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盤上のイレギュラー~獲得SP2倍の冒険者は、世界の計算を狂わせる~  作者: 上山マヤ
第2章 レベック編

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第25話 この世界の社会

「〈ブレイブ〉のタイミングが早いんだって!」

「違うよ! さっきのは、君が走り出すのが遅かったんだ」


 互いに一歩も引かずに口論する、チャールズとデイヴ。

 その剣幕に、俺は思わずため息をついた。


「いつもこんな感じなの?」


 疲労の色を滲ませながら尋ねる俺に、ヒラリーはからかうように笑った。


「今日は特別かな? 誰かさんの炎のせいで、熱くなっちゃったんじゃない?」


 そう言いながら、ヒラリーは手際よく〈解体〉スキルで4体目の解体を終わらせていく。


(ユラの解体さばきも見事だったけど……)


 〈解体〉スキルでの解体はこんな数秒で終わるんだな。

 物理的な技術、スキルでの解体で内容が変わったりするのかな?


「まあ、でも最高記録だね。1日で4体なんて」


 チャールズは議論を中断し、エナックから花火のようなものを空へと打ち上げた。

 発光した青い光が小さく広がり、やがて消えていった。


(チャールズもエナック持ちか)


「今のは?」

「運搬屋を呼んだんだ。さすがにこれ全部持って帰れないからな」

「ちなみに赤い信号弾は救難信号よ」

「へえ、そういうのもあるんだ」


(エナックに付いてる魔導具機能にもっと慣れとかなきゃな)


 デルミイノブを解体すると、大量の可食部と皮、角、骨などが素材として取れる。

 それが4体分だ。


(確かに、この量は運べないな)


 少しすると、謎のモンスターに乗った運搬屋がやってきた。

 足が異様に太い、六本足のトカゲのようなモンスターだ。

 大きな荷台を引いている。


 俺は思わずその姿に見入った。


(初めて見るモンスターだな……)


〈イピリア/水属性/レベル:5〉


(見た目が怖い)


 でかい動物って、だいたい怖いかキモいな、この世界。


 屈強な御者ぎょしゃの男が、荷台からチャールズを見下ろすようにして指を2本立てた。

 チャールズは首を振り、人差し指を1本立て返す。

 しばらく交渉が続いた後、御者が諦めたように肩をすくめ、チャールズが懐から硬貨を取り出した。


「ああいう交渉も、パーティリーダーの仕事なのよ」


 呆然と見ている俺に、ヒラリーがそっと耳打ちする。


(なるほど、運搬代の交渉か)


「よし、話はついた! 全員、積み込みを手伝え!」


 チャールズの号令で、俺たちは解体されたデルミイノブの素材を巨大な荷台へと運び始めた。

 ずしりと重い肉塊や硬い皮を持ち上げるたびに息が上がる。


 しかし、荷台を引く巨大なトカゲは、そんな重労働を気にする素振りもなく、大きなあくびを一つしただけだった。


 すべての荷を積み終え、汗を拭ったその時。

 チャールズは再びエナックを取り出した。


 すると、エナックから淡い光が溢れる。

 荷台に積まれた素材全体が、一瞬だけ青白い光の膜に包まれたように見えた。


「うわ、今のは……?」


 思わず声に出すと、チャールズが少し得意げに振り向いた。


「簡易封印だ。俺のマナと紐づけたから、この荷を正式に解除できるのは俺だけになった」

「封印ってことは、もう誰にも盗まれたりしないってこと!?」


(エナックにそんな機能まで付いてるのか?)


 俺が目を輝かせると、チャールズは意地悪く笑う。


「いや、盗める」

「えっ、じゃあ意味ないじゃん!」

「意味ならあるさ」


 今度はデイヴが口を挟んだ。


「封印された荷物を無理やり持ち去ると、『盗品』っていうタグが付くんだ。店で売ろうとしても買い叩かれるし、素材として加工してもタグは消えない。だから、よほどの価値がない限り、誰もリスクを冒してまで盗もうとはしない」

「へぇ……すごい仕組みだな」


 俺は改めて、荷台とそれを引く巨大なイピリアを見つめた。


 冒険者が獲物を狩る。

 専門の運搬屋が運ぶ。

 ギルドを通して市場に流通する。

 屋台がこれでもかって並ぶ。


 そこには、盗難を防ぐための魔法的なシステムまで組み込まれている。


(こうやって経済が回ってるんだ)


 ただモンスターを倒して終わりじゃない。

 ちゃんと社会が動いている。


 この世界は、単なるゲームの舞台じゃない。

 確かなルールと、人々の営みの上に成り立っているんだ。


 ◇ ◇ ◇


 レベックへ戻る頃には、日が落ち始めていた。


「威力がバラけるんだよな」


 つい、愚痴るように呟いてしまう。


 1体目以降はチャールズの指示通り、上級魔法は封印した。

 中級の〈インパクト・フレア〉だと致命的なダメージにはならない。

 もともとこの魔法は、単体の敵に使うタイプじゃないのかも。

 けど、杖のお陰か威力が上がってる気がする。

 

 俺は手にした杖を見ながら、さっきの戦闘を思い出していた。


「タケルは十分すごいよ。あの魔法って範囲系だろ? 単体にあの火力なら誰も文句言わないって」


 チャールズが察してか、フォローするように言う。


「そうなのかな? ありがと」


(そう言われるとちょっと照れる)


「チャールズは分かってないね」


 デイヴが不機嫌そうにぼやく。


「お? まだ続きをするか?」


 チャールズは交戦の構えだ。


「違うよ。タケルの凄さだよ。一発でも上級魔法を放っておいて、中級魔法を何度も撃てるんだ」

「そりゃ、使えるんだから使うでしょ」


 今度はヒラリーが不思議そうに話に割り込む。


「マナだよ! マナの総量が凄いんだ。魔法職はマナが切れたらお荷物になる。なのにタケルは、日が暮れるまで火力を落とさずに戦闘してたんだぞ?」

「そういえば……」


 チャールズはハッとしたように言う。


「すごいじゃん、タケル!」


 ヒラリーが笑顔で俺の背中を叩く。


「そうはいっても休みながらだったし。マナ管理はしてたよ」


(デイヴはそういう目線で見てたのか)


 俺には〈マナコスト軽減〉、〈マナ回復強化〉のスキルがある。

 そして、マナの最大値を上げる〈マナブースト〉。

 更には、シナジーボーナス「マナの福音ふくいん」でマナの最大値とマナ回復量が強化されている。

 これらがなかったら、とっくにマナは尽きていただろう。


「クエストは1体でも達成になるんだよね? 4体だとボーナスでも付くの?」


 話題を変えるように俺は言った。


「単純に4体分のドロップがあるっていうのと、ギルドの評価値が上がる。報酬自体は変わらない」


 チャールズは端的に答えてくれる。


「評価値か。まだ上に銀級シルバー金級ゴールドがあるんだよね?」

「デルミを100体倒しても銀には上がれないけどね」


 デイヴがさらっと言う。


「そうなの?」

「ギルドの評価値は開示されない。だが、同じクエストよりも、種類の違うクエストの方が評価値が上がりやすいと聞くな」


 チャールズが詳しく説明をする。


(みんなよく色々知ってるな)


「そういうのってアカデミーで習うの?」

「そうだけど、タケルは知らなすぎ~」


 ヒラリーがいたずらっぽく笑う。


「あー! やっと着いた。街から狩り場まで、遠いのが難点だよね」


 デイヴの顔に疲れが見える。


「タケル! ギルドで清算してから、メシ付き合わないか?」

「へえ、チャールズが誘うの珍しいね」


 ヒラリーが驚いた声を上げる。


 俺はマップとパーティ情報を確認する。

 ユラの位置はまだ街の中だ。


(宿にユラは戻ってないか)


「いいね。美味しいお店、教えてよ」

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