第32話 世界を支える石
第32話 世界を支える石
残しておいたSPで〈杖マスタリー〉を取得する。
(剣の時とは、また違った感じがする)
杖を握ると、何年も前から使っていたような馴染み深さがあった。
指先の延長にマナの通り道が出来たような、不思議な感覚。
経験そのモノが流れてくるようだった。
(これで残りのSPは1か)
何かのときのために1くらいは残しておいた方がいいよな。
レベックには祠がないのか?
調査クエストみたいなのはなかったし、チャールズたちにも聞いてみようかな。
俺はもっと強くならないといけない。
レベックで何か起こるのなら、今度こそ。
ユラはサライの見舞いと、他の被害者家族への報告へ行くといって、俺よりも先に出て行ってしまった。
彼女を休ませてあげたい気持ちもあるけど……。
(今は言っても聞かなそうだな)
◇ ◇ ◇
昼過ぎ。
俺は再び、チャールズのパーティに参加する。
目的地は、レベック北側の山道を越えた先にある坑道。
昨日の「レベックに何か仕掛けがある」というサライの言葉を、俺たちはギルドマスターのギドンに伝えた。
それを聞いたギドンは、レベック周辺の探索を冒険者ギルドのクエストとして発注したようだ。
その一つが、この入り組んだ坑道のマップを作成する、という探索クエストだ。
"ダンジョン"と呼べるほど広くはなく、駆け出しのパーティにはちょうどいいと判断して引き受けた。
遭遇戦。
探索クエストや採取クエストには付き物で、銅級からはモンスターと遭遇する確率が上がるようだった。
〈スケルトンファイター/闇属性/レベル4〉
骨と骨がぶつかり合う乾いた音が、暗がりの中で何度も弾けた。
スケルトンファイターは骨の剣を振りかざしていた。
こちらへじりじりと迫ってくる。
闇の奥からは、まだ別の影がゆらりと揺れ、次々と這い出してきた。
「くっ、数が減らない!」
チャールズが剣で骨の腕を叩き落としながら呻く。
背後ではデイヴが、柔らかな青い光を放った。
〈ブレイブ〉
効果:対象の攻撃力が増加する。
力が漲ったチャールズの剣筋が、一段と重く鋭くなる。
「足止めは私が!」
ヒラリーの弓から放たれた矢が光を帯び、スケルトンの膝や肘を正確に射抜く。
鈍った動きの骨たちが一瞬だけ間を作った。
(数が多い!)
正面から削っていてもキリがない……。
でもこの距離で〈インパクト・フレア〉を使うと、狭い通路では仲間ごと巻き込んでしまう。
俺は〈ファイヤー・アロー〉を連発して牽制する。
骨の兜を打ち抜き、火花が散る。
スケルトンたちは魔法の光を目で追うようなそぶりを見せた。
(光に反応した?)
骨の群れがガシャガシャと音を立てながら、光の方へにじり寄ってくる。
(こいつら、見えてるんだよな? なら……!)
俺は通路の奥、敵の密集地帯のさらに奥へ向けて、あえて狙いを外した〈ファイヤー・アロー〉を放った。
壁に当たって弾ける炎。
数体のスケルトンがそちらへ顔を向けた。
「チャールズ、右に回り込んで道を塞げ! 一箇所に固める!」
「……了解!」
少し間をおいて、チャールズは俺の意図に気付いたように返事をする。
彼は通路の出口を半歩ずつ詰める。
スケルトンの動きを一方向に押し込んでいく。
「ヒラリー、左から矢を撃ち続けろ! 逃げ道を作るな! 中央に集めるんだ!」
俺の意図を完全に察して、チャールズが的確な指示を飛ばす。
「わかった!」
矢が雨のように降り、左右からの突破を阻む。
骨の群れがカチャカチャと音を立て、逃げ場を失って中央に密集していく。
狭い場所に骨と武器が押し寄せ、動きが鈍る。
(……いい位置だ)
深く息を吸い、杖を突き出す。
〈杖マスタリー〉のおかげか、マナの収束が今までより速く、濃密だ。
〈インパクト・フレア〉
火球が放たれると轟音と共に爆光が通路を飲み込む。
骨の集団が一斉に宙を舞った。
1体が爆発すると連鎖するように爆破が続く。
衝撃波が頬を叩く。
焼けた匂いが鼻を突いた。
光が収まると、そこには黒く焦げた骨片だけが転がっていた。
「……ふぅ、上手くいったな」
俺は額の汗を拭いながら息をつく。
仲間たちも肩で息をしつつ、互いに安堵の笑みを交わしていた。
「タケル、良い判断だったよ」
チャールズが剣を収めながら労ってくれる。
「あれだけでよく分かったな? あの後は、まだどう言おうか迷ってたのに」
「お前の動きを見れば、何をしたいかくらい分かるさ」
チャールズは白い歯を見せて笑った。
(ホントにすごい)
状況判断ができて、それをすぐに言語化できるのって才能だ。
アカデミーで指揮の勉強もしてるのかな?
「僕も攻撃魔法を覚えたいよ」
デイヴが羨ましそうに愚痴をこぼす。
「地味な役割かもしれないけど、いないと困るのが回復師だからね」
ヒラリーが優しくフォローしていた。
轟音の余韻が遠のくと、通路は一転して静まり返った。
漂う焦げた匂いと、骨の欠片が床に当たるカラカラという乾いた音だけが残る。
俺は息を整えながら、視線をゆっくりと前に向けた。
爆心地には、黒く焼けた骨片の山。
その中で、何かが小さく光った。
「……ん?」
足元に転がるそれは、親指ほどの大きさの結晶だった。
闇色の中に淡い紫の光が揺らめき、角度によっては血のような赤を帯びて見える。
「スケルトンの……魔石か?」
チャールズが剣の切っ先でそっと突き、光の反射を確かめる。
「アンデットの魔石って特殊な魔道具の素材にもなるって聞いたことあるよ」
ヒラリーが拾い上げ、手の平の中で転がした。
(そうか、スケルトンは解体しなくていいのか)
デイヴがほっと笑う。
「これで少しは、装備や補給の足しになるね」
「そんな高く買い取ってくれるの?」
「アンデットの素材は貴重なんだよ」
「へえ」
(こういうのも、この世界の"経験値"ってやつなんだろうな)
肩にかかる緊張を少しだけ下ろし、次の一歩へと視線を向けた。
◇ ◇ ◇
「次々湧いてくるから、マナ結晶でもあるのかと思ったよ」
帰り道、ヒラリーが肩をすくめ、両手を広げながら大げさに言った。
「そんなもの見つけたら、僕たちはとっくに金級だよ」
デイヴが皮肉っぽく笑う。
俺は聞き慣れない単語に眉をひそめた。
「マナ結晶?」
その瞬間、3人は顔を見合わせた。
やれやれといった視線を交わし、チャールズが口を開く。
「この世界を支える石がマナ結晶だ。壊れない、壊されない。しかも、無限の資源を生み続けると言われている」
「そんなもの、本当にあるの?」
俺が疑ったように言うと、デイヴが当然のように答える。
「いくつも見つかってるよ。教科書に載るくらいにはね」
(無限の資源って……)
さらにチャールズが声を弾ませた。
「あと、マナ結晶は勇者ラクレスが設置して、世界を安定させたっていう説もある」
その言葉にデイヴが鼻で笑う。
「そんなわけがない。じゃあマナ結晶の無い、その前の世界はどうなってたんだよ?」
(それは教科書に載ってないのか)
「デイヴは"アンチ"ラクレスの大魔導士ラオス"信者"だから」
ヒラリーが横から茶化す。
「違うって! そんな理由じゃないよ!」
(そんな派閥があるのか)
ヒラリーは胸を張って笑った。
「私は断然ボウマスターのランテ様派。ラクレスの仲間の女弓使い。彼女に憧れて弓を持つ女性が多いんだから」
(さらに派閥が増えたな)
この調子だと、ラクレスの仲間の人数分だけ派閥がありそうだ。
ヒラリーが、ふと思い出したように言った。
「そういえば、町の近くにマナ結晶があることって多いよね?」
「逆だよ」
デイヴがあっさり否定する。
「マナ結晶の恩恵にあずかるために、近くに町を作ったんだ」
(なるほど……)
町はそのマナ結晶ありきで作られるのか。
じゃあ、カホンやカウベルにもあったのかな?
「レベックにもあるの?」
「レベックにはない。この町は各都市を繋ぐ中継地点。昔、ある商人が交易都市として築いて、その功績で商人から初めての貴族が誕生したんだ」
チャールズは歴史を語る口調に熱を帯びている。
「じゃあ、王都にもマナ結晶があるの?」
「……マナ結晶を知らないと、こうなるのか」
デイヴが半ば呆れたように言う。
「王都のマナ結晶ではダンジョンが生成されている。そのモンスターのドロップ品や、ダンジョン内で取れるアイテムのおかげで、この国はここまで繁栄したんだ」
(ダンジョンを生成!?)
「資源ってそういうこと? もっとこう……なんか、物が湧いて出てくるのかと」
「鉱山を生成したり、砂を生み出したり……マナ結晶の恩恵は多岐に渡るんだ。例えば――」
「な~んでアカデミーでもないのに、歴史の授業をやってるのよ」
ヒラリーが呆れたようにため息をついた。
この世界は、俺が思っていた以上に複雑なようだ。




