第27話 報告
食事を終えた宿の一室。
昼間の喧騒が嘘みたいに静かだった。
ランプの火が揺れ、木の壁に影を落とす。
俺はベッドに腰掛け、ユラは窓際の椅子に座っていた。
外套を脱がない辺り、まだ緊張が抜けていないらしい。
「……どうだった?」
そう聞くと、ユラは一瞬だけ視線を伏せた。
「確かな話から言う」
そう前置きしてから、淡々と続ける。
「帰ってこない獣人が、何人もいるみたい」
「何人も?」
「数までは分からない。でも、1人や2人じゃないって」
(噂じゃなくて、居なくなった事実があるのか)
「家族も、仲間も、探してる。でも……」
そこでユラは言葉を切った。
「共通点がない」
「共通点?」
「年齢も、仕事も、住んでた場所も違う。夕方に消えた人もいれば、昼間に姿を消した人もいる」
「さらわれたなら、何かしら似た条件がありそうだよな」
俺がそう言うと、ユラは小さく頷いた。
「そう。それが変」
「争った痕も?」
「ないみたい。血の跡も、悲鳴も聞かなかったって」
(静かに消えてる……)
そういうスキルがあるのか?
俺のスキルツリーには載ってないスキルもある。
嫌な想像が頭をよぎる。
「俺の方からも話しておく」
俺は昼間に聞いた話を整理して口にする。
「『ヒューマンズ』って組織がある」
「……知ってる」
即答だった。
「獣人の間じゃ有名。関わると碌なことにならない」
「ユラをさらったのもそいつら?」
「分からない」
ユラは首を振る。
(そんな奴らが居るなら、真っ先に疑いそうだけど)
「ヒューマンズにはシンボルがあるの。私たちをさらった人たちには、それがなかった」
「シンボル?」
「ヒトの骨が奴らのシンボル。旗も刺繍もタトゥーもなかった」
ランプの火が、パチッと鳴った。
「別の組織の可能性もあるのか」
(まいったな。ヒューマンズで確定だと思ってたのに)
「もうちょっと探ってみる」
「明日も、動く?」
「動く」
彼女に迷いはなかった。
恐らくユラは、突き止めるまで諦めないだろう。
この事件を解決することが、彼女を故郷へ返す理由になるのかもしれない。
◇ ◇ ◇
小休止がてらにお茶を入れる。
「ユラのスキルについて、聞いてもいい?」
ユラはまた少し視線を落とした。
「あっ、別に無理は聞かないけど……」
「〈夜目〉と〈軽業〉」
(知らないスキルだ)
「それってどういうスキルなの?」
「〈夜目〉は暗くても見えるスキル。〈軽業〉は狭かったり、足場が悪いところでも動けるスキル」
「なるほど」
(ネコっぽいスキルだな)
そして、俺のスキルツリーにはない。
つまり俺には、全てのスキルボードがあるわけじゃないってことか。
「それってマヌルネコ専用のスキルボードなの?」
「そうよ。といっても、ネコ族のスキルボードにも同じスキルはあるわ」
(ネコ族!)
スキルボードには種族性があるのか。
そして、ネコ族からマヌルネコ、のように枝分かれしている。
俺の特異性は、人間のスキルボードを自由に使えることなのかもしれない。
「種族によってそこまで違うなんて知らなかったな」
「ほんと、タケルって変わってる」
「でも二つだけってことはないでしょ?」
「私のスキルは二つだけよ」
「そうなの!?」
(隠してる感じはない)
言いたくないってわけでもなさそう。
本当にスキル二つだけなのか?
俺が考えているとユラが話し始めた。
「私の集落でSPは……残す風習があるの」
「残す?」
「そう。将来の……ために。たくさん残すことで……喜ばれるからって」
「喜ばれる?」
(喜ばれる? 誰が?)
「とにかく二つだけなの!」
(今は深く聞かない方がいいか)
「まあ、でもその二つがあるなら、いざって時に逃げられるか」
言い終わってから気付いた。
残す風習があるのに取得したスキル。
さらわれた時、そこから逃げるために取得したのか。
「ごめん」
「どうしてタケルが謝るのよ」
「いや、……なんか、言われたんだよな。今日、クエストで会った人たちに『人の装備やスキルにケチつけるのは無しだ』って」
「状況が違うでしょ? タケルは私を心配して聞いたんだから」
「そうだけどさ……」
(俺も隠してる場合じゃないよな)
俺は深呼吸してから口を開いた。
「俺には〈天賦の才〉っていう特性があるんだ。効果は手に入れたSPが2倍になること」
「は?」
「荒野でも見せたけど、上級魔法が使える。他には剣が扱えるスキルと〈ヒール〉……は知ってるか。それから……」
「まって、まって! え? 倍?」
◇ ◇ ◇
俺の取得したスキルや、シナジーボーナスについて説明が終わった。
「別に自慢するために言ったわけじゃないよ」
「分かってるわよ。まだ整理がつかないけど」
「だから――」
「分かってるって言ったでしょ? ちゃんとタケルを頼るわ」
ユラは制止させるように、手を向けながら言った。
「私は持ってないからね、特性」
「そうなんだ」
「3人に1人」
「ん?」
「特性を持って生まれる人は、3人に1人って聞いたことがあるわ」
(持ってない人の方が多いんだな)
「タケルはその中でも、おかしな人ね」
「そう、みたいだな」
「あっちこっちで素材を集めてくるから、変だと思ってた」
「便利なシナジーだろ? 採取ポイントがマップに表示されるんだ」
「それで……。荒野で簡単に見つかるはずがないのに、迷わず見つけてたのね」
ユラが納得したように呟き、ふと動きを止めた。
「どうした?」
「採取ポイントよ……」
彼女の瞳が揺れた。
「さらわれた場所。私たちも採取の途中だった。いきなり数人に囲まれて……、あっという間に馬車に」
「……まさか」
俺の背筋に冷たいものが走る。
採取ポイントは、人目につかない場所にあることが多い。
そして、素材を求めて人が必ず立ち寄る場所だ。
「それが連中の手口!?」
「タケル!」
「分かってる。まずは場所をピックアップしよう」
マップにパーティ共有のマーカーで印を付けていく。
「まだ行ってない場所は表示されないから、明日グルっとレベックの周りを歩いてみよう」
「そうね。レベックから、ある程度離れている採取ポイントを探しましょう」
こうして俺たちは、まだ名前も知らない"何か"に近づいていくことになった。




