第40話 ランク1位
俺は窓を開け、大きく息を吸い込んだ。
朝の光がレベックの町を鮮やかに描き出している。
この街には人々がそれぞれの生活を営む、確かな生命力が満ちていた。
俺はその景色を眺めながら、自分のこれからを静かに見つめ直していた。
ユラは今日も朝から獣人コミュニティに行っている。
あれからルードのことは話していない。
彼女の今後を、彼女自身が決めるための時間が必要なんだろう。
宿のロビーに降りると、チャールズが待っていた。
昨夜の名残か、口元は固く結ばれ、表情は少し険しい。
「ああ、悪いな。これから、ある貴族に会ってもらう。その人はレベックで一番のクランの人間だ」
「一番……わかった。行こう」
短く返事をし、俺はチャールズの後について上街へ向かった。
◇ ◇ ◇
立ち並ぶ屋敷の中でも、ひときわ大きな門の前に数人の従者と1人の男が立っていた。
「よく連れてきてくれた、チャールズ。君はここまでだ」
「はい」
チャールズは深々と頭を下げ、俺に視線もくれずに踵を返す。
「じゃあ、タケル」
「ああ、ありがとう、チャールズ」
(……本当に、俺をこの屋敷に連れてくるためだけに……?)
重厚な扉が開く。
きっちりと整えられた燕尾服の男が立っている。
その執事らしき人物が、無言で手を差し伸べ、俺を中へ導く。
(執事っていうの? こういう人って本当にいるんだな)
案内されるままに中へ入っていく。
廊下には高価そうな壺や絵画が並ぶ。
甘い香水の匂いが漂っていた。
「ようこそ、私の屋敷へ。と言っても、本宅ではないがね」
通された応接室で、俺はふかふかのソファーに腰を下ろした。
向かいには、質の良さそうな服を着た小太りの男が座っている。
「チャールズから話は聞いているかな?」
男は優雅に足を組み、俺に尋ねる。
「はい、レベックで一番のクランだと」
「その通り。我がクラン、『パーフェクトサークル』はレベックランク1位のクランだよ」
(1位だと……何か特典があるって言ってたな)
「パーフェクトサークルのリクルーターを任されている、ジョシュだ。えーと、君の名はたしか……」
「タケルです。よろしくお願いします」
「そうそう、タケルだ」
間もなく、執事が銀のトレイにお茶と焼き菓子を載せて運んできた。
「私はこういったシンプルな焼き菓子が好きでね。君たちだと、なかなか食べる機会もないだろう。是非味わってみてくれ」
(クッキー、というには少し分厚い感じがするな……)
「い、いただきます」
ジョシュは得意げに「どうぞ」とばかりに手でジェスチャーをした。
一口かじると、ジャリっという砂糖の音が響く。
(甘い……)
いや、昨日のチェリーパイでも思ったけど、甘すぎないか?
カホンのケーキみたいな、優しい甘さじゃないんだよな。
これがこの町の味なのかな。
「とても……濃厚な焼き菓子ですね」
俺が言葉を選んで感想を述べると、ジョシュは満足そうに笑った。
「そうだろう! 砂糖を惜しみなく使っているからな」
すぐに彼の表情は引き締まった。
「本題に入ろう。我がクランに君の席を用意しよう、という話になってね。このレベック最大派閥のクランだ。光栄に思ってくれて構わない」
「は、はい」
(んー……ちょっと苦手かも……)
ジョシュの言葉は一つひとつが妙にゆっくりで、俺には品定めされているような気がした。
その自信満々な態度に、俺はソファーの上で小さく居心地の悪さを感じていた。
「複数の貴族がスポンサードしているクランだ。住む場所も、装備も、格が三つも四つも上がると思ってくれていい」
(あまり広い家に住んでもな……)
「貴族の人が多いクランなんですか?」
「いや、直接クランに加入している貴族はそう多くはない。私の場合、取引に有効なスキルがあるので席を置いている。詳しくは言えんがね」
俺が「すぐに答えを出せない」と言うと、ジョシュは露骨に不快そうな顔をした。
けれど、それ以上は何も言わず、面会は一旦お開きとなった。
◇ ◇ ◇
(なんか疲れる……)
実力が認められるのって、もっと嬉しいと思ってたんだけどな。
屋敷から出た俺は、ため息をつきながら歩いていた。
すると、派手な刺青を入れた屈強な男に呼び止められる。
(変わったタトゥーだな。手紙の絵?)
「お前がタケルだな」
「チガイマス」
俺が即座にカタコトで否定するも、男は聞く耳を持たない。
「ちょっと付き合えよ」
ガシっと肩を掴まれ、万力のような力で固定される。
(違うって言ったのに!)
「まあ、用件は想像つくだろ?」
「ソウデスネ」
(こんな強引な勧誘で、成功したことがあるのか知りたい!)
「でも、どうして町の外へ向かってるんです?」
「実力を見せろ」
男はそう言って、俺をレベックの外へと連行していく。




