第41話 選択の時
「実力を見せろ」
そう言われて、辿り着いたのは見覚えのある草原だった。
周囲には十数人の人影がある。
その間には獣人や亜人、そして見知った魔物の姿も混ざっている。
〈デルミイノブ/雷属性/レベル:6〉
(……やっぱりそういう流れか)
モンスターは、数人の戦士たちが盾で押さえていた。
「あの……なんかギャラリーが」
「心配すんな。全員俺の身内だ」
(獣人や亜人もいるのか……)
俺は深く深呼吸する。
有無を言わせぬ雰囲気だ。
断れそうな感じじゃない。
(でも、この位置だと……)
俺は杖を握り直し、距離を取る。
ギャラリーを巻き込まない射線へと回り込む。
狙いを定め――。
〈フレイム・ランス〉
杖の先から放たれた巨大な炎の槍が一直線に走る。
その槍はデルミイノブを貫いた。
(なんかマナの流れがスムーズになった気がする)
後方に火柱が立ち上がる。
周囲に広がる熱風が、草原の草木を焦がした。
おおおおお! と周囲からどよめきと歓声が上がった。
「よーし、解散だ! お前ら、仕事に戻れ!」
よく通る声を張り上げた男が歩み寄る。
俺の前でドカリと地面にあぐらをかいた。
「見下ろされるのは好きじゃねえ。お前も座れ」
「あ、はい」
「クラン『キンドレッド』のリーダー、アンジェラだ」
「……タケルです」
アンジェラは、デルミを解体して運び出す仲間たちを眺めながら口を開く。
「いい攻撃だったな。うちのモンを巻き込まないように角度をつけたろ?」
「何かあったら困りますし」
アンジェラはニヤリと笑った。
「合格だ。もういくつかのクランから勧誘を受けてると思うが、あまり思い上がるなよ。上級魔法を使えるのは、実はそれほど珍しくはない」
(まあ、そうだろうな)
上には上がいる。
それはスパルトイ戦で痛感した。
「ただ、火力馬鹿は1人でも多い方がいい。うちに来いよ。退屈はさせねえ」
(火力馬鹿……)
「色々と誘われているので、ちょっと考えたくて……」
(なんかこの人、乱暴だけど嘘はつかなそうだな)
「おっと、言い忘れてた。うちの下部クランには、女だけのクランがある」
「はあ……下部クラン?」
(そういえば、1位クランも派閥がどうとか言ってたな)
「クランには定員がある。だから、その傘下にいくつかクランを持つことがあるんだ」
(ああ、そういうことか)
「そうなんですね」
「特別に好きなの選ばせてやるよ」
「はい!?」
「はっはっは。なんなら今から見学に行ってもいいぞ」
俺は慌てて立ち上がった。
「とにかく、考えますから。失礼します!」
「ああ、いい返事を待ってるぜ」
◇ ◇ ◇
レベックに戻ると、街角でチャールズが立っていた。
「最近はよくチャールズに待ち伏せされるな」
「……そうかもな」
夕日がチャールズの顔を赤く染めていた。
その影の奥に沈んだ表情が見えた。
「俺がパーフェクトサークルに入ると、チャールズも卒業後に入れるの?」
俺は単刀直入に聞いた。
チャールズは驚いたように目を見開き、やがて苦笑した。
「……よくわかったな」
チャールズは観念したように呟いた。
「さすがに分かるよ」
(そうまでして入りたいクランなのか……)
そう言えるほど、俺はチャールズのことを分かっていない。
貴族社会のしがらみや、ランク1位のクランの凄さも知らない。
(でも!)
「チャールズは状況判断が早いし、指揮も取れる。どこに行ってもやっていけるよ。誰かのコネなんて必要ないくらいに」
「なんだよ急に」
「本心だよ」
チャールズの目は遠くを見ているようだった。
「ランク2位の、キンドレッドにも誘われたんだな」
「あれ2位だったのか」
「知らなかったのか? 有名だぞ」
「そういう話はしてこなかったな、あの人」
チャールズは息を整え、真剣な声で続けた。
「タケルのレベルはまだ6だ。成長の余地は大きい」
「チャールズもね」
「俺のことはいいんだって」
チャールズは少し苛立ったように遮った。
「クランによって事情が違う。タケルがこれからどのスキルを選ぶか、それをすり合わせることが重要なんだ。大手クランに行けば、レアなスキル書をもらえるかもしれない。でも、それと引き換えに"自由"を失うかもしれない」
彼は、俺のことを真剣に考えてくれていた。
「チャールズはすごいよ。もし君に誘われてたら、前向きに考えたかもしれない」
顔上げて真っすぐにチャールズは俺を見た。
「だからこそ、タケルはここを離れて、王都を目指すべきだ」
「王都?」
「上級魔法だけじゃない強さが、お前にはある……と勝手に期待してる。だから、王都のクランを見てほしい」
「俺が王都に行ったら、チャールズの顔を潰すことになるよ?」
「俺のことは俺が決める。だから……タケルもそうしろ」
チャールズは強く言い切った。
その目には、少しの寂しさと、それ以上の強い意志が宿っていた。
「……うん」
チャールズたちと出会って、確実に俺の世界は広がった。
このパーティに参加できて、本当によかった。
俺は、次の目的地が決まったような気がした。




