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盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~  作者: 上山マヤ
第2章 レベック編

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第30話 名無しの英雄

「すみません、助かりました。ありがとうございます」


 俺は頭を下げた。

 水魔法でぐるぐる巻きにされた3人の追手は、地面に転がされて身動きが取れなくなっている。


「礼には及ばないさ。信号を見て駆けつけただけだからね」


 弓使いのエリックは、ニコニコとした糸目のまま言った。

 しかし、ふと彼の動きが止まる。


周囲を見渡していた大剣使いの男が怪訝けげんな顔でやってきた。

 女魔法使いのクリスも、その後ろについていた。


「状況がおかしい」


 大剣の男が低い声で呟く。


「どうした? カート」

「こいつは、仲間がさらわれたと言った」

「言ってたね」


 クリスが相槌を打つ。


「だが、ここに仲間らしい奴はいない」

「……いないね」


 クリスがキョロキョロと見回す。


「ああ、そういうことか」


 エリックがポンと手を叩き、納得したように言った。


「つまり、この野盗どもに仕掛けたのは、彼じゃないのか? ってことだね」

「どういうこと?」


 クリスは首をかしげる。


「説明します」


 俺は一歩前へ出た。


「俺の仲間は、もう逃げました。こいつらが追ってきたので、俺が足止めをして……」


 エリックの目が、糸のように細いまま俺を見据える。


「……なるほど。囮になったわけか」

「ちょっと無茶だったね。1人で3人相手にするのは」


 クリスが呆れたように言った。


「まあ、何人来るかは分からなかったんでしょ」

「仲間のためかもしれないけど。それで自分がやられちゃったら、君の仲間が悲しむんだからね!」

「ホントにその通りです。すみませんでした」


 俺は肩を落とす。

 今まで黙っていたカートが、ドスリと大剣を背負い直した。


「嫌いじゃない」


 ボソッと言ったその言葉に、クリスが吹き出した。


「カートにしては珍しい褒め言葉じゃん!」


 ◇ ◇ ◇


「さてそれじゃ、お仕事の時間だ」


 エリックは転がされている追手たちの方へ向き直った。

 その顔には、先ほどまでの穏やかな笑みが張り付いている。

 それが逆に恐ろしかった。


「大人しく話してくれるなら、手足はなくならないけど?」


 彼は矢尻で、リーダー格の男の腕をツンと突く。


(……エグい脅し方するな)


 リーダーの男は顔面蒼白になり、ガタガタと震え出した。


「お、俺たちはただの使いっ走りだ!」

「だろうね。こんな手際じゃ、本職とは言えない」

「あんたたちに出せる情報なんて、ほとんどない……」

「知っていることだけでいいよ」


 何とも言えない緊張感が漂う。

 クリスは周囲を警戒するように歩き始めた。

 カートは仁王立ちで威圧感を放っている。


「俺たちは……亜人どもを、さらってくるように言われただけだ」

「さらって、どうするつもりだった?」

「魔石を……抜くんだ」


 俺は思わず言葉が漏れそうになる。


(ユラをさらったのもこいつらなのか?)


「君たちが抜くのか?」

「ちげえよ! 俺たちの仕事じゃねえ。依頼主がやるんだ」

「依頼主?」

「……そうだ。見たことない魔法だった。手をかざすだけで、身体の中から石が……」


 男の顔に、明らかな恐怖が滲んでいた。

 雇われている側の人間でさえ、恐れるような光景だったということか。


「詳しく聞きたいな、それ」


 エリックの声が一段低くなる。


「だ、だから知らねえって! 顔もフードで隠してたし、俺たちはただ運ぶだけだ!」

「エリック! 誰か来るよ!」


 クリスの鋭い声。

 遠くから、蹄の音と車輪の音が近づいてくるのが聞こえた。


「解決信号を上げてたのに?」

「この方向は……レベックからか」

「あっ!」


 俺は声を上げた。


(ユラか!?)


「なるほど、君が逃がしたっていう仲間が呼んだのか」


 馬車の音が聞こえる。


「馬車が2台。レベックのマークがついてるよ」

「ギルドが?」

「俺の仲間が、ギルドに助けを求めたのかもしれません」

「いい判断だね」


 ◇ ◇ ◇


 馬車が止まる。

 中から1人の男が降りてきた。

 きっちりと整えられた白髪交じりの髪に、鋭い眼光。

 上質な服を隙なく着こなした、厳格そうな中年男性だった。


 彼の後ろから、数名の武装したギルド職員が降りてくる。


「なぜ『ネームレス』がこんな所に?」


 男は眉間にシワを寄せ、エリックたちを見た。


(この人も彼らを知ってるのか)


 よっぽど有名な冒険者っぽいな。


「やあ、ギドンさん。人助けだよ。それよりも、わざわざレベックのギルドマスターが直々にお出ましとは、大事おおごとなのかな?」


(レベックのギルドマスター!?)


 カホンのギルドマスター、モーリンとはまた違ったタイプの圧を感じる。


「レベック管轄内で、誘拐事件が起きた可能性があるとなれば、私が動くのが当然だろう」


 ギドンは短く答えると、拘束された3人の男たちを一瞥いちべつした。


「こいつらは私たちが連れて行く。異論は?」

「ないよ。僕たちは通りかかっただけだからね」

「そうか」


 後ろの馬車からユラが飛び出してきた。


「タケル!」


 ユラは、俺の胸を一度だけ強く叩いた。

 それから安堵したように息を吐いた。


「ユラ、無事だな?」

「タケルこそ!」

「俺は平気」


 ギドンは俺に目を向ける。


「君がタケルか。……被害者の子の仲間だな?」

「はい。あの子は?」

「無事に保護した。今はギルドで休ませている」


 その言葉を聞いて、俺の体からどっと力が抜けた。


(よかった……)


「怪我はないのだな?」

「はい、大丈夫です」

「なによりだ。しかし、無茶をしたな」

「……すみませんでした」

「だが、よく守り抜いた。その勇気は評価する」


 ギドンは微かに口元を緩め、すぐに真顔に戻った。

 職員たちが手際よく追手の男たちを馬車に乗せていく。


「どうして私たちを逃がしたの!?」


 ユラが追手の男に問い詰める。


「俺たちは何もしらねえ。命令だ」

「命令って……」

「1人だけ逃がせってな」


(本当にわざと逃がしたのか)


「じゃあ、どうして追手を? 何をするつもりだったの?」

「痛めつけるなり、好きにしろって言われた。ただし殺すなともな」

「な、なんのために、そんなことを!?」

「だからしらねえって。ああ、でも何か言ってたか。進化のためとか……どうとか」

「「進化?」」


 俺とエリックの声が重なった。


 進化。

 その単語が、妙に生々しく耳に残った。

 単なる金儲けや人身売買とは違う。

 もっと歪んだ、思想のようなものを感じる。


「詳しく聞こう」


 そう言ったギドンの瞳の奥が、鋭く光ったように見えた。


 ◇ ◇ ◇


 ギルドマスターたちが去る準備をしている横で、俺はネームレスの3人に頭を下げた。


「本当にありがとうございました。あのままだったら死んでました」

「気にしないで。未来ある若者を助けるのも、先輩の務めさ」


 エリックは笑顔で言う。


「君は、いい根性してるよ。魔法使い《ソーサラー》なのに前衛張るなんてさ」


 クリスが俺の背中をバシバシと叩く。

 痛いけど、嫌じゃない。


「……死ぬなよ」


 カートが短く言い残し、3人は風のように去っていった。

 名も名乗らず、報酬も求めず。

 ただ通りすがりの「名無し」として。


(かっこいいな……)


 いつか、俺もあんな風になれるだろうか。


「タケル!!」


 馬車の窓から、ユラが顔を出して叫んでいた。

 俺は大きく手をあげた。


「今行く!」


 事件はまだ終わっていない。


 "進化"という不気味な言葉と、見えない敵。

 けれど、今はただ、仲間と自分が無事だったことを喜びたかった。

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