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盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~  作者: 上山マヤ
第2章 レベック編

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第36話 紅蓮の特異点・後編

 現場に戻った瞬間。

 熱と粉塵が肺を焼いた。


 そこは地獄と化していた。


 ギドンの石壁は内側から砕かれ、瓦礫の山になっている。

 土煙を割って飛び出してきたスパルトイが、暴虐の限りを尽くしていた。


 ダイヤモンドライフの弓使いが即座に矢を放つ。

 命中するもダメージになっていなかった。


 スパルトイは両腕を広げ、怨霊めいた闇の魔法を放つ。


「ぐぅッ!」


 重戦士デンマンが、防御スキルで耐える。

 分厚い魔法障壁が黒い奔流ほんりゅうに削られていく。


 同時に魔法使いが魔道具を起動させる。

 強烈な光魔法がスパルトイに向った。


 しかし、スパルトイは歩みを止めない。

 自らの胸へ腕を突っ込み、さらに巨大な骨の剣を引き抜いた。


(ここに立ってるだけで息が……苦しい)


 ゆらりと動いたかと思ったその刹那――

 スパルトイは一気に距離を詰め、魔法使いに向かって剣を振った。


 剣が振り下ろされる寸前。

 デンマンが高速で割り込み、盾で受け止める。


 ガギィンッ!!


 骨と鉄がぶつかる重い衝撃音が響き、火花が散った。


「ぐあああっ!」


 デンマンが苦痛に顔を歪め、膝をつく。

 盾がへしゃげている。


(一撃が重すぎる……!)


 スパルトイは背中からも闇の魔法を噴き出し、追撃を加えようとする。

 魔法使いはマナを溜めていて動けない。


(……このままじゃ全滅する)


 俺は震える足を叩いた。


(俺が時間を稼ぐしかない!)


 俺が前へ出ようとした時。


 スパルトイから放たれた威圧感は、ただのモンスターのそれではなかった。


 ──これは、死の匂いそのものだ。


(死ぬ……? ここで死ぬのか……俺は……)


 その瞬間。

 白い病室の天井が脳裏に浮かんだ。


 動けない体。

 終わりのない時間。

 どうやったら死ねるのかを、考えたことすらあった。


(……そうだ、俺は……死ぬのが)


「怖いわけ、じゃ! ないだろ!!」


 俺は叫び、一歩前へ踏み出す。


「後ろへ飛べ! 盾の人!」


 返事を待たず、俺は杖を突き出す。


〈インパクト・フレア〉


 スパルトイに火球が直撃する。

 小規模な爆発が連鎖する。

 煙に紛れて〈ファイヤー・アロー〉を連射し、牽制する。


 その隙にデンマンが後退した。

 自ら〈ヒール〉を使う光が見えた。


(自己回復持ちか……さすがだ)


 しかし、次の瞬間。

 全身を揺さぶる衝撃波が襲う。


 重い空気の圧に、俺は地面を転がり息を呑む。


「いってえ……!」


(……ただの咆哮だけでこれかよ)


 スパルトイが俺に狙いを定めた。

 空洞の眼から、赤い光が漏れている。

 剣を振りかぶって突進してくる。


(速いッ!)


 デンマンが再び飛び込み、小手で剣を受け止める。

 刃は鎧をかすめ、その腕から鮮血が散った。


「なんで……戻ってきやがった!」


 言いながらデンマンは高速で盾を叩きつけた!

 鈍い音と共に、巨体が後ろに吹き飛ばされてよろめく。


 そして、スパルトイの動きが一瞬止まった。


「今だ!」


 デンマンが叫ぶ。


 魔法使いが光魔法を発動する。

 十字の光が走り、直後に天から閃光が降り注いだ。


(……すごい威力だ)


 光が収まる。

 しかし――。


「まだ、生きてる!」


 半身を砕かれながらも、スパルトイは再生を始めていた。

 ルードの笑い声がどこかから聞こえる気がした。


(再生するなら、消し飛ばすしかない!)


 俺は前に出る。


 杖に全てのマナを注ぎ込むイメージ。


 熱が杖の先を焦がす。


「消えろッー!」


〈フレイム・ランス〉


 俺の杖から放たれたのは、槍というにはあまりに巨大な紅蓮の奔流だった。

 一直線に走った炎がスパルトイを飲み込んだ。

 その向こうの瓦礫ごと貫いた。


 ゴォオオオオッ!!


 凄まじい熱風が吹き荒れた。

 夜の街を、一瞬で真昼のように照らし出す。

 断末魔を上げる間もなく、スパルトイの骨は炭化した。

 そして、塵となって崩れ落ちた。


「はぁ……はぁ……ッ」


 マナを使い果たし、俺はその場に膝をつく。

 指が震える。


「……おい、嘘だろ」


 デンマンが呆然と呟く。

 魔法使いも、口を開けたまま固まっていた。


「応援組が間に合った……のか?」

「さっきの熱風は何だったんだ!?」


 周囲の声が聞こえる。

 振り返ると、そこにはチャールズたちが、信じられないものを見る目で俺を見つめていた。


「タケル……!」


 駆け寄ってきたユラの目には、涙が浮かんでいた。


「無事なの!?」

「大丈夫。ちょっと……疲れただけ」


 俺は力なく笑った。

 スパルトイがいた場所には、ただ黒い焦げ跡だけが残されていた。


(あれを……本当に倒せたのか)


 体中がまだ熱く、肺は焼けるように痛い。


「スパルトイが出たのか」

「街中にレイドモンスター?」

「ドロップはあった?」


 駆けつけた冒険者たちが口々に叫ぶ。

 現場は一気に喧騒に包まれた。


 剣を背負ったままの者。

 息を切らせたままの者。

 好奇心に目を輝かせて覗き込む者。


 俺はその視線の一部が自分に向けられてるようにも思えた。


「チャールズ、今のうちに帰ろうか」


 人垣に埋もれる前に、小声で切り出した。

 チャールズたちは頷き、背を向けかけたその瞬間――。


「君、ちょっと話せるかな?」


 低く落ち着いた声が、俺の肩を捕まえる。

 振り向くと、黒いローブの男。

 スッと前に出てきたのは、さっき光魔法を使った魔法使いだった。


「俺はスチュワート。クラン、ダイヤモンドライフ所属だ。君をスカウトしたいと思っている」

「……スカウト?」

「今日は疲れてるだろうから、近いうちに話そう、名前は?」

「タケル……です」

「おいおい、抜け駆けは無しだぜ! うちの方が絶対にいいよ!」


 後ろから別の冒険者が割り込む。

 笑顔だが、目の奥には競り合う商人のような鋭さがあるように俺は感じた。


「すみません、今日はこれで!」


 軽く頭を下げ、チャールズたちを促してその場を離れる。

 背後でまだ何人かが声をかけてくるのを、早足で振り切った。


 ◇ ◇ ◇


「……どうするんだ? タケル?」


 帰り道、チャールズが歩幅を落として尋ねてくる。

 彼の眉はわずかに寄っていた。

 好奇心、というよりも心配が勝っている顔だった。


「まあ、悪い話じゃないよね。きっと好待遇だと思う」


 ヒラリーは腕を組み、考えるように空を見上げながら言う。


「正直、タケルの強さは僕らじゃ手に余る。というか、僕たちだと足を引っ張ることになるんだ」


 デイヴの口調はいつも通りだが、その言葉は妙に重く響いた。


「そ、そんなこと……」


 否定しかけて、言葉が途切れる。


「色々と話を聞いてみるといい。俺たちもアカデミーを出たら、どこかのクランには世話になるわけだしな」


 チャールズが現実的な調子で言い、視線を前に戻す。


(……そういうものなのか)


「うん、自分でも……考えてみるよ」


 ユラはずっと黙っていた。

 レベックでの日常が、終わろうとしていた。

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