうなの?」

「祠のシステムを作ったのは大昔の人間だって言われてるわ。他種族に対抗するためにね」


(人間専用のパワーアップ施設だったのか……)


「じゃあ、獣人や亜人はレベルアップ以外にSPって増えないの?」

「種族によって違うわ。レベルが5上がるごとにボーナス入る種族もいれば、脱皮や換毛期に増える種族もいる」

「脱皮でSPゲット……するの?」

「ネコ族の場合は、『フタツ実』っていう果実を食べるとマナが活性化してSPが増える、って言われてるわ」

「言われてるって、見たことないの?」

「話だけ。私の集落で食べた人はいなかったと思う。九つの色があるんだって」

「へぇ、面白いな」


 世界は広い。

 俺の常識が通用しないことは、まだまだありそうだ。


「おーい! タケルー!」


 背後から聞き覚えのある声がする。

 振り返ると、チャールズ、ヒラリー、デイヴの3人が手を振りながら駆け寄ってくるところだった。


「見送りに?」

「当たり前だろ。水臭いぞ」


 チャールズが息を切らせて笑う。


「その子がトラベルちゃん?」


 ヒラリーが目を輝かせて馬に近づく。


「そっか。会うのは初めてか」

「綺麗な馬だね。もっとこっちで乗馬の練習しておかなくていいの?」


 デイヴが、わざとらしい笑みを浮かべる。


「正直、それが一番不安なんだよな。でもユラは乗れるし、王都に着くまでには、なんとか乗りこなしてみせるよ」


 チャールズがエナックを見せる。


「タケル、エナック持ってたんなら言えよな」

「あんまり見せびらかしちゃダメなのかと思ってさ」


 俺はエナックを取り出し、チャールズのエナックと登録した。


「エナックの登録は人数制限あるからな。代表して俺ってことになった」


 チャールズが、どこか照れたように笑う。


「友達で登録したのは初めてだよ」

「光栄だね」


 彼の顔には、昨日の迷いはない。

 どこか吹っ切れたような清々しさが宿っていた。

 そして、チャールズたちはユラの方を向く。


「ユラさん、タケルのお守り大変だと思うけど、よろしく頼むよ」

「ええ、任せて」


 ユラが少し誇らしげに胸を張る。


「タケルがデルミ屋で言ってた意味がやっと分かったよ。ユラさんのことがよっぽど大事らしい」


 デイヴがそう言うと、ユラは照れくさそうに耳をピコピコと動かした。


「何を言ったのよ」

「……もう覚えてません」


「俺とも登録しとくか? ……あ、女としか登録しないんだったわ」


 不意に、背後から野太い声がかかる。

 キンドレッドのリーダー、アンジェラだ。


「アンジェラさん!? わざわざ……見送りに?」

「アホか。ちゃんと断りに来るのが筋だろが」


 アンジェラは腕組みをして、ふんと鼻を鳴らす。


(ほんと、その通りです)


「すみません。アンジェラさんには声をかけようか迷ったんですけど……」

「ん? 他にも誘われてたんじゃねえのか?」

「クランのリーダーで、直接誘いに来たのはあなただけでした」

「俺は自分の目で見て決める主義だ。他は他で、目や耳があるんだろうよ」


(こういう真っすぐなところが、アンジェラの魅力なんだろうな)


「誘ってくれてありがとうございます。でも俺は王都へ行きます。向こうのクランや、他の町のクランも見てみたいんです」

「ガッカリしても知らねえぞ?」

「それでも……きっと楽しめます」


 俺が笑顔で答えると、アンジェラはふっと笑い、バシッと背中を叩いた。


「いい度胸だ。達者でな」


 アンジェラが去っていくのを見送り、俺は改めて3人に向き直る。


「ありがとう、みんな。本当に会えてよかった」

「また会えるって」


 ヒラリーの口調は軽いが、瞳の奥に涙が光っていた。


「どうせなら、ここまで活躍が届くようにしてよ」

「うん、頑張るよ」

「楽しかったよ、タケル」


 チャールズが手を差し出す。


「俺も。ありがとう、チャールズ」


 固く握手を交わした。


「行ってきます」


 俺はユラの手を借りてトラベルの背にまたがり、朝日の中を進み出す。

 背後から届く「元気でね!」「死ぬなよ!」という声に、俺は何度も振り返り手を振った。

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