表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~  作者: 上山マヤ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/11

第3話 冒険者の祠

『……古い伝承を見つけた』


 カウベルの宿屋。

 その硬いベッドに寝転がりながら、俺は手記を読み返していた。

 村へ入る前に拾った、あの遺体の持ち物だ。


『星の彼方より来たりし旅人は』

『ノクスの核を携え、零域の石板へと至れ』

『暁の光と共に世界の殻は破られ、汝は故郷へと還る』

『一つの願いと共に』


(願い……?)


 俺の願い。

 健康な体。

 当たり前の生活。


 もし、この伝承が本当なら、日本へ帰れる?

 俺は帰りたいのか?


(――帰りたい)


 この健康な体のまま、あの優しい両親の元へ。


 俺は続きを読む。

 しかし、そこから先は絶望で塗りつぶされていた。


『このお伽噺とぎばなしが本当なら、息子の病だって治せるはずだ』

『だが、道は険しすぎる』

『ノクスの核も、病を治すという器も』

『俺の力では、どうにもならないことが多すぎる』


 手記はそこで途切れ、赤黒いシミで汚れていた。

 あの人は、俺と同じようにここに来て、そして亡くなった。

 息子のために、伝承を信じて。


(正直、胡散臭いのは確かだ)


 でも、完全な作り話にしては、妙に具体的だ。

 アイテム名も、場所まで指定されている。


(賭ける価値はあるかもしれない)


 ◇ ◇ ◇


 翌朝、俺は村で聞き込みを行った。

 けれど、結果は芳しくなかった。


 「ノクスの核」について知る者は皆無。

 「病を治す器」については、「そんな夢みたいな話」と鼻で笑われた。


 この世界には魔法がある。

 スキルツリーを見れば、状態異常の回復やヒールもある。

 しかし、"病気"は別枠らしい。

 魔法と病理の間に、残酷なラインが引かれているようだった。


『俺の力では、どうにもならないことが多すぎる』


 手記の言葉が脳裏をよぎる。

 結局、弱ければ情報にも辿り着けないし、生き残ることもできない。


「まずは冒険者のほこらに行ってみますか」


 俺は雑貨屋でバックパックと布製の簡素な服、そして水筒代わりの水袋を購入した。

 革の鎧なども売ってはいたけど、生活用品の比にならないくらい高額で、今の所持金では手が出なかった。


(まずは、自分の体とスキルを試さないとな)


 ◇ ◇ ◇


 村を出て、森へと入る。

 着替えた時に気付いたけど、昨日ウサギに噛まれた傷は既に塞がっていた。


(どう動かしても痛みもなくなってる)


 これが健康な身体の回復力なのか?

 それとも、宿屋で寝たらHPが全回復するとか?


 後者だとしても不思議じゃないのが、この世界の恐ろしいところだ。


 森には独特の匂いがあった。

 湿った土と、濃密な緑の香り。

 肺に入れるだけで力が湧いてくるみたいだ。


 なんて浸っていると、目の前の茂みがガサリと揺れた。


(昨日のウサギか?)


 いや、シルエットが違う。

 低い姿勢。

 長い尾。

 体色が木の皮に似ている、巨大なトカゲだ。


 こちらに気付いたのか、トカゲがのそりと動き出す。

 ――次の瞬間、弾丸のような速度で突っ込んできた。


(速いッ!)


 トカゲは直前で急停止し、遠心力を乗せて太い尻尾を振り回した!


「っぶな!」


 俺は咄嗟に剣の鞘でガードする。

 バヂィンッ、という乾いた音とともに、強烈な衝撃が骨まで響いた。


「いったぁ……!」


 腕に鈍い痛みがジワジワと広がる。

 防御していなかったら、痛いじゃ済まなかったかもしれない。


(やば……離れたほうがいいか)


 俺がバックステップで距離を取ると、モンスターが再び突進の構えを見せる。

 次は避けられないかもしれない。


(――ここか!)


 俺は意識を集中し、取得していたスキルを発動した。


〈フィジカル・ブースト〉

 効果:一時的に身体能力を強化する。


「……ははっ」


 笑いが漏れた。

 心臓が早鐘を打つと同時に、全身の血管に熱い力が駆け巡る。

 視界がクリアになり、風の音さえ鮮明に聞こえる。


(これ、すごい!)


 トカゲが飛びかかってくる。

 さっきまでは弾丸に見えた動きが、今は"目で追える速度"だ。


 俺は半歩横にズレて回避し、すれ違いざまに剣を振るった。

 ガツッ!

 錆びついた剣のせいか、切るというより鉄パイプで叩いたような感触。


 しかし、威力は十分だった。

 トカゲが怯んで動きを止める。

 俺はすぐさま踏み込み、今度は体重を乗せて首元へ切っ先を突き刺した。


 グギャッ、と短い断末魔を残し、トカゲは動かなくなった。


「ん~、全然切れない。これ、ちゃんと武器買った方が良いかもな」


 俺は剣を見てため息をつく。

 〈フィジカル・ブースト〉のおかげで勝てたけど、素人の剣技じゃ限界がある。

 力任せに振っても効率が悪い。


(もう一つスキル取っておくか。武器はちゃんと使えた方が良いだろうし)


 俺はUIを操作する。

 温存していたSP(スキルポイント)を使って〈剣マスタリー〉を取得した。


 その瞬間――。


「うおっ!?」


 脳天を突き抜けるような衝撃が走った。


(……こんなことが、本当に起こるのか)


 頭の中に、知らない記憶が流れ込んでくる。

 足の運び方。

 重心の移動。

 手首の返し。

 剣という道具を扱うための"理屈"が、直感として肉体にインストールされていく。


 全身が、得も言われぬ興奮で震えた。

 

(今すぐ試したい)


 ◇ ◇ ◇


(いた! ウサギだ……)


 しばらく進むと、昨日のモンスターを見つけた。

 俺は自然な動作で、腰の剣に手をかける。


 モンスターは草むらを蹴って、殺気と共に突っ込んでくる。

 昨日なら、恐怖で足がすくんだ光景だ。


 けれど、今の俺には"間合い"が見えた。


「そこ!」


 俺は一歩踏み込み、渾身の力で斬り払う。

 刃筋が空気を切り裂く音がした。


 スパァンッ!

 鮮やかな一閃。

 昨日あれだけ苦戦したウサギが、一撃で倒れる。


「……悪くない」


 手に残る感触がまるで違う。

 これなら、戦える。


 マップを頼りにさらに奥へ進むと、木々の開けた場所にそれはあった。


 電話ボックスほどのサイズの石造りの祠。

 森の中にポツンとあるのに、そこにあるのが当然のような、不思議な威厳を放っている。


(これが「冒険者の祠」か)


 中央の台座には、ギルドで認証に使ったのと似たような水晶板が嵌め込まれていた。


(マナ認証……とか言ってたな)


 俺は恐る恐る、板に手を乗せる。

 淡い光が溢れ、すぐに消えた。


(これだけ?)


 ファンファーレも、女神の声もない。

 これでスキルが手に入ったのか?


(どんなレアスキルが――)


 俺は期待に胸を膨らませ、ウィンドウを開いた。

 しかし、新しいスキル名はどこにもない。

 代わりに表示されていたのは。


 新たに追加されたSPだった。


(……そういうこと!?)


 俺は目を見開いた。

 まるで福袋を開けてみたら現金が入っていた、みたいな予想外の驚きだった。


(いや、まてよ)


 これって、俺にとっては"おいしい"なんてレベルじゃないぞ。

 他の人なら1ポイントだけだけど、俺には特性のお陰で"2倍"のポイントが入る。


「この祠が……世界中に?」


 自分の声が、わずかに震えているのが分かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ