第38話 レジェンダリー
「ラストヒットボーナス?」
俺はテーブルに置かれた装飾の施された小箱を開ける。
中には、骨を削り出して作ったような、白く滑らかな剣が収められていた。
ただの骨ではない。
刀身の奥底で、灰色の光が脈打つように明滅している。
〈灰の古剣/攻撃力:+30/〈マナコンバージョン〉/耐久:40/40〉
「これは!?」
「スパルトイからドロップした物だ。マナを消費して武器を強化するスキル〈マナコンバージョン〉が付与されている」
ギドンが説明する。
「君にとっては初めての『レジェンダリー武器』かな? おめでとうございます」
アリソンが軽い調子で言う。
「レジェンダリー?」
「スキルが付与されている武器の総称ですよ。非常に希少で高価です」
「本来は魔法使い向けの武器ではないんだが、タケルなら使えるかもしれんと、アリソンが言うんでな」
「もらって……いいんですか?」
「タケルが勝ち取った権利だ」
「ありがたく……頂きます」
(うおーマジか!)
スキル付きの武器。
超レアアイテムじゃないのか?
俺は古剣を握りしめた。
(鉄の剣よりも軽い!)
「そういえばギドンさん、あの時スキル名を叫んでましたが、あれは癖みたいなモノなんですか?」
アリソンが少し茶化すように言う。
「ふん。典型的な現場を知らん非戦闘職らしい意見だ」
ギドンは足を組み直して鼻を鳴らす。
「ああいった混戦の場面では、互いのスキルを把握し合ってるわけではないからな。これからどのスキルを使うのか、発声するだけで即席の連携が生まれるのだ」
「なるほど、それは理にかなっていますね。勉強になります」
(ああいった場面……か)
経験がないと絶対に出てこない言葉だ。
たしかにそうだ。
経験の浅い俺でも、名前を聞けばイメージできるスキルはある。
この人は何度も死線を潜り抜けて、実力で今の地位を掴んだんだろうな。
「タケル、これからが大変だぞ?」
「う……そう思いますか」
「君の実力は知れ渡った。多くのクランが君を欲しがるだろう」
「あなたがどのクランを選ぶのか、楽しみにしていますよ」
(クランか……)
コンコン、とノックの音がして、すぐに扉が開いた。
旅装束に着替えたユラが入ってくる。
深緑の生地に、金色の刺繍。
体にフィットしたデザインが、彼女のしなやかな肢体を引き立てている。
俺は素直な感想を零す。
「……なんか、綺麗だ」
「ちょ、ちょっと! ジロジロ見ないでよ」
ユラが顔を赤くして慌てる。
「ふむ。よく似合っているな」
ギドンも満足げに頷いた。
「2人は今回の事件の功労者だ。もう一つくらい何か要求してもいいぞ」
「そう言われても……。ユラは何かある?」
ユラは首を振る。
「私は、これで十分よ」
(要求……? そうだ!)
俺はギドンに近づき、こっそりと耳打ちする。
「……が欲しいんですけど、手配できますか?」
「ほう? そんなものでいいのか?」
ギドンが意外そうに眉を上げる。
「できますか?」
「ここは貿易都市だぞ。手に入らないものはない。届いたら連絡しよう」
「ありがとうございます!」
◇ ◇ ◇
「では、これで」
ギドンの〈石の鎖〉を解かれたアリソンの足取りは軽い。
応接室を出て、廊下を少し歩いたところで彼は立ち止まる。
周囲に誰もいないのを確認してから、俺たちの方を振り返った。
「……『トリプル』。あなたは少なくとも、3つの属性を持っていますね」
心臓が跳ねた。
(〈フィジカル・ブースト〉を使ったの……気付かれてたのか)
俺の使ったスキルから、水魔法ボードと火魔法ボード。
そして、戦士ボードがあることをアリソンは確信しているようだ。
「えっと……」
「協会には伝えません。あなたは僕の命を救ってくれた」
アリソンは真剣な眼差しで続ける。
「しかし、僕が口を噤んでも、いずれは協会も気づくでしょう。あなたのその力は、隠し通せるものではない」
「アリソンさんは……助けてくれる?」
「残念ながら、僕にそこまでの力はありません。しかし、協力者は必要だと思います。全てを話せる、ユラさんのようなね」
(全てを話せる人か)
「分かりました。ちゃんと考えてみます」
なんか最初の印象とだいぶ変わったよな。
この人、食えないけど悪い人じゃなさそうだ。
◇ ◇ ◇
新しい装備を手に入れた俺たち。
試したい気持ちと、休みたい気持ちが半々だ。
この後は、スパルトイと戦った魔法使いから誘いを受けている。
(たしか、スチュワートさん……だったかな)
「俺はこれから昨日の人に誘われてるから行ってくるよ」
「クランの勧誘を受けてたね」
「正直、まだクランってモノにピンと来てないんだけどね」
「そうね。タケルはどこか抜けてるから、話を聞くだけでも聞いた方がいいのかも」
「……たしかに」
クラン。
また未知なる世界に足を踏み入れることになりそうで、俺はワクワクしていた。




