第33話 それぞれの役目
ギドンがクエストを発注してから数日が過ぎた。
まだ大きな成果は上がっていないようだ。
今回のクエストへ向かう途中。
俺は気になっていたことを聞いてみた。
「冒険者の祠ってさ……みんな行ったの?」
声をかけつつも、俺は全員の反応をうかがうように視線を巡らせる。
(それなりに近づかないと、マップに表示されないんだよな)
カホンからレベックまでの道中でも、マップにそれらしい反応はなかった。
「ああ、カウベルとカホンの祠は小等部の時にツアーで行ったな。親同伴だったけど」
チャールズは当然のように答える。
ヒラリーもデイヴも頷いた。
(ツアーなんてあるのか。でも、みんな祠には行ってるんだな)
「でも、アステリアだと一般的に行ける祠って、その二つくらいじゃないか?」
「冒険者の祠は基本的に秘匿されてるよ。強力な魔物が住み着いてるとか、大手クランが独占してるとかね」
デイヴが淡々と答える。
「マナ結晶と同じで……祠の場所も利権が絡むからね」
ヒラリーがわずかに寂しげに付け加えた。
(考えもしてなかった!)
SP取得に利権が絡むのかよ。
たしかに……SPが増えれば強くなれる。
誰もが欲しがる資源だ。
(これは……思ったより簡単じゃなさそうだな)
そういえば、ユラは祠に行ったんだっけ?
もし、まだなら今度カホンやカウベルに連れて行こう。
SPを貯めるのがネコ族の風習みたいなこと言ってたし。
◇ ◇ ◇
洞窟の入口から一歩踏み入れると、冷たい空気が肌を刺す。
湿った石壁から滴る水音が、かすかな反響を伴って耳に届いた。
進んだ先で、別のパーティとすれ違う。
重戦士、魔法使い、弓使い。
3人とも装備も動きも、俺たちよりずっと場慣れした雰囲気を漂わせている。
「なるほど、そっちは採取か。モンスターもいるから気を付けろよ」
大盾を肩に担いだ重戦士が、不敵に笑ってそう言った。
(あっちのパーティはタンクがいるのか。チャールズのパーティにも欲しいよな)
チャールズが笑顔で応じる。
重戦士パーティは、慣れた様子で洞窟の奥へと進んでいった。
ふわりと漂う光の玉が、彼らの行く先を明るく照らしている。
(あの飛び回ってる光はスキルか? こういう場所じゃ便利そうだな)
「……広いね」
ヒラリーがぽつりと呟く。
(確かに天井は低めだけど、横には広い。視界が悪いのは厄介だな)
「さっきのパーティのさ、あの光のやつって何かのスキル?」
気になって尋ねてみる。
俺のスキルツリーには該当するものがなかったからだ。
「あれは光属性のスキルだよ。初級魔法の〈ライト・ボール〉」
「でもそれって……」
(たしか攻撃スキルだったはずだ。光の弾をぶつけるやつ)
「スキルの『開花』って呼ばれてる。元の力とは異なる力を発揮するスキルがあるんだ」
デイヴたちは自然と教えてくれるようになっていた。
「スキルの威力が上がったりするのもあるし、全く別の効果になるのもあるよな」
チャールズも続ける。
(そんなことが……)
俺のスキルもいつか開花するのかな。
熟練度なのか、それとも別の条件があるのか。
「ランタンがあるから別に困んないけどね」
ヒラリーは気楽に言いながらランタンを掲げた。
「おっ! あっち……に、なにか見えたような……」
(そうだ! 〈採取〉のこと言ってなかったんだ)
シナジーボーナス『調査者の才覚』のおかげで、採取可能なポイントが俺のマップ上には表示されている。
俺のレベルで多くのスキルを持っていることがバレると怪しまれる。
けど、パーティ組んでるのに言えないのは気が引ける……。
ユラみたいに話すべきなのかな。
「敵じゃなさそうだな。行ってみよう」
チャールズの判断でパーティは進む。
◇ ◇ ◇
今回の採取クエストは「ケイブライト」という洞窟で自生している植物を採取することだ。
「2~3株残しておいて、他は根元から抜き取る」
「へえ、知ってるんだ?」
「こういうのもアカデミーで習うよ」
ケイブライトは発光するアイテムに加工することができるようだ。
部屋の飾りつけから、救難や運搬屋を呼ぶための信号弾など、その用途は多岐にわたる。
信号弾はエナックがあれば必要ないけど、持ってない人も多い。
今のレベックでは需要が高まると見て、ギドンがギルドを通して発注をかけてきた。
俺は〈探知〉でモンスターの反応を見つける。
「めんどくさいのが出てきたな……。ギフトバットだ!」
チャールズは立ち上がって言う。
(やっぱチャールズも〈探知〉持ちか。ギフト……バット?)
〈鑑定〉を使うと、表示が浮かび上がる。
〈ギフトバット/毒属性/レベル:3〉
(レベル3なら大丈夫そうだけど)
「タケル! こいつらは毒あるから。気を付けて!」
ヒラリーは弓を準備しながら教えてくれる。
「毒!?」
「毒消しは使えるけど、マナ消費が重めだから、あんまり使えないよ」
デイヴは後ろからぶっきらぼうに言う。
〈キュア・ポイズン〉
効果:対象の毒を取り除く。
(それで「毒」バット? 悪趣味な名前だな)
「近づけさせなきゃいいんだろ?」
俺はそう言って〈ファイヤー・アロー〉を放つ。
杖の先から火の矢が洞窟を走る。
辺りを照らしながらギフトバットに命中する。
しかし、1体飛び出した別の個体が、口を大きく開き――
「うわっ!」
黄色がかった液体を吐き出す。
チャールズが身をひねって回避した。
返す刃で叩き落とした。
(こわっ!)
こいつら、直接毒液を吐いてくるのか。
「俺が方向だけ指示する! タケルが先に撃て! 目視できたらヒラリーが仕留めろ!」
「了解!」「まかせて!」
チャールズの声が鋭く響き、戦闘はすぐに片がついた。
(ちゃんとスキルや特性のことを話し合ったら、もっといいパーティになるんだろうな……)
奥に進むにつれ、冷気が肌を刺し吐息が白く煙る。
水滴の落ちる音が耳に残る中、チャールズが前方を指さした。
「また2体!」
チャールズの声ですぐに戦闘態勢に入る。
今度は危なげなく処理する。
「誰も毒にかからなかったか。優秀だな」
デイヴが淡々と口にする。
どこか物足りなさそうだ。
「チャールズはあるの? 毒にかかったこと」
「俺というより、全員あるよ」
「そうなの? 意外だな」
後ろの2人を見て俺は言う。
(チャールズは前衛だから分かるけど……)
「アカデミーでね。状態異常のレッスンがあるのよ」
ヒラリーが苦々しく言う。
「いきなり毒や盲目なんて食らったら、パニックになる人もいるからね。安全な毒を使って、対処法を体に覚えさせるんだ」
デイヴはしみじみと言う。
「なんか……実践的なんだなアカデミーって」
◇ ◇ ◇
夕方。
ギルドで報酬を受け取ると、チャールズたちとは別れ、俺とユラは再び応接室に呼び出された。
「呼び出してすまない」
「いえ、それよりも何かあったんですか?」
(……嫌な予感がする)
今度は、聞くだけじゃ済まない気がした。
ギドンは深刻な顔で、一枚の地図を広げた。
「実は、ユラ君の力を貸して欲しい」
(ユラの?)
俺はユラよりも先に問いかけた。
「どういうことです?」
「犯人が持つ魔石。それを探知するスキルがある」
ギドンの言葉に続き、部屋の隅に控えていた男が一歩前へ出た。
感情の読めない瞳をした男だ。
灰色のローブにはフクロウの徽章が着けられていた。
「初めまして、魔法教会のアリソンと申します」




