第44話 新たな旅立ち
朝日を浴びた石造りの壁が白く反射する。
俺は思わず目を細めた。
レベックの城門を出てすぐの街道。
俺は愛馬トラベルのたてがみを優しく撫でながら、手綱を引いていた。
これから向かう王都は、レベックとは比べ物にならないほど巨大で、未知に満ちた場所だという。
どんな出会いが、どんな試練が待ち受けているのか。
不安がないわけじゃない。
けれど、それ以上に自分の可能性を試してみたい、という強い気持ちが胸に込み上げてくる。
気になっていたことを隣を歩くユラに尋ねてみた。
「そういえば、ユラはカホンやカウベルの祠には行ったの?」
「祠? ああ、冒険者の祠のこと?」
ユラは不思議そうに首を傾げた。
「行かないわよ。あれは人間専用だもの」
「えっ、そうなの?」
「祠のシステムを作ったのは大昔の人間だって言われてるわ。他種族に対抗するためにね」
(人間専用のパワーアップ施設だったのか……)
「じゃあ、獣人や亜人はレベルアップ以外にSPって増えないの?」
「種族によって違うわ。レベルが5上がるごとにボーナス入る種族もいれば、脱皮や換毛期に増える種族もいる」
「脱皮でSPゲット……するの?」
「ネコ族の場合は、『フタツ実』っていう果実を食べるとマナが活性化してSPが増える、って言われてるわ」
「言われてるって、見たことないの?」
「話だけ。私の集落で食べた人はいなかったと思う。九つの色があるんだって」
「へぇ、面白いな」
世界は広い。
俺の常識が通用しないことは、まだまだありそうだ。
「おーい! タケルー!」
背後から聞き覚えのある声がする。
振り返ると、チャールズ、ヒラリー、デイヴの3人が手を振りながら駆け寄ってくるところだった。
「見送りに?」
「当たり前だろ。水臭いぞ」
チャールズが息を切らせて笑う。
「その子がトラベルちゃん?」
ヒラリーが目を輝かせて馬に近づく。
「そっか。会うのは初めてか」
「綺麗な馬だね。もっとこっちで乗馬の練習しておかなくていいの?」
デイヴが、わざとらしい笑みを浮かべる。
「正直、それが一番不安なんだよな。でもユラは乗れるし、王都に着くまでには、なんとか乗りこなしてみせるよ」
チャールズがエナックを見せる。
「タケル、エナック持ってたんなら言えよな」
「あんまり見せびらかしちゃダメなのかと思ってさ」
俺はエナックを取り出し、チャールズのエナックと登録した。
「エナックの登録は人数制限あるからな。代表して俺ってことになった」
チャールズが、どこか照れたように笑う。
「友達で登録したのは初めてだよ」
「光栄だね」
彼の顔には、昨日の迷いはない。
どこか吹っ切れたような清々しさが宿っていた。
そして、チャールズたちはユラの方を向く。
「ユラさん、タケルのお守り大変だと思うけど、よろしく頼むよ」
「ええ、任せて」
ユラが少し誇らしげに胸を張る。
「タケルがデルミ屋で言ってた意味がやっと分かったよ。ユラさんのことがよっぽど大事らしい」
デイヴがそう言うと、ユラは照れくさそうに耳をピコピコと動かした。
「何を言ったのよ」
「……もう覚えてません」
「俺とも登録しとくか? ……あ、女としか登録しないんだったわ」
不意に、背後から野太い声がかかる。
キンドレッドのリーダー、アンジェラだ。
「アンジェラさん!? わざわざ……見送りに?」
「アホか。ちゃんと断りに来るのが筋だろが」
アンジェラは腕組みをして、ふんと鼻を鳴らす。
(ほんと、その通りです)
「すみません。アンジェラさんには声をかけようか迷ったんですけど……」
「ん? 他にも誘われてたんじゃねえのか?」
「クランのリーダーで、直接誘いに来たのはあなただけでした」
「俺は自分の目で見て決める主義だ。他は他で、目や耳があるんだろうよ」
(こういう真っすぐなところが、アンジェラの魅力なんだろうな)
「誘ってくれてありがとうございます。でも俺は王都へ行きます。向こうのクランや、他の町のクランも見てみたいんです」
「ガッカリしても知らねえぞ?」
「それでも……きっと楽しめます」
俺が笑顔で答えると、アンジェラはふっと笑い、バシッと背中を叩いた。
「いい度胸だ。達者でな」
アンジェラが去っていくのを見送り、俺は改めて3人に向き直る。
「ありがとう、みんな。本当に会えてよかった」
「また会えるって」
ヒラリーの口調は軽いが、瞳の奥に涙が光っていた。
「どうせなら、ここまで活躍が届くようにしてよ」
「うん、頑張るよ」
「楽しかったよ、タケル」
チャールズが手を差し出す。
「俺も。ありがとう、チャールズ」
固く握手を交わした。
「行ってきます」
俺はユラの手を借りてトラベルの背にまたがり、朝日の中を進み出す。
背後から届く「元気でね!」「死ぬなよ!」という声に、俺は何度も振り返り手を振った。




