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盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~  作者: 上山マヤ
第2章 レベック編

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第35話 紅蓮の特異点・前編

 俺は静かに剣を抜いた。


「待て! 奴の左手を見ろ」


 ダイヤモンドライフの重戦士が鋭く叫ぶ。

 ルードの左手には、どす黒い闇の塊が揺らめいていた。


(なんだ、あれは?)


「闇魔法だ。うかつに手を出すなよ。未解明のものが多い」


 隣の魔法使いが説明する。


(闇魔法?)


 俺のスキルツリーには表示されなかった属性だ。

 やっぱり、俺が知らない力がこの世界にまだまだある。


「場所を変えないか? お前も広い方が戦いやすいだろう?」


 重戦士が交渉を持ちかけるが、ルードは薄く笑っただけだった。


「悪いが、もう座標をここに打ってあるのでね。その提案には乗れんよ」

「座標だと?」


 ダイヤモンドライフの魔法使いが、テーブルを蹴り飛ばした。

 しかし、魔法陣の描かれた羊皮紙と魔石は、見えない力で固定されたようにその場に留まっていた。


「これは!?」

「デンマン! その魔法陣を直接破壊しろ!」


 魔法使いの叫びに呼応し、重戦士デンマンが戦斧バトルアックスを振り下ろす。

 豪快な一撃。

 しかし――。


「もう遅い。どうかこの困難を乗り越えてくれ。私が見たいのはその先だ」


 ルードの左手から黒い渦のようなモノが膨れ上がった。

 その渦が触れた瞬間。

 デンマンの巨体が木の葉のように回転しながら弾き飛ばされた。


「うわああ!」


 後ろにいたギドンたちが巻き込まれ、体勢を崩す。

 その隙に、テーブルの上の魔石が魔法陣へと吸い込まれていく。


「ミヤビ! ツナ!」


 ユラは喉が焼けるような声を上げる。

 彼女は必死にその手を伸ばした。

 その指先が届くより早く、魔石は黒い光の中に溶けて消えた。


「ダメだ! ユラ!」


 俺はユラを抱きかかえ、光の奔流から遠ざける。

 激しい稲光のような閃光が溢れる。


 空間が歪む。

 ミシミシと音を立てて、建物が倒壊し始めた。


「一旦下がれ!」


 ギドンの檄が飛ぶ。


「ひぃあああああ」


 アリソンが情けない悲鳴を上げる。

 崩れ落ちる天井。

 しかし、それは俺たちの頭上には落ちてこなかった。


「〈アース・シェル〉!」


 ギドンが地面に手を叩きつけた。

 岩盤が隆起し、宿屋の従業員や避難が遅れた客たちを守るようにドーム状の壁を作り出した。


(これ、ギドンのスキルか!? すごい……!)


 ◇ ◇ ◇


 崩壊した宿屋から何とか脱出する。

 ギドンの作り出した壁からは、禍々しいマナが渦を巻いて漏れ出していた。


 そして、黒い霧の中から、巨大な骨の戦士が姿を現す。


 四本の腕。

 異形の骸骨。


「す、……上位骸戦士スパルトイ!?」


 アリソンの声が恐怖に引きつる。


「モンスターが召喚された! 直ちにここから避難しろ!!」


 ギドンの大声が街中に響き渡る。

 デンマンが起き上がり、戦斧を叩きつける。


 スパルトイは四本の腕のうち二本だけで軽々とガードした。


「くそっ、硬い!」

「よし! 時間を稼いでくれ。私が結界を張る!」


 ギドンが叫ぶ。

 この喧噪の中、魔法使いは冷静に魔導具を設置し始めていた。


「一般人は下がれ! 巻き込まれるぞ!」


 ギドンは大きく広げた手を地面に置き、再びマナを練る。

 スパルトイを中心に、分厚い石壁がおわん型に包み込んでいく。


(物理的な結界!?)


 街への被害を最小限に抑えるつもりだ。

 ユラを遠ざけないと。


「ユラ! 下がるぞ」 

「僕も連れて行ってくれ! 戦えないんだ……」


 腰を抜かしたアリソンが俺の腕を掴む。


(くそっ!)


「来い!」


〈フィジカル・ブースト〉


 肉体を強化して走る。

 俺はユラとアリソンを抱え、全速力でその場を離脱した。

 振り向きざまに〈鑑定〉を発動させた。


《スパルトイ/闇属性/レベル:15/レイド》


(15レベル!?)


 俺の倍以上のレベルだ。

 それにレイドって何だ?

 初めて見る表記だ。


 安全圏まで走り、2人を下ろす。

 息が切れる。

 肺が痛い。


「たす、助かった……」


 アリソンがへたり込む。


「ユラ、ここに居て!」

「ダメよ、タケル! 戻る気!?」


 ユラが俺の袖を掴む。

 その時。


「タケル?」


 聞き覚えのある声に振り返ると――。

 

「チャールズ!?」


 デイヴとヒラリーも一緒だ。


 騒ぎを聞きつけて駆けつけて来たのか。


「タケル!? おい! 何が起こってるんだ?」

「あのマナの渦、ただ事じゃないよ」

「モンスターが召喚された。15レベル、スパルトイって名前の」

「はあ!? じゅ、15!?」


 デイヴが裏返った声で反応する。


「みんな、この子、ユラを頼む!」

「おい、何する気だ」


 俺が踵を返そうとすると、ヒラリーとデイヴが慌てて俺の腕を掴んだ。


「ダメだよ……死んじゃうよ……」


 2人の表情は不安に染まっている。

 チャールズでさえ、事態の大きさに困惑していた。


 ユラは消耗して立てそうにない。

 小さな声で絞り出すように俺の名前を呼んだ。


「タケル……」

「大丈夫、待ってて。……俺、死ぬより辛いことを知ってるから」


 レベル差は圧倒的だ。

 足手まといなのも分かってる。


(それでも!)


 俺は仲間たちの手を振りほどき、駆け出した。


(ユラの仲間の魔石を使って、人殺しなんて――あんなやり方、許せるかよ!)


 街全体が、氷の刃のような冷気に包まれていた。


 それでも俺は、喉が裂けそうなほど息を切らしながら走った。

 もう、後ろを振り返る余裕はなかった。

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