第26話 デルミの味
ギルドでのクエスト報酬と4体のデルミイノブの素材は、4人で山分けしても、いい金額になった。
「この店はおすすめだ。値段も手ごろだし量も多い」
案内されたのはデルミ専門店だった。
(……またか)
俺レベックに来てからデルミしか食ってない気がする。
美味しいから良いけどさ。
チャールズが慣れた様子で注文を済ませる。
「そうだ。馬にも美味しいもの食べさせてあげたいんだけど、何か知らない?」
「タケル、馬持ってるの? タケルの生活って謎すぎるよ」
ヒラリーが可笑しそうに笑う。
(個人で馬持ってるのっておかしいのかな? 宿屋では普通に預かってくれたけどな)
「甘い果物が好きって聞くな。帰りに近くの店で聞いてみよう」
チャールズが親切に教えてくれる。
「僕たちはアカデミーしか知らないからね。冒険者としては、タケルの方が普通なのかもしれない」
「そうかな? でも助かるよ」
(デイヴって、俯瞰した考えをするよな)
「そっかー。言われてみれば、旅してるなら馬に乗れないと大変そうだよね」
ヒラリーは納得したように頷く。
「いや、馬には乗れないんだけどね」
俺がさらっと言うと、一瞬の間が空いた。
「えっ……乗れないの?」
「うん。手綱を引いて歩いてるだけ」
「「「なんだよそれ!」」」
3人の声が一斉に重なった後、店内に笑い声が響いた。
◇ ◇ ◇
木製のテーブルに、湯気と香りがふわりと広がった。
「お待たせしました。デルミシチューとデルミのチョーイです」
店員が手際よく皿を置いていく。
丸みのある素焼きの器から、煮込まれたデルミ肉の香ばしい匂いが立ちのぼった。
俺は思わず身を乗り出す。
(うわ、肉の匂いがめちゃくちゃ食欲そそる)
デルミのチョーイ。
薄くスライスした肉を湯通しして皿に盛られていた。
その上から、透明感のある淡い緑色のソースがさらりとかかっている。
添えられた刻み香草が、優しい香りを放っていた。
「見た目からして洒落てるよな」
チャールズが目を細め、フォークを手に取る。
「これ、冷めないうちに食べよ。ソースが温かい肉に絡むと美味しいんだよ」
ヒラリーが小皿に取り分けながら、軽く説明する。
湯気を立てるチョーイからは、爽やかな香草と柑橘を思わせるソースの香りが鼻をくすぐる。
(これがチョーイか。屋台の串焼きとは全然違うな……)
恐る恐る一切れを口に運ぶ。
まず舌に触れたのは温かいソースの柔らかな酸味だった。
次いで、驚くほどしっとりとした肉が、噛むまでもなくほろりととろけていく。
脂の甘みをソースがすっきりと洗い流し、後には肉本来の濃厚な旨味だけが残った。
「うまい……!」
(なんだこれ!)
屋台のデルミ焼きも美味しかったけど、こっちは全く種類の違う美味しさだ。
さすがは都会のアカデミー生。
いい店知ってるな。
「僕はシチューの方が好きなんだよね。チョーイのソースってなんか酸っぱくない?」
デイヴは大きく口を開け、シチューを頬張る。
器の中には根菜やキノコもたっぷりと煮込まれており、スープに甘みと深みを加えている。
「やっぱり専門店だけあるな。デルミ肉の扱いが違う」
チャールズが満足そうに頷き、パンでシチューをすくった。
食卓に響くのは、短い感嘆と食器の触れ合う音。
これまでの不安や緊張が、この温かい団らんの中で少しずつ溶けていくようだった。
◇ ◇ ◇
一通り食べた後に、聞きたかったことを質問してみた。
「レベックって、色んな種族の人たちがいるよね?」
「貿易都市だからね。デルミはここで取れるけど、調味料とか野菜とかは交易品じゃないかな?」
ヒラリーが答える。
俺の意図と違った方向に話が進みそうだったので、単刀直入に聞いてみることにした。
「亜人や獣人についてどう思う?」
一瞬、場が静かになった。
チャールズが口元をナプキンで拭い、ゆっくりと口を開いた。
「人間よりもワンランク下の扱いだ。労働者としてなら使える」
(おいおいおい)
俺が眉をひそめると、彼はニヤリと笑った。
「――なんて言ってるのは、頭の固いジジイたちだけだ!」
(だよね。なんかチャールズのこと分かってきたよ)
安堵して息を吐く俺に、彼は肩をすくめて続ける。
「まあ、実際には居るよ、アカデミーにもな。格下扱いしてる奴らが」
「何年か前に、アカデミーに主席で入学した亜人がいたよね? 卒業制作ですごい魔導具作ったとか」
ヒラリーが思い出すように話す。
「俺たちの学年でも今はエルフがトップだ。はっきり言って、もう1年勉強してもアイツには追いつけない。今年初めて獣人が騎士団入りしたってニュースもあった」
「それ去年じゃなかった?」
「そうだっけか。まあ、とにかく、今の時代に亜人や獣人を格下扱いしてる奴らは、時代遅れの勘違い野郎だってことさ」
「でも、獣人たちを狙う組織もあるって……噂で聞いたけど」
「……『ヒューマンズ』」
大人しく聞いていたデイヴが、ぽつりと単語を落とす。
その声には隠しきれない嫌悪が混じっていた。
「人間だけの世界を創る、とか言っている妄想集団だよ」
「何がヒューマンズだ。悪魔どもが、人間を騙るなよな」
チャールズはやけ酒のように水を煽った。
(ヒューマンズ。そいつらがユラを狙っていた組織なのか?)
◇ ◇ ◇
夕食を終えた俺は、宿に戻ると真っ先に裏庭の小屋へ向かった。
トラベルは俺の気配を感じたのか、静かに立ち上がり、柔らかな瞳を向ける。
「ごめんな、俺ばっかり美味いもん食べて」
そう言って、俺は荷物から熟れた果物を取り出した。
果物の匂いに、トラベルは嬉しそうに鼻を鳴らす。
「甘い果物、持ってきたぞ」
差し出すと、トラベルはゆっくりと時間をかけて、その果物を口にした。
美味しそうに食べるその様子を見守る。
(トラベルが食べてるの見るの好きだな)
食べ終えると、トラベルは肩に優しく鼻をすり寄せてきた。
「カワイイやつめ~」
俺はその大きな肩を撫でながら、温かいぬくもりを心に感じていた。
「いい匂いがする」
後ろから不意に声がした。
ユラだ。
「おかえり、ユラ」
「た、ただいま」
パーティだとマップに表示されるから、急に現れて脅かすとか出来ないな。
「果物の匂い?」
「お肉の匂い」
(そっちだったか)
自分じゃ匂いが分かんないな。
「お土産あるよ。デルミ専門店のデルミ」
「食べる」
ユラはお腹に手を当てて即答した。




